あたしとリツコの徒然草
うそとほんとう
人生に対する行き場のない憂鬱とか、意味のない無気力とか、そんなものの取扱説明書は大抵あてにならない。
笑顔で過ごすことを心がけよう。前向きに思考しよう。
そんな器用な人間だったら、はじめから憂鬱や無気力に悩むもんか。
ふと、空が青い。と、思った。光の屈折のせいだ。
この世は本当は無色なんだけれど、光が屈折して色を生むのだという。
だから、実際には、月も星もない夜の暗闇に見る景色が真実で、明るい太陽に照らされて見る景色は虚像なのだろう。
人生も、そんなものなのかもしれない。
そこに存在しているように見える意義や意味なんてものは実は空っぽで、
あたしたちの中身だって空っぽで、でもそれが空っぽなんだと知っていても何となく、意義とか意味とか中身とかいうものを見てしまう。
それを美しいと思ってしまう。
だからどうしようもない。
実は無いものを賞賛して、あたかもそれが無条件に存在するかのように錯覚している。
だけどそれは、幸せ。なんだろうな。
無いものは無い。無いけれど、在った方が楽しいし嬉しい。安心できる。
それなら、無いより在る方が良い。
頑なに無いんだと言い張るよりも、在るんだと誤魔化される方がずっと良い。
「無い。のに、在る」
あたしが呟くと、リツコは笑った。
「在るんだったら、在るんでしょ」
あたしも少し笑った。
在る。から、在る。
そういうことにしておこう。
作品名:あたしとリツコの徒然草 作家名:ハル