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看護師の不思議な体験談 其の十七 『春のホタル』

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 80歳、女性患者、Kさん。身なりもきれいで、かわいらしい笑顔が印象的な患者さんだった。背が低く、腰が曲がっているKさん。でも意外に足腰は丈夫で、動きは素早い。
「よろしゅうお願いします。」
 同室の患者さんに丁寧にあいさつしている。見た目は、いたって普通なのだけれど。
「お姉さん、ここはいったいどこかね。家へ帰ろうか。」
「ここは病院ですよ。検査が終わってから帰るんですよ。」
「はあ、ごはんの用意をしないと。」
 そう、軽度の認知症がある。

 入院の目的は、『大腸精査』。実際は、社会的入院だった。
50歳長男とその妻に、直接詳しい話を伺うことはできなかったが、医師の話からすると介護に疲れているのが感じ取られた、とのことだった。家の引越しがあるため、5日間ほどKさんを入院させてほしいというのが今回の入院の理由だった。
 もちろん、病院側も、そのような理由で入院を引き受ける事はできない。しかし、主治医がもともとKさんを長年診てきており、その医師が長男夫婦の心身状態を見て、Kさんの入院を許可したのだ。5日間という約束で。