小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

あたしとリツコの徒然草

INDEX|4ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

それが現実の世界だ



生まれ変わったら風になりたい。

間違っても人間なんかになりたくない。あたしは風になるんだ。って、小さな頃からずっとずーっと思っていた。

風になったら何をしよう。世界中を巡る旅をしようか。
そうしたらきっと、色々なものが見られるだろう。

パリのエッフェル塔。エジプトのピラミッド。中国の万里の長城に、
ロシアのエルミタージュ美術館。それから、それから……



ヨルダン国境に追いやられたパレスチナ難民。虐殺されるダルフールの黒人。
垢まみれで暮らす北朝鮮のストリートチルドレンに、地雷に吹き飛ばされるベトナムの人達。




あたしはその日、コンビニの募金箱にお金を入れた。

リツコは呆れて、
「考え過ぎだよ」
と言った。

生まれ変わったら人間なんかになるもんか。
だけどだからって、もう風にもなりたくない。
見ているだけで何もできないのは、きっと、とても苦しいから。




その夜布団に潜り込み、あたしは泣いた。

募金箱に硬貨が落ちる軽い音が、鼓膜に貼り付いて剥がれなかった。

「考え過ぎだよ」

とリツコが言った。


だからあたしは、涙を止めることができなかった。
作品名:あたしとリツコの徒然草 作家名:ハル