ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
ロンはララに言われるまでもなく、ミナに対してあやぶさや、敵対感情を抱いたことなど微塵もない。ロンにしろ、ララにしろ、戦士としての一般論は熟知している。しかしそんなものはクソ喰らえである。異論などあるはずが無い。
ララは最初の一言では顔を曇らせたが、すぐに、にっこりと微笑んだ。
ロンの答えに大満足したようだ。軽々とミナを抱きかかえ、客間のベッドルームへミナを運んだ。
ミナは、ぐずったが、すぐにスヤスヤと寝息を立てた。
ミナの決意
ミナが目覚めると、デッキでユリスが紅茶を飲んでいるのが窓越しに見えた。
誰が着替えさせてくれたのか、大きなパジャマを着ていた。眠たい目をこすりながら、ユリスと並んで古めかしいベンチに腰掛けた。
「おはよう、ユリス。昨日はごめんなさい。ララとロンは?」
いつの間に用意したのか、ユリスはミナにりんごジュースを差し出しながら答えた。
「俺とちがって彼らは忙しい。ミナと会ってからすぐに帰ったよ。ミナは好きなだけ滞在するといい。デスプが居るから何処か出かけるときは一緒に行くといい。俺は家に戻っているから、用事があればテレックスで頼む」
ミナはまだ眠たそうだが一つ大きな背伸びをした。
そして、擦り寄って来たチャップを抱き上げた。
「あたしも戻らなきゃ、みんな心配しているだろうから。でもあんなことになっちゃって、警察に手配書が回ってないかしら?」
ユリスはミナにとって衝撃的なことを話し始めたミナが目を覚ますには十分過ぎる内容であった。
「被害報告が出る訳無い。だから、軍や警察が嗅ぎ付けることも無いだろう。しかしマフィアや裏社会にとってミナは一夜にしてトップスターに登り詰めたヒーローだ。いやヒロインだ。最重要注意人物のリストのトップページにめでたく仲間入りって訳さ。だが心配は要らない。その為にララとロンに引き合わせた。ミナ、きみは好むと好まざるに関係なく我々のファミリーの一員だ。ララとロンがそれを認めた。だから今後はララとロンが君の後ろ盾となる。と言っても、ミナはいつもと変わらずにしていればいい。彼らの仕事を無理やりやらせたりはしないから、心配しなくていい。ただし周りの見る目は多少変わってくるだろうがね。何か困ったことがあったら、ララとロンに相談するといい」
「ララとロンの仕事ってなに?」
隠し事はもうしないことにした。出来る限りにおいて。
「簡単に言えばテロリストさ。正式には、超A級国家反逆罪リストに名前が列記されている、政治犯だ。コスモプラント内だけの話だが、よその宇宙ではまた別の容疑と逆罪者リストに載っている。」
ミナはユリスの話しっぷりに緊張感がまるで無いので自分のことに関しても、まったく実感が無い。
だが、ララとロン、そしてユリスに関しては興味津々である。
「テロリストねー、なにするの?スリよりは悪党そうね。あたしのこと言えないよ、ユリス。あなたこそ更生しなさい。ララとロンってマフィアの顔役なの?あんなにやさしくって、いい人達なのに。」
ユリスはミナが普通の神経の持ち主でないのは知っていたが、これほど脳天気とは知らなかった。
ミナの真剣な顔を見てふきだしそうなのを我慢して答えた。
「マフィアは、政治的、国際的犯罪やテロには関与しない。そんなことしたら存続出来なくなる。マフィアは、社会的に適合した産物だ。そうでないのがぼく達だよ。よってぼく達は何処のファミリーにも属してはいないよ。」
「なーーんだ。そうなの?つまーーんない。ドン・クラリーノなんか、地元だし、ファンなんだけどなーー。」
あらら?地元って、野球チームを応援しているんじゃないでしょ。
ユリスがミナに顔を近づけた。
ミナの期待が急に高鳴った。
『きたーー。もしかして、ファースト、キス?』
「じつは、・・・・・もっと、もっと、もーっと怖い、ばけものなんだ!」
ユリスが「ばけものなんだ!」のところを語尾を上げ、ミナに襲い掛かるポーズで、大声をはりあげたものだから、さすがのミナも度肝を抜かれた。
ミナの淡い期待は見事打ち砕かれた。
ミナは、あまりに驚いて危うく椅子から落ちそうになった。それを見てユリスは我慢できなくなって、大声で笑った。
「ひっどーーーいユリス。人が真剣に聞いているのにーーー。おどかすんだからー。もーーー。」
椅子に座り直すと反論に出た。
「ララとロンが化け物な訳ないじゃない。ユリスと同じ匂いがするけれど、ちょっと違うの。もちろん人間ではないのだけれど、怖くなんかないわ。」
バイオマシンを人間ではない。とはっきり言い切ったのにはさすがのユリスも驚いた。
DNAの配列を調べなければ判別は不可能だからだ。
ユリスはミナの能力について興味がなかったが、自分達のことをどれだけ知っているのか知りたくなって尋ねた。
「ミナが初めて会った時、ララとロンについて俺と同じ匂いがするって言ったけれど、どうしてそんな事が分かるんだい。」
ミナはこともなげに言った。
「言葉にはしにくいの、もちろん嗅ぐ匂いではなくって、あたしにとってはそのものの声なの。それが聞こえるの。ユリスだって初めて会ったとき、普通の人間じゃー無いって判っていたよ。あたし小さな頃からどんな物でも動物でも機械でも単なる物でもその気持ちが読めてしまうの。変でしょ。こんなこと人に話すのはユリスがはじめて。これ以上変な目で見られたくないから喋らなかったの。たとえば今あたし達が座っているこの椅子。とても古くてたくさんの時代を生きてきたの。色々な事があったけれど。この椅子は今、とても幸せよ。なぜだかわかる?」
ミナはいたずらっぽく微笑んだ。
「いや、わからない。」
ユリスはキョトンとした。
「この椅子はユリスのことがお気に入りだからよ。あたしが、「変な奴。」って言ってやったら。「お前こそ。」だって。けっこう生意気ね。」
ユリスがしばらく考えこんで黙っていたので、ミナは本当に変人に思われていないか不安になってしまった。
「あの?あたしって、やっぱり変?おかしい?」
ユリスがにっこりと微笑んだ。
「いや、おかしい訳がないだろ。人と違うことが出来るだけの事じゃないか。他人には見えない物が見えてしまう。感じてしまう。ミナはその能力で今まで他人を傷つけていないし、これからも傷つけるつもりは無い。それでいいじゃないか。」
そうは言っても、ユリスはどうしてもミナの能力の本質が知りたくて、幾つかの簡単なテストをすることにした。
「ミナ、きみの力を知りたいので幾つかのテストをしたいのだけれどいいかい?」
ミナは興味があるし、楽しそうだったので二つ返事で了承した。今まで自分の能力について調べたことも試したこともなかった。知らず知らずに使っていることはあるだろうが、無意識にやっていることなのだ。
まずコインを両手に隠しどちらに入っているかと尋ねた。
「両手に持っている。」と答えた。
本当に見えていないと答えられない。何故なら、ミナは人の心を読むような姑息な手段は用いないからだ。そう言う性格だ。
透視能力は、Aレベル以上。
次にミナがまず使ったことが無いであろう能力に踏み込んだ。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三