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海竜王 霆雷 顔見せ2

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 人差し指を突きつけて、そう吐き出した。言葉にしたのではない。そう心で呟いた声に反応したらしい。指名された相手は、びっくりはしたが、それでも、構え直して、「深雪が頼りない主人なのは明白なことだ。」 と、言い返した。予想通り、そう言ったのは、先代黒竜王の子息だ。本来は、ここに並ぶ資格はないのだが、父親が連れてきた。その父親は、びっくりして息子を諌めようとしているが、遅かった。
「誰が頼りないだとぉっっ。俺の親父は、最高に強いっっ。おまえなんかに、悪口言われる筋はねぇっっ。」
 ぴきっと音がしたように、小竜のこめかみが動いて、暴言には暴言とばかりに人差し指を突きつけたままで怒鳴った。背後から溢れる波動は、小竜にしては禍々しいほどの妖気を含んでいる。
「そんなことを言うなら、俺と戦え。俺は、今のところは親父より弱いが、おまえよりは強いぞ。・・・・俺を負かせたら、おまえの悪口を認めてやる。」
 ぞわりと周囲が冷気を感じるほどの怒気は、凄まじかった。ただの小竜ではない。その場にいたものが、その勢いに押されてひれ伏しそうになるほどの迫力だった。名指しで怒鳴られたほうは、へなへなと座り込みそうになっている。このまま暴走してはまずいと、次代の竜王たちが、その小竜のいる空間に飛び上るが、まだ止めるつもりはない。増大する妖気のような波動は、さすがの先代たちも驚かせた。こんな波動は、竜族にはないものだ。
「・・・・霆雷。」
 まさに、鶴の一声とでも言うように、その静まり返った空間に、温かい波動の声が響く。ふわりとした空気を纏わせている水晶宮の主人が苦笑するように呼んだ。
「なんだ? 親父。」
「戻りなさい。私の評価というものは、概ね、そのようなものだから気にしなくていい。」
「なぜ? 」
「私は身体が弱かったからだ。お戻り、霆雷。ここは、公式の場。おまえのような小竜が騒ぐ場所ではない。」
 ふいっと深雪が手を手前に引くようにすると、小竜はずるずると戻っていく。その身体を抱きとめて、陸続が壇上へと運び、父親に手渡した。そして、他の弟たちに目配せして、全員が、また、一番後ろの位置へと戻った。
「申し訳ありません、長、まだ、霆雷は子供で、失礼なことをいたしました。この場で深くお詫びいたします。」
 子供を抱いたままで、深雪が膝を付いて頭を下げる。同様に、華梨と美愛も膝を折り叩頭する。
「美愛が選びました婿殿の教育は、これから、私共が責任を持ってさせていただきます。ただ、我が娘の黄龍が選びました婿殿について異論を唱えられるお方があるのなら、私くしも対処させていただかなくてはなりませぬ。黄龍が選んだ婿殿は絶対です。その竜の理を受け入れられぬということでしたら、その方は、竜族に弓引くと判じられても仕方がない。」
 ぎろりと華梨も先代黒竜王の子息を睨みつける。波動を溢れさせることはしていないが、それでも、黄龍だ。それだけでも、かなり凄まじい気迫である。そして、最後に美愛も、睨みつける。竜族に翻意があると判じて、裏切り者として処断する、と、言葉でなく告げているのだ。
 ひっ、と、声か息かわからない音を出して、子息が蹲る。先代の黒竜王は、慌てて、「失礼はいかばかりかと存ずるが、翻意などございません。どうか、お許しをっっ。」 と、叩頭した。
「では、これにて、『顔見せ』の儀は終る。先代黒竜王殿も子供がしたことです。お気になさるな。」
 長である青竜王が取り成すようにして、儀式の終わりを告げると、そのまま壇上から奥へと歩き去る。それに続くように竜王が退出して、壇上で叩頭していた主人夫婦と次期主人も立ち上がる。
「先代黒竜王様、失礼いたしました。」
 主人が、床に平伏してしまった先代竜王に声をかけてから、小竜を手にしたままで奥へ歩く。子息のことは、わざと無視した。水晶宮の現主人である深雪は、先代黒竜王よりも地位は上だが、礼儀として詫びたからだ。
「先代黒竜王様、ご意見がおありでしたら、私くしに申してくださいませ。私の夫を、些細なことで煩わせたくございません。私くしの選んだ夫に、何か含むことでもありましょうや? 」
 主人が奥へ入ってから、再度、華梨は立ち上がり、先代黒竜王を睨みつける。容赦はしない。なんせ、一族の主要なものの前で、水晶宮の主人を詰ったのだ。竜族最高次位のものを詰るなど、あってはならない。
「おかあさんっっ、俺も俺もっっ、参加するっっ。」
 何もない空間に、すいっと、また小竜が現れて、母親の肩に手をかける。背の君が加勢なさるなら、私くしも、と、美愛までもが、母親の横に並ぶ。三匹の龍に睨まれたほうは、親子して、腰が抜けたように蹲ったままだ。誰もが取り成すこともできず、固まっている。さすがに、黄龍に睨まれては生きていられない。
「そろそろ取り成すか? 」
 こそっと文里が、白那に声をかけた。これを宥めるなら、先代長と先代主人の役目だろうと考えたが、先代主人は、「まあ、待て。」 と、笑っている。乱入しようとした自分の妻の手も掴まえて、先代主人は待っていた。ここで、先代が宥めるのでは意味がない。
「あなた様、美愛公主。」
 奥から、少し厳しい声がして、それに、黄龍たちが振り向く。壇上までは昇らずに、現主人が声をかけた様子だ。
「子供の失礼に対して、そのようなことはなさいませんように。どうぞ、お戻りください。」
 あっと霆雷の姿が消えて、それから、二匹の黄龍も、一度だけ、蹲るものたちを見下ろして、それから、ゆっくりと踵を返した。小竜は、深雪の超常力で跳ばされたらしい。



 文里も、ざわざわとざわめく一族のものを眺めていたら、碧海に腕を取られて、背後の扉に誘導された。同じように、先代の三人も、次期竜王たちに案内されて、その場から退出した。後は、蹲るふたりを残して、ゆっくりと一族のものが広間を出て行く。すべてのものが退出してから、水晶宮の丞相が、ふたりの前で叩頭する。
「おふたりに、主人より、今後は水晶宮への出入りを禁ずるという言付けをお届けいたします。どうぞ、速やかに、ここを退出くださいますように。」
 それだけを告げる。そして、左右の将軍が、ふたりの身体を引き摺るようにして広間から追い出した。正門より放逐するためだ。






 一部始終を、こっそりと見学していた東王父と西王母は、くすくすと肩を震わせていた。なんとも威勢のいい小竜だ。そして、立派に成長した孫にも感動した。
「やはり、私くしは後見をしたいと思います、あなた様。」
 西王母は、笑いを治めて、自分の夫に、そう告げた。二代に渡って後見をするというのは珍しいことではあるが、それでも、あの小竜とは付き合ってやりたいと思うのだ。
「もちろん、私もですよ、あなた様。深雪は、いろいろと悩んでいると書状で知らせておりました。何、私達がやるといえば、大半のものは遠慮してくれるはずだ。後見という立場に固執せず、他の立場で支えて欲しいと、深雪が頼めばよろしい。」
作品名:海竜王 霆雷 顔見せ2 作家名:篠義