ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
ミナも自分で立ち上がれないほど全エネルギーを使い果たしていたので、了承した。
ロンに支えられながら、やっとのことで、デスプに乗り込んだ。
「たのんだぞ、デスプ、ボロゾウキンでも、もう少しシャキッとしているだろう。少し休めばプリン位にはなるだろう。」
デスプもデスプでいたわりの言葉すらなかった。
「ロン始日から飛ばし過ぎだぞ、コックピットから降りられずに、明日の朝まで居座られたら、いい迷惑だ。せめて一人で歩ける程度にしといてくれ。」
『デスプーーーー、おぼえていらっしゃいー・・・・』
ミナが歯軋りしたが、反抗する力が残されていない。今日の対戦の分析で忙しい。
ロンは「分かった、分かった、」というと自分の愛機へと向かって歩いた。
当のミナはと言うと、自分の回路内に閉じこもっていた。
つまり、寝ている。
デスプの言うとおり、朝まで目覚めそうにはなかった。
デスプにとっては屈辱的とも言える低速飛行で家路につくはめになった。ミナの睡眠の邪魔はしたくない。
翌日、そのままミナは、出勤して行った。
ララがミナが2,3日帰って来なくても心配することはない。ミナの仕事は、張り込みが始まれば2ヶ月帰らないことなど日常的にあるからだ。
ララも、ミナのお守りをしているほど暇人ではないし。
カードX101の現場仕事はビルに追ってもらい、手がかりがあり次第連絡が入ることになっている。
ビルが単独行動でやり過ぎないようにとパートナーをつけることにした。
ビルは断固として断ったが、新人教育も大事な仕事だとか言って、押し付けることになんとか成功した。
ミナも主に情報収集で飛び回っていた。そして午後の仕事を早めに切り上げ、ほぼ毎日ロンとの一戦へと向かった。
それに付き合うロンもロンだが。
初日の経験から、一日に一戦と言う約束で手合わせをしてもらった。
二ヶ月経ったが、ミナは、未だに一勝も出来ていない。
しかし武器や兵器の扱いについてはロンをして、「俺を超えた。神業的である。」と言わしめた。
ララも時々は手合わせをしてくれた。
ロンが用事でどうしても来られない時のピンチヒッターである。
しかし、打ったのは、ヒットではなく、ホームランだった。飛ばされた玉はミナ自身だ。ララに容赦と言う言葉は無い。
改めて、ララの恐ろしさを体感するミナだった。
色々なタイプの戦士がいて、様々な戦術を用いる。同じ条件の戦闘はあり得ない。バラエティーに富んだ様々なシュチュエイションで実践訓練が行われた。
ララをして、独創性と応用力の豊かさ。大胆にして、確実な技。格闘センスつまり構成力と創造力は神がかり的な天才だ。と言わしめた。
ミナに必要なことは、後は実践を積み重ねていくしかないのである。
ミナの相手は百戦錬磨のつわもの殺人マシンである。
そして更に三ヶ月が経過した。
ロンもララも同じ見解に達した。
スリーオーワンのどのメンバーでさえ、楽にミナに勝てるなどと思う者はいないだろう。と言うものだった。
そのころやっと五回戦えば一度位はお世辞で勝たしてもらっていた。
ミナも自分の力量で勝てたとは決して思ってはいないが、ミナにとっては達成感が十分に味わえるものであった。
初めて勝った日のことである。
右手を高々と上げ、体全体で喜びを表現しながら現実世界に戻って来た。
すると、目の前にユリスが立っていた。
ミナは自分の目を疑ったが、すぐに我に返り、ユリスの胸に飛び込み抱きついた。
二重の喜びで訳が分からなくなっていた。ユリスは子供を抱き上げるようにして、高々とミナを持ち上げた。
「モニターで全部見ていたよ、ぼくより強くなったね。ぼくでさえ、ロンにはなかなか勝たせてもらえなかったんだ。今ではまったく勝てないだろうよ。」
ミナは得意げに、「ユリスのカタキを取ったよ。」といって鼻の下を人指し指で擦り、自慢気だった。
ロンが少し遅れてヘトヘトになって戻ってきて、愚痴をこぼした。
「お二人さん、いいシーンで悪いんだが、悪役のロンおじさんを少しはいたわって欲しいものだね。ミナの相手はこちとら、命がけでやってんだ・・・・・」
「ごめんなさい、ロン・・・」
ミナはあわてて駆け寄りロンの大きな体を支えて、椅子に座らせた。
「ロンのおかげで自分でも驚くほど上達したと思うよ、デスプはまだまだこんなんじゃ駄目だって言うけれど。」
ユリスは戦闘の分析を始めた。そして報告した。
「ミナ、欠点は幾つかあるが、ロンも分かっていてもなかなか手を出せない。それを上回る技量を身に付けた。戦術の組み立てに甘さがあるから、その辺を研究すると負けなくなる。ロンとの対決では、勝ち負けは時の運も左右するから気にしないでいい。それより内容を重視してこれからは戦うといい。勝ちから得られるものは何も無いのだから。」
ロンは両手を広げて、お手上げのジェスチャーをして見せて。
「ユリス止めてくれよ。俺はミナに負けたかない。もう少し勝たせておいてくれ、これ以上強くなられたのでは、師匠としての顔が丸つぶれになるじゃないか。」
ミナはおかしくて、無邪気に笑った。
ユリスも心から笑った。
ロンはウケタと思い、にんまりとして満足げだった。笑わせるつもりで言ったのではないのだが・・・・・。
帰り支度を済ませて、各々の機に向かった。ユリスはミナを見送ろうとして一緒にデスプの方に歩いて行った。
ミナはコックピットに着座して、チャップをひざに乗せ、撫でながら言った。
「チャップ、お待たせ、デスプのお守り、ありがとうね。」
デスプは飛び上がらんばかりに敏感に反応した。
「ふざけんな。このねずみの世話まで俺に押し付けといて。なんでこいつに俺がお守りされなきゃなんないんだ?逆だろーー。」
チャップむくれる。
ミナは平然と答えた。
「チャップはねずみじゃありません。かわいくて、おりこうなイタチです。ねずみとイタチの区別も分からないの?チャップは気のきかない誰かさんとはちがいます。」
デスプは更に激怒した。
「ネズ公だろうとイタ公だろうと、どっちだっていい。お前のペットにお守りされた覚えは無い。」
デスプは言っちゃーいけないことを言って、ミナに逆切れされてしまった。
「デスプあなたを見損なったわ。チャップはペットなんかじゃありません。あたしの大事な、大事な親友なんだから。失礼にも程があるわ。より大変な思いをした方がお守りをした方に決まってるじゃない。チャップの方が絶対偉かったんだからーー。」と言うと、チャップがそうだそうだと言わんばかりに、腰に手を置き、胸を張り、うんうんと縦に2回首を振った。
この会話を長引かせるとデスプの反撃がやってくるので、攻勢のうちに切り上げるのが得策だと踏んだ。
ミナの関心はすぐにユリスへとむけられた。
「そんなことより ねーユリス一緒に乗って行かない?」
ミナがコックピットから体をせり出して言った。
今日の所は完全にデスプを手中に収め、掌握しているらしい。
さすがのデスプも絶好調のミナにあったら、かたなしである。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三