あたしとリツコの徒然草
あめアメふれフレ
雨は、可哀想な匂いがする。
甘ったるくて鼻腔の奥にまとわりつくような、噎せ返る生ぬるい匂い。
ああ、これは。
信念を貫くことの許されない人間の浮かべる、卑屈な笑みに似ている。
清廉を踏みにじられてやけっぱちになった、子どもの瞳に似ている。
だから反抗するのかな。
植物を枯らし、ブロンズ像を溶かしてしまう酸性雨。
人間の毛根も殺すらしい。
リツコは鼻をならしてして小さく笑い、
「それは恐ろしい反撃だね」
と言った。
そう。
恐ろしい。と、あたしは思った。
残酷な蹂躙を繰り返せば、いつか報いを受けるだろう。
「静かな戦争をしてるみたい」
と言うと、
「じゃあ精々頑張って勝つんだね」
と、返された。
勝つ。
勝つって、どうやって?
あたしは考えたけれど、答えは見つからなかった。
「勝つよりも、仲直りする方が簡単かも」
あたしがあんまり考えるからか、リツコは何故かこっそり耳打ちして教えてくれた。
ああ。それは良いね。
戦うよりも、ずっとずっと気持ちが良い。
あたしが声を上げて笑うと、リツコも同じように声を上げて笑った。
なんて安易で率直な、困難にまみれたこの世だろうか。
作品名:あたしとリツコの徒然草 作家名:ハル