あたしとリツコの徒然草
それが現実の世界だ
生まれ変わったら風になりたい。
間違っても人間なんかになりたくない。あたしは風になるんだ。って、小さな頃からずっとずーっと思っていた。
風になったら何をしよう。世界中を巡る旅をしようか。
そうしたらきっと、色々なものが見られるだろう。
パリのエッフェル塔。エジプトのピラミッド。中国の万里の長城に、
ロシアのエルミタージュ美術館。それから、それから……
ヨルダン国境に追いやられたパレスチナ難民。虐殺されるダルフールの黒人。
垢まみれで暮らす北朝鮮のストリートチルドレンに、地雷に吹き飛ばされるベトナムの人達。
あたしはその日、コンビニの募金箱にお金を入れた。
リツコは呆れて、
「考え過ぎだよ」
と言った。
生まれ変わったら人間なんかになるもんか。
だけどだからって、もう風にもなりたくない。
見ているだけで何もできないのは、きっと、とても苦しいから。
その夜布団に潜り込み、あたしは泣いた。
募金箱に硬貨が落ちる軽い音が、鼓膜に貼り付いて剥がれなかった。
「考え過ぎだよ」
とリツコが言った。
だからあたしは、涙を止めることができなかった。
作品名:あたしとリツコの徒然草 作家名:ハル