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ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)

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 今持てる全エネルギーを放出して、それを打ち消せと指示されてはみたものの、放出には成功したが、打ち消すにはとても足りない力しか残されていなかった。
 しかし、ララの指示どおり打ち消す為には生命維持に関わる領域にまで手を付けざるを得なかったのだ。
 ララはミナがそれに手をつけた瞬間に助け船を出した。
 気絶させたのだった。
 ミナが死を恐れていないのは初めから知っている。そして、こうなることも。
 ミナのおこした竜巻を一瞬に打ち消すには作り出した何十倍もの力が要る。
 このことをララは利用したのだ。
 一歩間違えれば死と隣り合わせの危険な試みである。
 ミナに自分自身の力の恐ろしさをまず体験させることが目的であった。
 ミナの攻撃を受けた者が味わう脅威を身をもって知らしめた。
 あの嵐を鎮めたのはミナではなかった。ミナは恐怖と自分の無力さと自分の力の巨大さを一度に体感したことになる。
 「ララ、失敗しちゃった。いいトコ見せようとして、はりきったのにこの様だよ。あたし恥ずかしい。」
 かなりの落ち込みようである。訓練中は鬼のように厳しい教官であるが。ミナが憎い訳じゃない。まったくその逆である。
 「ミナ、よくやったよ。上出来だ。あそこまで出来るとは思っていなかった。ミナはわたしを守る為、最後の力まで使いつくそうとした。あのとき二つの選択が出来たはずよ。」
 ミナはあの時の状況を思いおこした。
 「一つはあなたが選んだ、わたしを守る為、竜巻と最後まで戦うこと。しかし、それはミナ。あなたの死を意味していた。」
 ミナは深ぶかと頷いた。
 「そしてもう一つの選択は、残された力で自分だけならあの場からエスケープ出来たはず。でもあなたはそのことを考えもしなかった。力を持つ者の心得を教えていないのに既に身に付けている。」
 ララは優しくミナのあたまを撫でた。
 「我々では考えられない行動だ。我々は相手を倒し。そして生き残ることを義務つけられて来た。」
 ミナの丸い目が更に見開かれた?
 「なぜ?」
 「それが自然の法則だから。弱い者は死ぬ。そして強い者が生き残る。」
 「でも、そこには気持ちが無い。なんて悲しい定めなの。」
 ララはクスッと笑った。
 「そうかもね。悲しい定めかもね。」
 ララは答えを探そうとはしなかった。
 「ミナ、りっぱだったよ。失敗なんかじゃないから、落ち込むな。大事なことは力じゃないって言っただろ。それを持つものの心の強さだって。ミナにはその強さがある。我々にはないその強さを見せてもらった。あの時の拍手は伊達に贈った訳じゃない。ミナ、あなたの勇気に対しての『ブラボー。』さ。ミナあなたはわたしの誇り、最高の教え子だよ。」
 ミナは緊張の糸が切れたのか急に涙が溢れてきた。ララに泣き虫だと思われたくなかったので、掛けてあったシーツで顔を隠した。
 ララはミナがいとおしくて、しかたなかった。



 ほとんど訓練漬の休日が終わった。
 ミナは、ララと帰るのを断り、デスプを呼んだ。
 この日デスプは、偶然ラボに来ていた。用があり時々来ているのだ。
 しかしミナはトレーニングルームにしか用がない。デスプの行く先はドッグなので離れた場所であるため、今まではすれ違いになっていたらしい。これからは、ラボに立ち寄る際、お互い連絡することにした。
 帰り道、久しぶりのデスプとのフライトであった。
 つのる話は山ほどあったがこの二人には細かいことは言わずとも分かり合えるらしい。それよりミナは自分の能力の披露をしたくてたまらない。
 「ねーデスプ。あたしと勝負しない?SFコースのレベルEでタイムアタック、3本勝負。どう?やってみない。」
 ミナはデスプ相手に自身まんまんである。
 「こぞう、俺に挑戦しようなんざ、百年早い、だが、まーいい。怖いもの知らずに免じて、おもいっきり泣かしてやるぜ。」
 ミナは、小僧ではない。決まり文句らしいが。
 デスプが売られた喧嘩をかわないはずがない。
「誰が小象?よ、レディに向かって。失礼ねー。今は威勢がいいけど、泣くのはあんたの方なんだから。」
 誰も小象とは言っていない。
 ミナも負けてはいない。デスプはふくれたミナを見て、ふき出してしまった。
 スカイファイトのコースは複雑に絡み合う様々な形状をした仮想チューブで出来ており、チューブはデーダ上作られているだけで実際には存在しない。コンピュータグラフィックで描かれたナビゲーションシステムのコースを実際の空を使って飛ぶのである。デスプがスカイファイトプログラムを呼び込むとフロントスクリーンにスカイファイトのコースが出現した。スタート地点をセットすれば、広い空間さえあればどこにでもコースはつくられる。
 その仮想コースが実際に在ると想定して実車で高速滑空するのだ。
 コースアウトしたり、百種以上ある標識に従わなかったり、コースを間違えれば失格となり得点が得られない。様々な標識を瞬時に読み取り、コース取りをしなくてはならない。広い所も有れば、狭くてすれすれでやっと通過出来る所も有る。直角に切り立つ崖を垂直に上昇したり、降下したり、きりもみ状の狭い通路があったり、一寸先がどちらに曲がっているのか見えないような切り立ったギザギザの峡谷を通ったり、極めつけは、いきなり通路が細くなり、進んでいって動けなくなった所で、行き止まりになり、バックで後戻りする指示がでて、出口までバックで進まなくてはならないことだってある。
 百万回やっても同じコースに出くわすことはあり得ないほど、ランダムにコースは常に変化する。
 学習しても無駄である。腕だけが勝敗を決定する。
 デスプは自分の体を飛ばしているが、ミナはマニュアルのハンドルやレバー切り替え操縦でデスプを飛ばすことになる。シンクロドライブも操作可能だが、ミナの好みではない。マシンを操っている気がしないのである。
 つまり理論上はタイムラグの関係で圧倒的にデスプが有利である。一周三百キロほどのコースだが、デンジャラスでスリリングこの上ないトリッキーなコース設計であるため、超一級のフライトテクニックが要求される。三回のタイムアタックの合計で勝敗が決まる。
 一勝一敗で向かえた最後のフライトでデスプは驚異的な数字をたたき出した。
 ミナの番である。コースの中ばんまでは負けていた。ミナは奥の手を出した。時間が早回りしたかのようにミナは速度を上げながらそのままゴールした。いや、一瞬消えた。
 有り得ないタイムである。
 ミナは、ゴールラインを通過するやいなや、右手を高々と振り上げ、勝利を確信して雄たけびを上げた。
 「イヤッホー どう、デスプあたしの勝ちよ、マイッタと言いなさい。」
 デスプが素直にそんなこと言うはずが無い。ミナも百も承知で言っているのだ。
 デスプは、完全にむくれた。
 「おまえズルしただろ?俺の目はごまかせないぞ。絶対ズルした。」と言って、ミナの勝ちを認めない。
 ミナも意地の張り合いでは負けていない。
 「証拠がないじゃん。あるなら見せて御覧なさいよ。出来ないじゃない。なによ、負けたからって。イチャモン付けて、男らしくないわよ。」と言って、譲らない。
 子供の喧嘩と大差ない。