ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
「ミナ、そんなに思いつめるのは良くないと思うよ、君になにかあれば皆が悲しむ。でも我々は違う。戦う為だけに作られたマシンに過ぎない。力のみが存在理由なのさ。強くて当たり前なんだ。強くなければ存在を許されなかった。戦いの中では生も死も紙一重。どちらにしても大きな差はない。我々の死は、ただ単に機械が壊れ停止したことにほかならない」
ミナは激しく反発した。あらん限りの力を搾り出して。
「ユリスは機械なんかじゃ無い。人の心を持った存在だ。誰が作ったって関係無い。やさしい気持ちの持ち主に変わり無い。止まった機械なら、またあたしが動かすから、死なないで」
目には涙がいっぱい溢れていた。なぜ涙が出るのかミナ自身説明がつかない。分かるのはユリスの瞳の奥の絶望にミナなりに精一杯の力で光を送り込みたいと言う意識の現われがこのような感情として、噴出されたのかもしれない。
ただ事でない騒ぎにララとロンが駆け寄って来た。
泣くばかりのミナを前にどうする事もできず、あたふたとして、事情は知らないがとにかくララとロンはユリスを責めた。
「ユリス、わたしのかわいいミナになんて事するのよ、ごめんなさいねーあいつ馬鹿だから、気にしないでいいのよ、後でうんと叱っておくから、あなたにはわたしが付いているから」
ユリスの方を向き直って美しいララの顔が吊り上った。
「ユリス、事の次第によっちゃー許さないわよ」
にらみつけられた。ララに負けずおとらず、いつもはクールなロンが言葉を荒げた。
「お前は女の気持ちってーやつが全然判ってねー、こんないい子を泣かすなんて、おてんとさまが許してもこのロン様がゆるさねー」
いかなる状況であろうと、たとえそれが絶体絶命の崖っぷちであろうとも沈着かつ冷酷なロンがこんな時代劇でも出てこないせりふを検索して吐くとはよほど回路がショートしている証拠である。愛娘に大泣きされて対応に困り果てた父親の気分であろう。ユリスといえば自分が一番ショックを受けているにもかかわらず、誰もユリスをかばってはくれなかった。
いやそうではなかった、
「ユリスは何も悪くないの、ユリスを責めないで。もう泣き止むから、お願い」
ララもロンもミナがそう言うなら、といってユリスを責めるのを止めた。ユリスはミナのことをララとロンに任せることにして、自分の個室へ入って行った。
ララは娘の肩を抱きかかえる様にして奥にある大きなソファーまでつれていった。そしてミナはララに抱かれるように横たわり、いつの間にか深い眠りについてしまった。今日のことは、さすがにミナにとってもタフな一日だったようだ。それにも増して、ララの腕の中はミナにとって心地よい安らげる場所だったのだ。
ミナは本当の母親のぬくもりを知らない。ララは意識してはいないがミナに対して母性本能を会った瞬間感じた。
それはこういう事かと思いつつも、ミナに対し、胸が締め付けられるような、溢れんばかりの愛おしさはいったい何なんだ、とララは考えた。これは、母性だけでは説明が付かない。
同族に対しての物ではない。巧妙に創られた機械や動物に対する物でもない。ましてや人間などに対するものではあり得ない。ならばミナは何者なのだ。結局、結論は出ず。理屈や理論では解明できないものであると自分なりにこじ付けた。
それにしてもミナの前では、いつもの自分でいられないのが気になりロンに尋ねた。
「ねーロン。わたしヘン?」
ロンはララを真っ直ぐ直視して答えた。
「変なものか。ユリスから召集がかかるなんてことは無い。と思っていた。それに比べりゃララのは、どおってことないさ。しかしこの子が理由ならユリスもララも、どちらも納得がいく。この子は希にみる能力の持ち主だ。デプスが言ったとおり底が知れない。ユリスにとっては彼女の能力など、どうでもいいことだろう。ユリスには単に特殊能力のある人間の少女としてしか映らない。なぜなら、我々の中でさえ、ミナはユリスだけが近い種族と言えるからだ。だからかえってミナの本質に気付かないんだ。自分の事は当たり前すぎて、分からないように。それが自然であると思っている。それよりどうしてこのような子が存在しているのかが疑問だ。スリーオーワンのクラスには我々十八人しか生き残らなかった。トリプレックスにもワンハンドレッドイレブンにもそれ以外のクラスにもミナのような子は存在しなかった。そして我々の脱走以来、あの実験は封印されたはずだ。我々以外の超能力種族は製造されていない。不確定要素が有り過ぎる子だ」
ララはミナの髪をなでながら話し始めた。
「この子は戦いに明け暮れる我々とは違う。そして、我々機械やアンドロイドでもない。それでは人間か?いや違う。人間特有の弱さや執着心、自己保身の反応が無い。生命願望反応が皆無であるにも関わらずパワーレンジは測定不能だ。いったいどこからエネルギーが流れ込んでいるんだ?人間とは対極にある存在ということか?でなきゃわたしがこんなに心を許すはずが無いのだが」
「答えは最初から出ているだろ」
ロンが道筋を修正した。
「ユリスに近い種の特殊な生命体ねーー。どうやって生まれたと言うんだ?自然現象の突然変異にしろ、意図して生まれたにしろ、奇跡であることだけは確かだわね。もしこの子以外にも、このような能力を秘めた子が居るとすれば、マザーの手に落ちれば、我々の最大の敵と成り得る。ならば、見つけ出し、目覚めないうちに処分するのが得策だ。」
「いらぬ、取り越し苦労だ。今は、ミナのことについてだけ考えればいい」
ララが混乱している。彼らにとって、それほど重大な事態なのだ。
「そっ、そうね。しかしこの子は、ユリスに興味を持っている。おまけに惹かれている。絶望以外、何も持たないアイツに。ミナがそれを見抜けないはずが無い。ただの物好きでは有り得ない。にも関わらず、死神ユリスの心を開いてしまうとは。この子は神なのか?」
ロンはうつむき、つぶやいた。
「いや違うな、我々にとっては神以上の存在だ」
ララはにやりと笑った。
「フッ、フッ、フッ、フッ、フッ、そうなの?」
ロンのその一言でつき物が落ちたのを感じた。
「わたしはこの子に賭けてみる気になった。どのような結果が出ようとも、全ての責任はララ・フィガロが持つ。ミナのあらゆる行動と行き先にガイヤの息をかけさせやしない。このことを仲間に伝えて」
ララは、ロンに向き合った。
「ロン異論は?」
ロンは得意気にこたえた。
「俺はそんな事、いやだね」
「どういうこと?」
ララの目つきが急に鋭くなった。
「別に他の奴らにこんなにかわいいミナを紹介する義理は無い。俺たちがミナを独占して、俺たちの特権にすればいい。ユリスからミナを守るよう依頼されたのは俺とララだけだ。他の連中の助人など、いらない。ユリスは人を見る目があるらしいな、正しい選択をした。たとえ誰であろうと、ミナの敵はすなわち、俺達の敵。指一本触れさせはしないさ。古き悪しき仲間、だろうとね。」
「そう、出ましたか?とうぜん、わたしに異議は無いわ」
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三