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ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)

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 こんなに爽やかな目覚めはこの場所でなくては得られないものである。
 ララとミナの住まいはビルが立ち並ぶ居住区の高層階にあり、これと言って不自由さは無いが、緑の自然公園に囲まれたこの一軒家とは雲泥の差である。もっとも仕事に追われ、数時間寝に帰って来るだけなのでベッドがあればそれで十分だった。そんな生活が長く続いているのでこの場所に流れている時間はミナにとって別世界に思える。
 ドアがノックされる音がして、ミナが「どうぞ。」と言うと、その声に反応してロックが自動的にはずれ、DJが頼みもしないのに朝食を運んできた。
 ミナはもぞもぞとベッドから這い出してきてDJが用意した席に着いた。
 ミナは半年近くユリスと二人で住んでいたが、ミナにとってはここに来た時からの当たり前の毎朝の光景であった。
 「ミナ、おはようございます。お目覚めはいかがですか、夕べは遅くまで起きてらっしゃったようですが。それにしてもしばらくお見えにならなかったので、この館は死んだようでしたよ。ミナが居られないと、わたくしもさみしいです。はい。」
 ミナは食べながら、顔を赤らめてたずねた。
「いやだー、昨夜のこと、DJ聴いていたの?はずかしい。」
 DJは慌てて答えた。
「めっ、めっそうも御座いません。鍵のかかった部屋をのぞき見るような、わたくしではございません。ただ珍しく、おきてらっしゃるので、どうしたのかなと思い、お聞きしたまでです。」
 ミナはホッとして胸をなでおろした。昨夜は人には聴かれたくない事があったらしい。
 ミナはDJが初めてここに不法侵入したときから、変わらず最高のもてなしをしてくれた。なぜこれほど良くしてくれるのか不思議でしかたがなかった。ミナは食事をしながら尋ねた。
 「ねーDJ、あなたはどうしてあたしにこんなにも良くしてくれるの?ユリスに頼まれたからなの?」
 DJはしばらく考えた。言うべきか、言わざるべきかを迷った。そこにユリスが目覚めてベッドから起きだした。
 ミナにキスをして、背伸びを一つして、DJに助け舟を出した。
 「ぼくはDJに指示を出したりはしない。ぼくとDJはそんな関係ではないし、DJに指示を出す必要もない。それに言っておくが、DJはきみ専用の執事でもメイドでもない。ひがんでいる訳ではないがDJはぼくには何もしてくれない。別にしてもらいたくも無いがね。DJはとても優秀な防御システムプログラムであると同時に、過激で容赦のない、あらゆる戦闘における戦術の参謀プログラムでもある。政府側について司令部に収まればコスモプラント軍は無敵になるだろうよ。なぜこんな所に身をひそめているのか疑問だ。DJにとってあそこはどうも肌に合わないらしい。噂のミスタードラゴンフィストがDJの真の姿さ、いつからここに居るのかも分からない、俺が追われてここに逃げ込み、居候を始めた時にはもう居たからな。それ以前の事情はよくは知らないし、聞く気も無い。ミナの世話をやくのは、たぶんDJの純粋な意思、つまり趣味か暇つぶしだと思うよ。どっちにしろ、ミナは特別なゲストであり、格別に気に入られている。DJとは長い付き合いだが、俺が来てから侵入を許したのはミナが初めてだ。多くのつわものが攻略を試みたがいずれも悲惨な結末を迎えることとなった。生存者はいない。俺が侵入した時だって手荒に扱われたし、DJは俺には、ミナのように親身になったりはしない。DJにとって、ミナは特別なんだ。それで十分だろ。DJが誰だっていいじゃないか。デスプだってDJに劣らず、お前には何でも良くしてくれるだろ?あいつにも同じ質問をしてやったらどうだ。あいつ泣いて喜ぶぞ。」
 ミナはそれもそうだと思ったがデスプには口が裂けてもそんな事言えそうにない、心の中では感謝しきれないほど感謝しているし、DJと同じように頼りにしている。
 この二人がミナの言う事を断ったり、いやな顔をした事はただの一度も無い。デスプはプライドが高く、複雑な感情をミナに抱いているので、ポーズでめんどうくさそうにしているが、まったくその逆で、ミナと一緒の時間を一番大事に思っていた。
 「いやよ、デスプはいつもあたしをからかって、面白がっているのよ、何かと言えば、あたしをいじめるし、このあいだなんか、疲れちゃって寝ちゃったら、寝るんじゃないって言って、あたしの頭をヘッドレストで小突き回すのよ。乱暴者で、ヒドイ奴なんだから。」
 ユリスはあきれ返ってミナに言った。
 「まあー、デスプに乗って、居眠りが出来る、ミナの図太さを誉めてやりたい所だが、それは危険過ぎるだろう。あいつの通常フライト時の加速減速のGは普通の人間では生死に関わる数値だ。まー、ミナにとっては心地よい揺れ具合なのは分かるが。いくらお前がタフだと言っても生身だ、あいつにとっては気がきじゃないのさ。別に奴に悪気は無い。」
 ミナはユリスがデスプのかたを持つのが気に入らないらしく、ふて腐れた。
 「そうかしら?疲れていて、反撃する気力も無いのをいい事に、ここぞとばかりにふだんの仕返しに小突いたに決まってるんだから。」
 ユリスはミナがかなり根に持っているらしく、へそを曲げたミナに付き合っていても、らちがあかないので、収拾することにした。
 「それはデスプも悪いな、レディの扱いを知らない奴なのさ、女の扱いに関するプログラムは奴に必要ないからな。」
 今度会ったら、良く言っといてやるから。デスプもあれでいてけっこう忙しいから、そうはミナの相手ばかりしていられない。ミナにちょうどいい機があるから、そいつに乗るといい。チャップに運転してもらえば、いつでも寝ていて移動できるぞ。それにデスプでは目立ち過ぎるので、仕事にも町乗りにも向かないだろう。」
 ミナの顔が期待と興奮で輝いた。
 「本当に?うれしい、ユリス。デスプではでか過ぎるし、今のスクーターではちょっとあたしには遅すぎるのよねー。チャップもいつもあたしと一緒にいるから、あたしに似てきてスピード狂になっちゃって、不満なの。もっと飛ばせって、うるさいのよ。」
 ミナのエアースクーターはフルチューンの改造車で、可能な限りパワーアップしたモンスターマシンに仕上げられている。決して軽い乗り物ではない。
 まずミナのスクーターについてこられるようなマシンは街中では皆無だろう。
 ミナのパワーでスクーターをねじ伏せて、飛んでいる。マシンに跨り飛んでいると言うより、マシンを振り回していると言う表現が正しいのだ。
 さすがの怪物マシンもミナの圧倒的なエナジーパワーの前では、カワイイ子猫ちゃんに過ぎないのだろう。
 次元が違い過ぎるのだ。
 ユリスは朝食の終わったミナをガレージに連れて行った。
 何台かタイプの違う小型宇宙飛行船があったが一番奥にMINA&CHAPUのロゴがシャープなデザインで刻印された流麗で気品ある、特製の機体があった。
 ミナはその姿にひと目見て心奪われた。
 「なんて綺麗で優美なマシンなの。素敵。」
 コンパクトにまとめられてはいるが、その秘められたポテンシャルが姿に滲み出ており、いかなるマシンが隣に来たとしてもその存在感は圧倒的で、他はかすんで見えるであろう。