ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
「こんなあたしでよければおばあちゃんになるまで見ていていいわよ。料金はそうねーララのおっぱいを吸わせてくれるだけでいいわ。ララのミルク吸いでがありそうだもの。」
今度はララが赤面する番になってしまった。本気でララは考えてしまっていて、かなり照れているようである。吸って欲しいのは山々だが恥ずかし過ぎて、できっこないし。
ミナはさっきのお返しのつもりで言っただけで深い意味などないのである。単なる憧れの対象のつもりで言っただけだがララの照れ方が尋常でないので、ハードルを思いっきり下げてあげることにした。
「無理なら触るだけでもいいわよ。ちょっとだけ。」といって、親指と人差し指の間を一センチほど開いて見せた。これまた衝動的に何の考えも無しに言ったことだったのだが、思わぬ反撃をされるはめになる。
ミナの茶目っ気たっぷりのそのしぐさを見て、ララもやっと自分を取り戻したようだ。
「誰にも触らせたことないけれど、ミナならいいわよ、でもユリスに言っちゃおーかな。ミナったらわたしのおっぱいを、よだれたらしながら、もんだのよって。おっぱいもませろ、うっしっ、しっとか言いながら。」
ミナは慌てふためいて、「ララったら、ずるいー、あたし触るだけでいい、って言ったのに。もむなんて言ってないわよ。うっしっ、しっ。なんてあたし言わないもん。変態おやじみたいじゃない。」
他愛のない朝のひと時はララの端末機からの緊急呼び出しランプの点滅で破られた。ほぼ同時にミナにもテレックスが入った。
もうさっきまでの二人は何処にも居なかった。十秒後には、二人は別々の思いで別々の空を飛んでいた。
秘密の依頼
アウトライナーの事件以来ミナは唯一の生き残りとして有名になってしまい。好むと好まざるに関係なく仕事の依頼は増える一方である。
リーダーの機転のお陰で秘密警察に追い回されることもなく、そもそもスクーターに乗っているミナに何か出来るなど誰も考えやしないし、被害者が誰一人名乗りを上げてこないので、事件として成立しなかった。
ミナに対しては、事件に巻き込まれたのによく生きて帰ったと英雄扱いのマスコミもあるほどである。おまけに裏社会がミナには手を出せないどころか、妙に好意的なのである。
必要な情報が普通では手に入らないようなことまで入るようになった。おかげでミナは裏社会の事情通になってしまった。
主に情報源はロンから紹介された様々なジャンルの情報屋から仕入れるのだが、高額なはずの情報料を誰も取ろうとしない。その情報はガセネタが無く、内部のほんの数人しか知りえないようなものまで手に入った。
たとえば宇宙開発機構の最新技術の情報から、地球評議会で議論されるであろう次回のテーマの回答答弁書などお堅いものから、有名音楽プログラムプロデューサーと女優アンドロイドが深い関係にある。といった庶民的な情報まで必要ならなんでも手に入った。
情報屋達とは暗号を用いて直接接触して情報を得た。情報屋に対して、基本的にはどこの誰であるかを問わないのが原則だ。もし情報源がもれたら、情報屋自身の命が狙われるからである。
ミナの場合は、ほとんど友人と世間話をしている感覚で情報収集をしている。通信手段を介すると情報が漏れる可能性が高い為、必ず会って情報を収集していた。
情報屋はエイジェントを介したり、受け渡し方法を間接的に行なうなどしていて、客に直接会いたがらないのが情報屋の常であるが、ミナの場合、皆会って情報の受け渡しを要求してきた。
よほどの信頼関係がなければしない行動であった。
相手さえ確かであればこの方法の方が証拠が残りにくく安全なのである。たとえば密室のエレベータの中とか、エアポートの待合所で、背中合わせのまま他人の振りをして受け取るなど、毎回違うパターンで受け取っていた。
ほとんどの場合相手が指示してくる。情報屋とはいえ人の子、機械の子である。最初は頼まれてミナにアクセスしてみるのだが、次回は会ってみたくなる。一度会うと仕事や金など、どうでもよくなる。単なる親しみやすさだけではない。大切なものを思い出させてくれる。もうすっかり忘れてしまった懐かしいなにかを。
秘密探偵ミナ
ある依頼人のアンドロイド犬の捜索が舞い込んだ。ミナの評判を聞きつけて来ただけあって、金に糸目は付けないとのことである。ミナも存分に経費を使って動けるとあって張り切っていた。しかしそこには思いもよらぬ落とし穴が口を開けて待っていた。
ミナは忙しさと引っ切り無しに舞い込む仕事で、とても今の小さな探偵事務所では処理しきれなくなり、仲間の探偵仲間に声をかけ会社を設立し、手伝ってもらうことにした。
ミナは、元々契約社員で出来高払いの個人経営みたいなものだった為、必要に迫られてのことである。。
今では逆にミナの立ち上げた事務所が元受で、ミナの所属していた会社が下請けの一つとなっていた。
しかしミナに欲は無く、自分で会社を興そうと、それは仕事をこなす為の方便でしかない。
経営や管理業務や様々なマネージメントに貴重な時間を裂かれるより仕事をこなした方が生産的であると考えていた。
よって、経理や会社経営はアウトソーシングしている。
経理事務は、変れる人材はいくらでもいるが、現場で任務を遂行し、多くのスタッフを自分の手足のように操れる人材はミナしかいない。
それにミナは現場で汗を流しているのが好きだったので、雑務は人に任せて、社長自ら現場にいつも立っていた。
ミナの仕事ぶりは口コミで人から人に広まり、次の仕事に繋がっていった。ミナは人を使いこなすことに関しても並外れた才能があった。ミナにかかれば、十の力しかない者でも百の力を出す不思議な力を持っていた。
だからミナと一度仕事をすると、次の仕事も辛くてもつい請けてしまうのである。
ミナは一度に20以上もの仕事を処理するために、多くのスタッフを抱えていた。
驚異的な処理能力である。ユリスと出会って、覚醒してから加速度的に超人の能力がミナからあふれ出した。
既に探偵に必要な能力はすべてそろっていた。
ターゲットの残留思念から現在の状況や居場所をサーチしたり、遺留品だけあれば犯人を特定できたり、その気になれば相手の癖や嘘や病気の種類まで見抜くことが出来る。
目を見るまでもないことである。
今までは押さえ込んでいた巨大な力をどんな状況で解放してもララの指導のもと、暴走する心配もなく、何の破綻することもなく調和と制御が出来ていた。
このことはミナにとってもミナ以外のものにとっても、幸福なことである。
次々に舞い込んで来る仕事をスピード解決していたミナだが、あのアンドロイド犬の捜索だけは手こずっていた。
その理由には二つの理由があった。第一の障害は依頼人に直接会えないことだった。身元は確かなのだが、会うことをこばんできた。直接会えればそれだけでミナならかなりの情報が得られるのだ。第二にアンドロイド犬の出生を追跡していくと政府機関に行き着くのだが妨害されて情報を引き出せないのである。
諦め掛けていた時、一つの情報が寄せられた。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三