ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
寝室はララと同じ部屋でリビングは広くて快適な空間だが何も置いておらず、トレーニング機材が転がっているぐらいである。合宿生活そのものと言ったおもむきである。
二人がここでくつろぐ光景はない。
キッチンには飲み物を飲みにいくだけで、使われた形跡がまるで無い。ようは寝ているかトレーニングしているかのどっちかである。
二人とも住居に対してまったくと言うほどこだわりを持っておらず。装飾と言えるものはほとんど無く、絵が壁掛けではなく天井や床に置いてあるぐらいである。二人は顔を合わせればララがミナの為に考案した特殊メニューのトレーニングが始まった。
まとまった休みが取れるとララと一緒に秘密のラボラトリー内にある施設に行った。
毎日ユリスとはテレックスで話はするが、トレーニンイングの事はおくびにも出さなかった。
「仕事とか色々やる事が多くて忙しいの。会えなくてごめんね。」の一点張りである。ユリスも別にミナが元気そうにしているのが一目見れば分かるので、なんの心配もしてはいなかった。
「それより、たまにはデスプに顔を見せてやらないとあいつグレルぞ。」という具合にデスプの心配をするほどである。
ミナはちょっと考えて、そう言えばデスプをかまってあげてないことに気付き。
「わかった。ララにいつも乗せてもらってるから、変わりにデスプでもさそってやるか。」と言って、またしてもデスプを足代わりにするつもりである。
三日ほど休みが取れたのでララとラボに出かけた。
到着して訓練を開始した。
最初は重力強化室でのトレーニングである。
通常の50倍もの重力が掛けられた部屋である。対重力バリアを発動せねば1秒も生きられない。
他にも低気圧ルームを通り越して真空状態の部屋や、高温室や低温室など様々な場面を想定した環境が用意されている。
通常の戦闘では、さらされる可能性のある環境の為、防護バリアは必須科目となる。どの環境も人間では、3秒も生きていることは困難である。これらの部屋は、サイバーソルジャーやエスパーの為の強化ルームである。
今日は、ララも付き合ってくれるようだ。
「この部屋には慣れた?」
「ええ、呼吸はまだ出来ていないけど。」
「フッ、フッ行くわよ。」
ララの変則ハイキックが飛んで来た。2段ロケットのように飛んでくる。
辛くもかわした。
ミナは避けながら回転して、ララの腹部に肘を打ち込んだ。しかし、既にララはそこには居ない。
激しい攻防が続く。あらゆる拳法を駆使する。目的は一つ。
相手を殺すことのみ。
2時間が経過した。
そろそろ限界に近づいてきていた。
「よし。そこまで。」
その声と同時に膝から崩れ落ちた。
部屋から出て来ると汗が噴出して来た。
ララから浸透水が手渡された。
「あ・り・がとう、ご・ざ・い・ます。」
ララからの言葉はない。
ベンチでぐったりと横になっていると、ミナの顔をのぞき込むように立っている男性が居た。
フランク教授である。
高くほがらかな声をかけてきた。
「ご注文の品が出来ました。試着されますか?」ミナの顔がほころんだ。
はじかれたように飛び起きた。
待ちに待っていた物が出来上がったのだ。
「もちろん。すぐに試着してみるわ。」と二つ返事でオーケーした。
ミナは様々な機材とセンサーが取り付けられた部屋に通された。指示されたとおり全裸で中央に置いてある装置の上に立った。
ミナにとっては裸になることは何の躊躇いもなかった。むしろ服を着ている事事態に違和感があるくらいである。ミナにとって必要無い物の最たる物である。
それはさておき、幾つものアームが伸びてきてパーツが一つ一つ装着されていった。慎重にミナの体系に合わせて調整されていった。全てが終わるとアームが戻った。
フランク教授の声がした。
「どうですか?コンバットプロテクターの着心地は?」
ミナは答えず垂直にジャンプして後方で三回転して天井に着地した。高い天井であった。そのままこうもりのように天井に立ち天井面で前方転回と後方転回を二回した後に前方で3回転しながら地上に降り立った。
「教授、快適よ。まるで何も身に着けていないみたい。それでララの物との違いはなんなの?」
教授の説明は難しい言葉の羅列でほとんど理解できなかったが、様々な機能が追加されているが、ようはミナ専用に開発された数百倍から、場合によっては数千倍のサイコエナジーブースターが内臓されているそうである。
このまま服を着てしまえば装着していることに気付かれないほどのフィットした設計になっている。
一度装着してしまえば、脱着はワンタッチで行われ、左の手首にリストバンドになって収納された。脱着にかかる所要時間も二秒程度である。
トレーニングルームでさっそく機能テストを繰り返した。
ララが付きっ切りで細かな指示を与えていた。ミナはその日の内にプロテクターの機能をマスターし、その恩恵に預かることになった。
ミナの持つ特殊なサイコエネルギーを百倍から場合によっては数千倍にまで増幅させる機能を備えていた。
最終テストを残すのみとなった。
最終テストとは、マックスパワーを体験するテストである。
二人は屋外に出た。砂漠の真ん中にあるこのラボはミナのテストにはうってつけである。
ミナは一言二言呪文のような言葉を言い、片手を空高く指差した。
ミナのありったけの力を込め、大気を押し上げた。
呪文に意味などなく、精神を集中しやすくする為のテクニックである。
遥か遠方、その指差す方向に一筋の竜巻が天に向かって伸びた。それは見る見る成長してこちらに向かってきた。
ミナはエネルギーを送り続けていた。
十分もすると巨大竜巻が目の前までせまってきた。周囲は暴風で一寸先も見えない砂の嵐である。
しかしミナとララの立っている周囲だけは、ほぼ無風で一粒の砂も入り込んで来ない。
半円形のバリアが張られていたのだ。
竜巻の中央がミナの頭上に来たとき両手を硬く組み、まっすぐに挙げると同時にミナの気が天を切り裂いた。
その瞬間、風は止み、遥か上空まで巻き上げられた砂がミナ達の上に振り落ちて来た。
砂の雨は数分続き、ミナ達の周辺には振り落ちた砂の山ができ、その山の頂上に二人は居た。この事は、あのバリアは二人を風や砂から守っていただけでなく、二人を空中に浮かせていて、しかも外部に対して何の影響も及ぼしていないということになる。
もっと分かりやすく言えば、存在していないことになる。いったい二人は何処に存在していたのであろうか?
これは、ミナの力のほんの一部に過ぎないことをララは知っている。
水、空気、火、土、金、有機無機に関わらず、あらゆる物質はミナの配下である。
巨大な力を得たミナ。
そしてそれをコントロールする術も身に着けつつある。
ララは大きな拍手をした。
「ブラボー。ブラボー。ブラボー、ミナ。」
その声がきっかけでミナは崩れ落ちた。ララはミナが倒れ込む寸前で抱きとめた。
ラボの医務室でミナは目覚めた。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三