ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス)
ものの数分でシティーポリスのパトロールホークが四方八方からやって来て、空が埋め尽くされんばかりの大渋滞になったが、なんの手掛かりも、何が起こったのかも判らずじまいだった。
残骸すらシュレッターに掛けられたように粉々で何の証拠もえられなかった。
デスプは安全を確認して、巡航スピードに戻した。脱出時の加速でミナには相当な負担を強いていたと思い、気遣っていたが、その心配はまったく要らなかった。
ミナはケロッとしていて、チャップのほうが少々効いていて、ふらふらして酔っ払っていた。
「ごめんねーーチャップ。気のきかない奴が飛ばしているから、もう少し我慢してね。」ミナはチャップの具合が気になってしかたがないようだ。
ミナはデスプが自分を気遣ってくれているのは百も承知していたがどうもデスプの前では張り合いたくなる。
「やるじゃないデスプ。それにしてもずいぶん思い切ってイメチェンしたわね。センスは悪趣味の極みだけれどね。サイテーね。もうちょっと品良く出来ないの?普通の神経の人は逃げ出すわよ。」
デスプはいわれても仕方ないと思いつつも反撃に出た。
「このぐらい毒が無いと駄目なのさ。半端なことしてちゃー返って面倒なことになる。見ただけで逃げ出してくれるぐらいで丁度いい。この格好なら誰も手を出そうとは考えないし。シティーポリスでさえ、キップを切らずに見ない振りをしてくれる。」
ミナはすかさず切り替えした。先ほどいいようにあしらわれた仕返しをしてやりたかった。
「ショッピングにはついてきて欲しくないタイプね。まったく何なのあのロゴマーク、町のゴロツキだってもうちょっとマシよ。」
デスプをショッピングの足にしようと本気で考えているミナの神経の図太さはそうとうなものである。
見る者全ての者が同じ感情を持つであろう。ただ事でない危なさを形で表現している。
そして、笑わずにはいられないだろう。
フォルムは機能を突き詰めた結果であり、デプスが意図したものではないが、見る者はその本質を感じ取ってしまう。
デスプもミナにそこまで言われたら、悪巧みを考えついた。
「実はあのロゴはユリスのデザインなんだ。俺の門出を祝って、考案したものなのさ。愛想のない振りして、あいつ以外に泣かせるよなー。俺はもちろん気乗りしなかったけど、あいつの頼みじゃ断れねーしなー、辛いところさ。」
ミナはデスプの悪巧みとは知らずに、どぎまぎした。
「良く見ると以外にかわいい顔してるよね。あいきょうもあるし。このワニと鶏、あたしは好きよ、まーセンスなんて人間の愚の象徴みたいなものだから、見る人が見ればその良さがわかるものなのよ。あなたもこれの良さが理解できるようにいつか成るかもね。」
デスプはこれほど上手くミナが引っかかるとは思わなかったので、思わず大笑いしてしまった。ミナは意味が分からず、きょとんとしていた。
「ミナ御免。実は俺のボディペイントをデザインしたのはイカレたアートプログラムどもなのさ。あいつらよってたかってこの芸術品を台無しにしやがったのさ。あれはワニでも鶏でもない、名前は知らないが、空想上の怪物さ。笑えるだろ?それにユリスはそんなことなんか、まったく興味無い奴さ。あいつは生粋の絵描きだ。さらに悪趣味だし、他人の為に筆をとったりはしない。自分の為にも取らぬがね。そんな奴がマシンなどに絵は描かんよ。」
ミナは怒りを通り越して笑うしかなかった。自分の単純馬鹿さ加減にも腹が立ったがユリスのことをデスプごときに悪趣味呼ばわりされることに腹が立った。
『デッスプーーーーーーーー。』
がしかし、ここは負けを認めて、今日は命を助けてもらっていることだし、デスプがかなり喜んでいるようなのでここはいい幕引きになったと思うことにした。
ミナはお礼を言いたいのだが素直に言える性格ではない。つい絡んでしまう。
「ところでデプス、なんであんたがあんな所に居たのよ。偶然通りかかった訳?」
デプスは別にミナを助けたと言う意識がまったく無い。しかしミナに付きまとっていると思われるのはデプスのプライドが許さない。
「俺はお前のストーカーじゃねー。なんでお前みたいな、しょんべん臭いガキのケツをこの俺様が追い回さなきゃならない。ユリスの野郎が、やばい仕事にミナが首を突っ込んでいるって言うから、しかたなく護衛してやったまでさ。俺に取っちゃー昼寝しながらでも出来る仕事だから、気乗りはしなかったが、つまらん事でユリスの手を煩わせる訳にも行かないので、仕方なく俺様が代わりに出向いたまでだ。変な勘違いするなよな。俺はお前を付けたりしていない。尾行していたんだ。」
同じことだろ。
デプスの言っている事は嘘じゃーないが、多少感情的に成り過ぎている向きがある。しかしミナは正確に理解したようだ。
「デプスありがとう。もう駄目かと思ったよ。でもアンタを見た瞬間、助かった。と確信した。けっこうカッコ良かったよ。」
デプスは頭に血が登りカーっとなった。完全にフリーズしてしまった。まったく予期しない言葉が返ってきたからである。元々戦闘用に開発されているし、人間のしかも女の子を相手に対応するようプログラムされていない。デプスにとって一番遠い、無縁の事柄である。ミナがいつもの様に攻撃的であればどのようにでも撃沈してみせるであろうが、デスプの最大の弱点を突かれた形となった。ミナもそこの所を良く心得ていてデプスの得意分野にすぐに引きずり出した。
「なんちゃってね、ご褒美にショッピングに連れてってあげるから、スネないのよ。」
デプスは待ってました。と言わんばかりに切り替えした。
「なんでお前のショッピングに俺様が付き合わなきゃならないんだ?頼まれてもいやだね。まあー、どうしてもと言うなら、付き合ってやらんでもないが。でっ、いつ行く?」
行く気満々じゃん。
ミナはくすっと笑い『・・・・・・ほんとは行きたいくせに、無理しちゃって。』と小さな声で言った。
デスプはなんか言ったか?と尋ねたが、「別に何も。」とはぐらかした。
ミナはユリスに今すぐに会いたいと思いデスプに伝えた。デスプはそう来ると思い「今向かっている。」と言って、スピードを加速した。
デスプは赤道に近い小さな島の上空に来た。この区域での野生動物以外の立ち入りは禁止されている。デスプがどのようにしてボーダーゲートをパスしたのかは分からない。上陸するだけで監視役のレンジャーがやってくる。上空であれば、センサーに感知されないので問題はないのだが、デスプは低空飛行していた。
小さなコテージが海岸の85メートルほどの高さで浮いていた。どうやって浮いているのかは分からないが兎に角、浮いている。
デスプが降下すると、そのコテージの着陸用桟橋が伸びてきてそれに接続された。ミナが桟橋を渡り終える頃3人の男女が向かえに出てきた。
ユリスが先頭に立ち両サイドに二人立っていた。一人は男性でユリスと同じ深いミドリ色の髪をなびかせていた。ユリスと比べると長身で吸い込まれそうなエメラルドの瞳が印象的だった。
作品名:ゴッド・モンスター・レクイエム(ミナとユリス) 作家名:高野 裕三