ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
「気分を害されたようで、まことに申し訳ございません。我々には社会の安全を守る役目がございます。その選択に変更はありません。協力して頂けないというのなら、独自に探し出しますが、もし捜査の妨害をなさるようでしたら、こちらも打つべき手段を打たざるを得なくなります。そうならないことを願っています。」
「・・・・・・・」
国家権力ごときに、そう言われて、シッポ丸めて引くようなミナではない。
ミナはクレイが宣戦布告したのだと受け取った。これからはあらゆる手段を行使して打って出てくるだろう。静かな闘志が湧き上がった。
「ご親切にありがとう。あたしからも忠告をさずけましょう。あなた達は自分達がいつも正しくって正義の味方のつもりでいるのでしょが、とんだ誤解よ、力を持った者が陥る、高慢で愚かな偽善に過ぎないわ。何が正しいか、何が誤りかはマザーの決める事ではない。法は単なる偽善の隠れ蓑に過ぎないわ。本性を見せなさい。あたしは依頼人を守るのが仕事。依頼人に敵対する相手が誰であろうと、逃げたりしない、任務を遂行するだけの事よ。」
クレイは視線を落としこれ以上の会話は生産的でないと判断したようである。
「よくわかりました。お気の済むよう、なさるといい。我々もまた仕事です。正義を振りかざすつもりは毛頭にございません。正義を欲するのは人間だけに見られる習性です。我々は、微力を尽くすまでです。」
ミナが微動だにせず、睨みつけていた。
これにはいささか面食らったようだ。
「無礼の数々お許し下さい。これもまた仕事でして、因果な商売です。ご忠告は真摯に受け止めたいと思います。それではまた近い内にお会いしましょう。」
冗談でお茶を濁したつもりらしい。
その言葉を言い終わると通信は切れた。
ミナもこれと言って返す言葉を持たなかったので、相手はそれを察して、気を利かせて先に切ったと分かる。
クレイの戦闘開始のゴングは速やかに鳴らされた。
ビルからの連絡でロッキーのアジトが次々に爆破せれているとの連絡である。なりふり構わぬ行動に出てきた。あぶりだすつもりである。
このままではロッキーが危ない。
ミナはすぐに動いた。
現在ロッキーの潜んでいるモロー島へ飛んだ。
当然マークされていることは心得ている。ミナは露払いを忘れていない。
フライングジャッカルの群れがミナ達を追っていた。
彼らに狙われたら、フルセットの艦隊も空の藻屑と消えるだろう。
しかしミナ達はコスモプラント軍の艦隊ではなかった。
ミナは、後方はもちろん、両サイドはおろか、前方からも刺客に囲まれていることを知っていた。
「ガイャご用達の海賊様一行の御到着よ。チャップ。ファイヤーバード。用意はいい?丁重にもてなしてあげましょう。」
チャップの目の色がエメラルドグリーンから、獲物に久々にありついた野獣の本能が目覚め、ルビーレッドに変わった。戦闘モードに切り替わったのだ。
200匹以上はいるフライングジャッカルは統率のとれた一つの生き物のように一糸乱れずミナ達の退路を封じていった。
フライングジャッカルの攻撃エリアに入ったとたんにビーム砲の雨が四方八方から降ってきた。
一発でも当たればただではすまない。
照準をポイントして外れるはずのないビーム砲がかすりもしない。
狙いをつけて撃った時にはもうそこには居なかった。
ミリ単位で弾道を予測してかわしていった。
恐るべきすばやさと予知能力である。
ミナの戦闘能力は飛躍的に進化を遂げていたのだった。
スクランブル状態となり、相打ちを避ける為のシステムが稼動して、フライングジャッカル達の攻撃の手が一瞬緩んだ。そのチャンスをチャップは見逃さなかった。ビーム砲の十分の一程度の火力しかないスコーピオンビームが次々に発射された。
接近戦専用のガンで貫通することに重点を置いている。
つまり急所のある一点を打ち抜かなければ相手に大きなダメージを与えることは出来ないガンである。
しかしフライングジャッカルの急所、をスコーピオンビームの毒牙が貫いていった。
あっと言う間に20匹ものフライングジャッカルが急降下した。明らかに飛行推進機能が破壊されていた。
たった一回のアタックであった。
しかしチャップの一撃はフライングジャッカル達を驚愕させ震え上がらせるには十分すぎる猛攻であった。
フライングジャッカル達は、野生の本能で相手を悟ったらしい。
もうミナ達には目もくれずに仲間を救出に向かう者を除いて、一機残らず退散した。
彼らは、バカげた戦い。無益な戦いはしない。勝てないと判断すれば直ぐに兵を引く。コストパフォーマンスが徹底されたシステム下で動かされていることを示している。
攻撃も一糸乱れる事はなかったが、引き際もまた見事の一語に尽きる。フライングジャッカルがミナ達を襲うことは二度とないであろう。
目の前を通り過ぎても、鼻をヒクヒクさせるだけだ。
ミナは何もせずにただ見ていただけであった。チャップの獲物を横取りしては気の毒と思ったからだ。
ミナの能力をチャップはシンクロして利用出来るからだ。
これこそが本当の阿吽の呼吸である。
ガイャがフライングジャッカルでこの機を落とせると思ったか?どうは知らないが、ゾフィーはそう考えたに違いない。
「チャップ、ファイヤーバード。ご苦労様。みごとなハンティングだったわ。あたし達に歯向かうなんてナメてるわよねーー。」といってチャップの頭をなでた。
気持ちよさそうにチャップが耳を寝かせ目を細めた。もう攻撃色は消えて元のエメラルドグリーンのやさしいつぶらな瞳に戻っていた。
「さー急ぎましょ、ロッキーが危ない。」
チャップは全速力で飛行した。
ミナはこれが罠であると分かってはいたが行かずにはいられなかった。
モロー島の上空に着いたミナ達は、すぐには上陸しなかった。
どうも様子が変であると思ったからである。そこに1機の何の変哲も無いクルーザーが接近して来た。ミナに緊張が走った。至近距離で停止したが何かを仕掛けてくる様子は無い。無防備この上なく、メインハッチが開き一人の男が現れた。無警戒の上に丸腰である。
ミナもそれに合わせてすぐにシールドを解き、フロントウインドウを開いた。なぜ武装もせずにいるのか理由がすぐに分かった。その男にそんな物は必要無いのである。その男自身が核弾頭並みの破壊兵器であった・
「初めまして、クレイの同僚でロードスと申します。先日は、クレイの奴が無礼を働いたそうで、わたしからもお侘び申し上げます。」
ミナは拍子抜けした。憎めないのが正直なところだ。
クレイとは、まったく違う波長の持ち主である。ララやロンとも違う。
「お見知り置きを。」
「あたしの自己紹介は必要ないようね。用件をうかがうわ。」
臨戦態勢だけは崩さなかった。
「既にロッキー君は我々が預かりました。フライングジャッカルの相手をして頂いている間に身柄を確保したのです。ご安心下さい、手荒なまねはせずに済みました。ただ不自由とは思いますが。しかしそれは今に始まったことではないでしょうから。」
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三