看護師の不思議な体験談 其の十七 『春のホタル』
「Kさん、どこに行った?」
後輩K「えっ、ついさっきまでベッドに…」
あたふたし始めるスタッフたち。
「やばい、またいなくなっちゃった。リーダー、各病棟に電話連絡お願いします!」
今日もKさんは行方不明になっていた。ナースステーションからガラス越しに中が見える部屋に入室しているのだが、ふと気付くといない。
遠くで師長が「受け持ちは何してるの!」と、後輩Kに怒鳴っているが、私たちにも限界ってものがある。
「24時間、1分、1秒も目を離すなってことですか!?じゃあ、私の受け持ちKさんだけにして下さいよ!」
後輩Kがくってかかっている。
「だいたい、この部屋だって、重症患者さんのための部屋なのに。Kさんが認知症で徘徊するからって理由で使ってるんですよ!」
師長と後輩Kのバトルは、ここ最近はホントひどい。
「あー、このやり取り何回目ですかね。」
「Kさんが退院となるまで、何度でも続くよ。」
ため息つきながらも、Kさんの行方を捜す。無事、Kさんは別の病棟のスタッフと一緒にエレベーターから降りてきた。
Kさんは変わらず、にこにこと可愛らしい笑顔。
しかし、そばにいるベテラン看護師は、ムスッとしている。
「こちらの患者さんをお連れしましたー。」
「あ、ありがとうございます!助かりました!」
「うちの患者さんのご飯を勝手に食べてましたよ。」
「す、すいませんでした…。」
他病棟にまで被害が…。平謝り。
K「畑に水を撒こうと思うたんだけど。道が分からんで。」
「Kさん、一緒に部屋に戻りましょう。」
(まあ、確かに、こんな調子じゃ落ち着いて引越しはできないよね…。)
長男夫婦の気持ちも分かるし、複雑…。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十七 『春のホタル』 作家名:柊 恵二