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ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)

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 これほどの大物が一企業の取締役会議に顔を出すとは驚きである。
 ゾフィーのその挨拶がし終わるか終わらないかの内に、三人の取締役が即死した。
 一人はテーブルの上に頭から倒れた。もう一人は逃げ出す為、席を立とうとしたのか、椅子から転げ落ちるようにして床に倒れこんだ。
 そして最後の一人は、2秒経ってから静粛を打ち破り、すさましい音と共に椅子ごと真後ろに倒れた。
 三人には共通してコメカミに小さな穴が穿たれていた。出血はないが焦げ臭い匂いがわずかにする。生命維持装置が破壊されたのだ。
 殺された三人以外は自分が本当に生きているのか疑っているのか?それを確かめる余裕さえ無いであろう。
 これ以上の恐怖を味わったことは無いだろうから。
 ゾフィーは何事も無かったかのように話を続けた。
 「皆さんもご存知の通り、ベングループにおける様々な活動は社会に貢献する事をモットーとしている。今回宇宙科学研究所で不祥事が起きた。取り返しの付かない状況に発展してしまった。このままでは収拾が付かなくなるので、この場で一応のけりを付けようと提案する。意見のある方は、どうぞおっしゃってください。」
 静まり返った会議室。凍りついたかのような時計を動かしたのは、開くはずのないドアだった。
 音も無くそのドアは開き、靴音だけを響かせ一人の女性が入って来た。
 ミナである。
 全員の視線がミナに釘付けとなった。
 「意義あり。これではなんの解決にもなっていない。犠牲者が三人増えたに過ぎない。殺された三人は事件当日の録画映像に映っていたから、関係者であることに疑う余地は無い。しかし研究者五人を抹殺した主犯であるとは限らない。この事件を闇に葬ろうとする意図が感じられる。スクリーンのあなた。誰だか知らないが、余計なことをしないでもらいたいものね。」
 ミナの恐れを知らぬ者の言い様に聞いている出席者の方が怒りを通り越し震え上がった。
 「元気なお譲さんだ。こんなにたのもしい役員がベンに居ましたかね?これは先が楽しみなことです。いや結構、結構。」
 ミナは別に面白くもなさそうに苦笑いをして続けた。
 「多少のジョークは通じそうね、あたしはてっきり容量不足でフリーズ寸前のかわいそうな端末か、ハードエラーに苦しんでいる事故処理マシンの失策かと思ったわ。その歪んだ回路によく叩き込みなさい。これでカタが付いたと思ったら大間違いよ。あなたのした事は背徳行為よ。不必要に犠牲者を増やしただけで、事件の真相を闇に葬ってしまった。それにあたしはお譲さんじゃないわ、シークレットサーチャーのミナよ。」
 ゾフィーはもう、おべんちゃらを言う気は無かった。
 「ミス、ミナ。失礼いたしました。処分された彼ら三人の家族にはそれ相応の報酬が支払られることになるでしょう。あなたの依頼主との申し出に関しても相談窓口を設けますのでお気の済む金額を提示していただければ、誠意ある回答で報いたいと思います。」
 以外なほど物分りはいいが信用はできない相手である。ミナは容赦なく攻めた。
 「いい心がけだわ。しかし遺族が望んでいるのは、事の真相解明と謝罪だわ。薄汚れたベン社の金じゃないわ。」
 ゾフィーは顔色一つ変えず、あくまで紳士的に振舞った。作戦なのか、元々が紳士なのか?
 「承知しました。私の知りうる限りをお話し、しましょう。ロッキープロジェクトファイブはベン社の命運をかけたプロジェクトでした。ローコストで高性能な対ゲリラ戦闘兵器は開発に成功すれば需要が多くあり、ドル箱となるのです。もちろん違法ではありますが他の宇宙域の他社に遅れを取っては、業績に響きます。コスモプラントとしても背に腹は代えられません。よって、ガイヤの命を受け、わたくしが監査役として入っているのです。しかしご存知のとおりの結果となり、なんとか闇に葬ろうとしたのでしょう。プロジェクトの一時中止に伴いスタッフは別々の部署に配属になったのですが、中には左遷させられたとの思いを持つ者もいたかも知れません。新規の仕事に馴染めず、会社に不満を持つ者も居たかも知れません。こともあろうかベン社に対し恐喝まがいの事をして来たのです。五人全員の意思ではないでしょうが。主犯を突き止めたところで問題の解決には成らないと判断したのでしょう。大変残念な結果をもたらしました。ベン社を思ってやったこととは言え恐喝する事と同じ位浅はかな判断でした。こうなったからには全てを清算しなければなりません。このような無秩序を野放しにしていては組織としての在り方が揺らぎかねない。だから部外者である私が自らの手を汚すしかない、との結論に達した次第です。納得の行かないことは十分理解します。しかしこの事で会社の信用を失墜させ、ベングループ全社員、ヒューマノイド、アンドロイドを含めた五十万人を路頭に迷わす訳には行かないのです。全社員になり代わってお願いする。どうぞご理解のほどを。」
 ミナは真実が語られたとはまったく思っていない。この手のご都合主義が大嫌いで胸糞が悪くなったが、必死でこらえた。
 「遺族達には、ベン社に恩義こそあれ、悪意はみじんもありません。ベン社の転覆など考えの外にあります。相応の慰謝料と釈明を望んでおられます。しかしながら真相を全て話せとまで言っているのではありません。謝意がせめて伝わる努力をしていただきたい。それであたしはこの件から用済みとなる。シークレットサーチャーの名にかけて、今日の知り得た事は一切口外することはありません。五十万人の社員はそれで安泰です。」
 ミナは話終えるとゾフィーの顔をじっとにらみつけた。
 これほど攻撃的なミナを見たことが無い。これ以上この場に留まる意味が無いのでミナは振り返り入って来たドアに向かった。
 「賢明なご判断に感服いたしました。手続きは滞りなく進むでしょう。ゾフィーの名にかけて。」
 ミナは歩みも止めず振り返りもせずに早口で言った。
 「ゾフィー。あなたこそ賢明な判断をしましたわ。ところで、一番浅はかだったのは誰だか知っている?分からないでしょうね。あなたの頭では。」
 確かにゾフィーは賢明だった。ミナを無傷で返した。
 ドアが閉まりミナを隠したと同時にミナは空の上のデスプの腹の中に居た。
 デスプは無言でミナを迎えた。
 おもしろくもない結末に苛立ちさえ感じていたが、ミナの気持ちを察して、感情を言葉と共に閉じ込めた。
 ミナはデスプがどう思っているか気になってはいるが、それを知ったところで返す言葉は無い。何でもない振りをするしかなかった。
 「あたしの仕事なんてこんなものよ。正義の味方でもなければ、世のため、人のため、って訳でもないわ、全ては妥協の産物よ。いいじゃない、これで儲かったんだから。みんなに臨時ボーナスが沢山払えるわ。みんな必死に頑張ったから。これで報われるわ。」
 それ以上はミナの口からはもう何も出てこなかった。
 くやし涙をこらえて、震えるほどこぶしを握り締めた。
 ミナは声には出さなかったがデスプには聞こえた。
 「ちくしょう、ハメラレタ。あいつの思う壺だ。馬鹿野郎。バカヤロウ。オオバカヤロウーーーーーーーー。」
 氷のヤイバはミナ自身に向けられていた。
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