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ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)

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 三十分もすると、ミナは追い詰められ、逃げ場を失いサイコビームの挟み撃ちをくらいゲームオーバーとなった。
 現実空間に戻ったミナは汗だくで息を荒げてまだ仮想空間に居る感覚だった。
 死ぬ瞬間もどって来るので痛みは無いが、さすがのミナも極度の緊張が強いられ、いい気はしない。
 立っていられず、ロンに進められ、丸い球状の椅子に腰掛けた。この椅子は、座ると形が変化してもっともくつろげる形状に変化してくれる。
 「ロンあたしの負けね、かすり傷一つ与えられなかった。」
 ロンは戦いの分析をした。
 「いや、いい戦いだった。なにより動きがよかった。勝敗を分けたのは、武器だった。ミナは、ブーメランカッターの使い手としては右に出る者はいないだろうが、空気の抵抗が小さい分サイコビーム有利と言える。足の遅いブーメランカッターと速度を自由に変えられるサイコビームでは最初から勝敗は決していた。三十分以上持ちこたえた事が奇跡に近く賞賛に値する。決してミナの負け試合では無い。どちらかと言えば勝ちだ。三分以上持ちこたえられれば神業の部類だろう。サイコビームはそれほど優れた武器なんだ。サイコビームをマスターしてから、第二ラウンドに進むとしよう。マスターするまでは再戦に意味は無い。分かったら、早くマスターすることだ。」と言って、棚からサイコビームを取りミナに手渡した。本物のサイコビームを現実世界で見ると実に邪悪で不気味な形状をした兵器であった。突起が無数にあり、三百六十度何所からでも発射出来る。
 ミナはそれを左手で握った。握った瞬間、タコの足のような食指が巻き付くように手と一体化して、よりグロテスクな様相を呈した。
 「これがサイコロビーム?グロイーーーー。」グロテスク。と言いたかったようだ。単語が出て来なかった。
 「サイコロじゃない。サイコだ。正式な名称は、サイキックスタンビームガンだ。そんな長い名前、誰も覚える気が無いから、サイコビームと言うことで手打ちをした。どうだ?ウンチクあるだろ。」
 『いらん、ウンチクひけらかして、それで、あたまがいいつもり?』
 「なんか、言ったか?ミナ!」
 「イエ、イエ・・ロンは、なんでも知ってて白痴だなーーって・・・・」
 「それを言うなら、博学だっつーーーの。」
 「うるさい。そのぐらい知ってるわよ。・・・そんじゃ、サイコロでいいじゃない・・・なに、こだわってんのよ・・・どうでもいいくせにーーー・・・・」
 逆切れだ。
 その言葉とは逆にミナは以外にもこれがお気に入りのようだ。
 スタンダードな武器なだけに、マスターしなければならない。
 ロンが空き缶を五十メートル先に五個並べた。どのような方法でも良いから、一発で全部打ち抜くよう命じた。ミナは後ろ向きでしかも真上に向けていきなり発射した。ロンとの戦いの中でこの銃の恐ろしさも特徴も使い方までロンに実戦でレクチャーしてもらったのも同然なのだから、もう既にミナにとっては自分の一部と変わりは無い。
 相手の技を一度見ただけで自分のものに出来る。この能力こそミナが只者ならぬ一面である。
 真上に放ったはずの破壊波は上空で向きを変え、五つに分かれると、生き物のように絡み合いながら飛び、別々の方角から、五個の缶全てに命中し倒すこともなく一センチほどの星形の穴を開けた。
 その間ミナは一度も振り向いていない。気配だけで見えない相手を打ち抜いた。ロンは惜しみなく拍手を送った。
 「ロンどう?又戦わせてくれる?」
 ミナは振り向き、意気込んで申し出た。ミナは銃を持たず、もちろんマスターしたサイコロビームと共に、仮想空間へと入って行った。
 ミナとロンが破壊した町は既に元に修復してあった。
 いきなりサイコビームの打ち合いが続いた。
 「サイコロビーーーーーーーム。」
 「口でいわんでもいい。サイコだーー。」
 「スペシャル・サイコロビーーーーーーーム。」
 「口で言わんでもいい。何処がスペシャルじゃ?それにサイコだーーー。」
 「チョーーー、スペシャル・サイコロビーーーーーーーム。」
 「さっきと変わらんだろ?」
 「それじゃ、これはどうだ?チョーーー、スペシャル・スーパーサイコロビーーーーーーーム。」
 「・・・・・・・・・・・・」
 あきれ返ったロンだった。
 二時間後ミナがロンの背後に一撃を食らわせたと確信した瞬間、ロンがミナに気付かれないように放っておいたエナジーアローの無数の光の矢がミナの真上から降り注ぎ、ゲームオーバーとなった。
 あっけない。
 ほんのコンマ何秒の逃げ遅れだが、ミナはまたしても負けた。
 エナジーアローはミナも持っていたが、どのように使うのかは思いつかなかった。
 『こういう使い方もあるのね・・・ハ―――、ハ―――、ハ―――、・・・・』
 肩で息をして地べたに四つん這いで滴る汗をぬぐいもせずに自分なりに分析をした。
 いったい、いつエナジーアローが発射され、どのようにしてミナに気付かれずにいたのか?いくら辿ってもその痕跡は無かった。
 ロンは種明かしをした。
 「ミナ、エナジーアローはミナに気づかれないように、戦いの直前にドアを出たと同時に発射されて上空で留まり、気配を消して待機していた。ミナは自分に向けられた矢に対しては全て避けられるが、自分以外に向けられた矢には無防備だった。そして勝ったと思った瞬間、更に無防備になった。
 相手はそのようなミナが気を緩めた瞬間を狙ってくる。
 「ボクシングでは、カウンターパンチと言うが、それを高度に応用したものだ。」
 「カウンターパンチ?」
 「そうだ、格闘技でもどんな勝負の世界でも、心理戦が重要な要素なのだ。それを組み立てたものが戦術であり、大局をフカンして答えを導いて行くのが戦略と言える。戦略なしに戦術もない。戦術なしに勝利など有り得ない。勝敗は戦う前に決している。ミナと俺の間には、力の差は無いと言っていい。ならばミナ、お前さんに足りないものは、根性でもやる気でもない。脳みそが足りないのさ。」
 ロンがウインクをして見せた。
 ウインクされても、ちっとも嬉しくないミナだった。
 「ひっどーーーい。ロン。もう少し、オブラートに包んで言えないのーー?」
 「言えない。」
 「相手がはなった矢は一本残らず把握しておかなくては命取りとなる。ゴングが鳴る前から勝負は始まっている。ミナの相手が誰だと認識している?刺客は殺すぞ!と言って殺しには来ない。なにげない振りをしてスキを狙って殺しにやって来る。戦いも同じ、スキを見せた方が負ける。パワーだけでは無い。技量だけでは無い。戦術こそが勝敗を決する。戦略こそが、大局を制する。」
 今のミナではエナジーアローは消費エネルギーが大きすぎ、ロンに対しこのような大技が命中するはずが無いと思い込んでいた。
 結局そのエナジーアローでしとめられた。ロンにこうやって使うのさ、と百回口で教わるよりミナには悔しさと共に刻み込まれた。ロンはミナの戦闘能力の限界を見極め、今日のところは十分成果があったと判断した。
 「ミナ、実践は予想以上の緊張を強いる、これ以上の戦闘はよしといた方がいい。いつでも相手をするから、今日はこれまでにしよう。」