ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
ユリスはクスッと笑い、右手を大きく横に振り、「いやー、遠慮しておくよ、お前たち二人のクレージーなフライトと喧嘩の仲裁に付き合わされるくらいなら、歩いて帰るよ。船酔いどころじゃ、済みそうにないからな。それに別に行きたい所があるし、こいつとゆっくり空を飛んでいる方が俺の性には合っているんだ。」と言って、後ろを指差した。
骨董品に近い旧式でお世辞にも、いかしているとは言えないミニサイズのエアーカブがユリスの後ろから付いてきた。
「うれしいぞ、ユリス、僕の良さが分かるようになるとは、お前も大人になったな。」と言って、宙にふわふわ二回浮いて喜びを表現した。
エアーカブは、4―7歳ぐらいの男の子の声だった。あまりにそのしぐさが可愛かったので、ミナは目を丸くして、思わずほほに両手を当て、「可愛いいー、」と声を上げた。
ユリスはミナが気に入ってくれたことに満足し、自慢げに紹介した。
「カプチーノだ、ミナ、俺のマブダチさ。」
ミナはカプチーノに手を振って、挨拶をした。
「カプチーノ、ユリスをよろしくね、あたしはミナ、ユリスがもし誰かと浮気したら教えて頂戴。」
ユリスは顔に手を当てて、苦笑した。
「ミナ任せておけ、もしユリスが他の女を口説いていたら、僕がミナの代わりにユリスをとっちめてやる。ミナを泣かす奴は、この僕が許さないんだから。」そう言うと、体を揺らしながら、さらにフワフワと上昇した。
ユリスはそれを見て思った。カプチーノのこのはしゃぎようときたら、今までにこんな事は一度もなかった。
一見おっとりしているように見えるが、ユリス以外の者には、カプチーノは、とても神経質でカンシャク持ちなんだ。
ミナには不思議な力があることは知っていたが、その本質を垣間見たように思えた。
わずかな会話の短い時間にミナとカプチーノには自然過ぎて気付きもしない何かが起こったのだ。
コックピットが閉まり、ミナとデスプは飛び去った。
ユリスとカプチーノは手を振り見送った。
ミナの戦闘能力は目覚ましい進化を遂げていた。
しかし更なる進化がミナには必要だった。その為には過酷な試練を乗り越えなくてはならない。
ミナにとって全てはエスパー戦士としての次のステップに到達する為の踏み台であった。
反撃の狼煙 ファーストコンタクト
ビルは着実にロッキーに迫っていた。ミナにも逐一その報告が寄せられていた。
ビルはロッキーの行動パターンを見極め、待ち伏せすることにした。
肉眼で見ることは不可能だが、アンドロイドのマシンノイズを分析して姿を浮かび上がらせるゴーグルを装着した。
ロッキーは週に一回は元の主人の家の近くにやって来ている事。ねぐらは一定ではないが、幾つかは確認出来た。
しかしロッキー側にもビル達の行動はマークされており、やすやすとは姿を現してはくれない。
ミナがロンとバトルを繰り広げている時、緊急呼び出しが入った。後一秒遅くかかってくれれば久しぶりにミナが勝てそうなその時だった。
ミナは惜しげもなく、バトルを中止した。
「ロン、ホットラインが入ったわ。今日はこれまでね。残念だわ。もうチョッとだったのに」
ロンは命拾いをしたが、そんなことおくびにも出さない。
「いやーもう少しやりたかったんだがなー、しかたないなー。」といって、額の冷や汗を拭いた。
ミナはビルに合流するまで手を出さないよう指示を出し、現実空間に戻って来た。
そして、チャップと共に向かった。
ビルとその相棒のマイと合流したのち、ミナはロッキーが潜伏している廃屋に向かった。
ミナはもちろん肉眼ではロッキーが見えないのだが、ミナには第三の目、物質感知能力があるので、目で見るより多くの情報が届いている。
「ビル、マイここからは危険だから、あたし一人で行く。あたしになにかあったら、すぐ逃げるのよ、いいこと。」
ビルはすかさず「冗談じゃない、自分だけいいとこ持っていく気か。横取りはないだろ。ミナ。」
マイは、「そうよ、ずるいわ、あたしだって、ビルにこのブラスターの使い方教わったのよ。」といって譲らない。
ミナはいざと言う時は守るだけなら何とかなると思い二人の同行を許可した。
ミナを先頭にマイを挟んでビルが続いた。
この廃屋はホテルの跡で部屋が多く複雑な構造をしていて増設を繰り返した為、中が迷路のようになっていた。
しかしミナにはこの建物の様子は手に取るように分かっていて、ロッキーのいる部屋も確認出来た。
三人はその部屋の前に来て、ドアノブを引いた。
ミナは武器を構えず、ホルダーにおさめたまま一人中に入った。
後ろの二人は非常時に備え銃を構えていた。
ミナが後ろ手に人差し指を軽く立てた。
安全を確認したサインだ。
「みんな、銃を納めて、ここには必要ないものよ。」
部屋の中央にロッキーは居た。
戦闘用ジャケットも身に付けておらず、体を透明にもしていなかった。
ビルとマイはゴーグルを外した。
ロッキーは大きな体をしたシェパードで、自然界ではこれほど大きな犬は存在しないだろう。
かなりのパーツが機械に置き換えられており、さらに精悍な印象を受ける。
「お待ちしておりました。シークレットサーチャー、ミナ。ビル、そしてマイ。あなた方が僕を探しているのは知っていました。しかしゾフィーの追っ手も僕を血眼になって探しておりますので、なかなかお会いすることが出来ませんでした。やっとゾフィーの追っ手を巻くことに成功したのでお会いすることが出来ました。」
ロッキーはそう告げると三人を部屋の奥に招きいれた。準備しておいたソフアーに腰掛けるようすすめ、ロッキーも向き合いおすわりをした。ミナは少し暗い気持ちで話始めた。
「ロッキー、知っての通り、あなたの件で多くの犠牲者が出ました。決してあなたを責めているのではありません。あなたは当然の事をしていると理解しています。しかし問題の解決は困難を極めております。このまま逃げ通せるとは思えません。我々があなたに関わっている理由は依頼人のボブからの捜索依頼があったからですが、ボブはあなたの無事を願っているだけで、それ以上のことは何も望んでおりません。せめてあなたの姿を録画して、ボブに届けたいと思います。実はここに入る前から、録画されているのですが、了承していただけますか?」
ロッキーは即答した。
「もちろんです。その為にあなた達をここに呼んだのです。」
ミナの胸にあるペンダントが録画中であることを示すランプを点灯させていた。
ロッキーはミナのネックレスのペンダントカメラに向かって話し始めた。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三