ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
ミナはクレイが出てくると思っていた。狡猾でいかにも切れ者の風貌のクレイとは逆にロードスという男、ハンサムな色男で天性の人を魅了する才能を持ち合わせている。
特に女性を魅了するであろう。
その事自体はロードス本人にとってはどうでもいいことであるが、それが武器になることは心得ている。
にこやかに、親しげに話しかけてくる。
蛇のように音も無く忍び寄り獲物を丸呑みにする危険な男。
ミナは、うかつに近づいてはならないと感じた。
「全ては作戦通りと言う訳ね。返しなさい。と言って素直に返すとは思えないけれど。返しなさい。」
強い口調であった。
「いいですよ。」
ミナはあっけに取られた。思わず口をポカンと開いてしまった。
「いいの?そう、良かったーー。」
そんなわけ、ないでしょ。
「ただし、僕とお手合わせをして頂きます。僕に勝てたなら、ロッキー君はお返しします。いかがですか?ミナ。」
3次元ディスプレーがミナとロードスの前にイキナリ現れた。
クレイである。
「なにを!何をばかげた事をしている、ロードス。予定外な行動はこれ以上見過ごせない。任務は既に終了している。すぐに撤退しろ。いいか、この事は始末書程度では済まされない。犯罪行為だぞ。」
そこまで言い終ったところで、『ブーーーン。』。
妙な音と共にクレイが消えた。
ロードスによってディスプレーの主電源が切られたようだ。
「時間が無い。どうするミナ、すぐに追っ手がやって来るだろう。」
ミナの瞳がギラリと輝いた。
「その話に嘘はなさそうね。もちろん受けて立つわ。」
ロードスは、嬉しそうに指を鳴らした。
「そうこなくっちゃー、たまにはおいしい
事も無いとな。こんなショーバイやっていられない。いや、もとい、これは、仕事だ。重大な任務なんだ。」
ミナは、訳の分からない男も居るものだと思った。
「場所を変える。付いて来い。」
今更、気取っても手遅れだ。
「・・・・・・・・・・・」
ロードスは、自分の機に戻った。
チャップが野生の感で、しきりに止めたがミナは、「ごめんチャップ。」と誤るばかりである。
二人は砂漠のど真ん中で停止した。
追っ手が来る気配は無い。さっきと同様にロードスは現れた。
次にロードスが指を鳴らすと辺りの風景が一変した。
仮想空間、ヘリオポリスをここに構築したのだ。
「宇宙空間や砂漠でのファイトじゃ味気ないだろう?こんな美人とのランデブーは豪華絢爛、魅惑の魔都市がおあつらえ向きさ。粋な計らいだろ。俺達によって、破壊しつくされるだろうがな。この魔都市もかすんでしまうほどのミナは、死に場所など選ばないだろうがね。」
ロードスはおべんちゃらを言う男では無い素直な気持ちを表現しただけだった。
しかしミナは、じれていた。
ロードスの余興も能書きも人間の女性には効果絶大であろうが、ミナには通用しない。
と言うか、意味が分からない。
もう既に臨戦態勢に入っていた。それを十分に察知していたロードスはまた指を鳴らした。武器庫に二人は居た。
「スリー・オー・ワンのトレーニングフィールド?」
「いいや。ここは仮想空間ではない。現実空間だ。似て非なるものだ。ここでの死は、現実空間での死を意味する。しかし、それ以外は同じだ。」
「ロンに聞いたことがある。仮想と現実をリンクさせることも技術的には可能だ。と、これがそうなの。」
「そう言うことだ。ここにある武器はどれでもオンロードすればどこに居ても装着可能だ。使い方は分かるな。使いこなせるかは別の話だが。他の場所にある武器を使いたければ御自由にロードして来て、どうぞお使い下さい。制限は一切しない。スリー・オー・ワン・テラの武器が好みならそうすればいい。僕はここにある武器で戦うと約束しよう。トリプレックス・エレンの名誉にかけて。」
「それがあなたのクラス?」
「そうだ。スリー・オー・ワンじゃないので戦いやすいだろ。スリー・オー・ワンの友人が多いようだからね。」
「いいえ。あいにくと、あたしは、クラスの違いで人を見たりはしないわ。」
「それは、それは、人間にしては珍しい。」
ロードスは、含み笑いをした。
ミナはどの武器も馴染み深いものであったがここには魔剣アカツキが無かった。アカツキをロードすることも考えたが、あの魔剣に触れることすらできなかった。刀身を見ただけで気絶する有様である。
実戦での使用など不可能である。
使い方すら定かではない。
重力制御装置付きフライトスーツを装着し、とりあえず持てるだけの武器を手にした。
と言っても、右手に手榴弾。左手には握られたのはエレンスコールと言う散弾タイプの銃。
それだけだ。
「それだけでいいのか?」
「あなたこそそれでいいの?」
ロードスは、ミナよりさらに軽装だった。何も持ってはいない。
「必用な時必用なだけ、ロードするから。今、持っている必要は無いだろ。」
「あたしだって、そうよ。知ってるなら、聞かないでちょうだい。相手に手の内を見せるようなことする訳ないじゃない。バカにしないでよ。あたし、こう見えて、プロなのよ。」
「プロ?へーーー。何の?金魚すくいとか?」
「あなたねーーー。素手で勝負する?」
「いや、やめておく。素手で君に勝てると思うほど俺は愚かではない。」
「早くはじめましょよ。何か調子狂っちゃう。あなたとしゃべっていると、デスプと話しているのと同じぐらいイライラするわ。違う種類のイライラだけど、何か押さえられないのよねーー。」
無駄口もここまでのようだった。
「では、そのウップンを晴らしてもらいましょうか?まいります?レディ?」
「イエーーーー。」
ミナが手榴弾を高々と振り上げた。
武器庫を飛び出すと武器庫は消えて無くなり、二人は教会の大聖堂の中に居た。
対峙する二人。
その距離20メートル。
ロードスの一発の銃声によって戦闘開始のゴングが鳴らされた。
全てのステンドグラスが吹き飛び一瞬にして大聖堂は吹き飛び廃墟と化した。
一発の銃声で?
いや、ミナの放った、ミサイル並みの破壊力のある手榴弾が時差無しで二人の至近距離で爆発したのである。
ミナの戦闘開始の手粗いゴングであった。
「やりますねー、これは予想以上に楽しめそうだ。」
ロードスは、ほくそえんだ。
二人は摩天楼が連立してそそり立つ宮殿に潜んでいた。
瞬間移動は、ミナだけの十八番ではない。
相手の位置は確認済みである。
ロードスが先に仕掛けた。
摩天楼が一つまた一つと地中深く沈むように崩壊し消えていった。
二人が潜む塔のみが残された。
「さて?どう出るミナ。」
ロードスの潜む塔が揺れた。ミナの殺人剣が振り下ろされた。塔が真っ二つに裂けた。その時ミナの潜む塔はミリ単位にきざまれて閃光と共に跡形も無くなった。
王宮園を破壊しつくし、戦場は市街地に移った。
すさまじい勢いで町並みがなぎ倒され、死闘が何百回何千回と繰り返された。
暗雲たなびく廃墟の中、身を隠す物は何もなくなった。
地平線に広がる焼きただれた残骸の中。二人は、5キロ先の敵と対峙していた。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三