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海竜王 霆雷 顔見せ1

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「深雪とは、こんなにのんびりしているくせに、俺には、そういうのはないのか? 」
「ないだろう。」
 すんなりと、そう言って、彰は笑っている。天宮で報告して、すぐに、深雪に会いに走った。長いこと待たせたし、それなりの援助をしてくれた深雪には、会って、礼を言いたかったからだ。威には、そういうものはない。
「俺だって心配してたんだ。」
「ああ、威も心配はしていたよ、彰。うちに来て、いちいち、ぐちぐちと、おまえの悪口を吐いてた。」
 ははははは・・・と、深雪は笑って、立ち上がる。追い駆けてきた相国と大司馬に手を挙げる。ふたりも恭しく叩頭する。
「威様の訪問の用件ですか? 相国、大司馬。」
「いいえ、それではありません。長が紅竜王様とお戻りで、至急、主人殿と話したいことがおありだそうです。」
「私くしめは、出仕のご挨拶にまかりこしました。」
「ああ、おかえりなさい、大司馬。・・・もう少しゆっくりなされればよろしかったのに・・・」
 相国の用件は、こちらも考えていたことだ。そして、しばらく、実家に戻っていた大司馬のほうに、先に声をかけた。年齢的には、そろそろ引退してもおかしくないのだが、当人が身体が続く限りは、と、言ってくれるので、そのまま大司馬の地位に就いている。とはいうものの、ちょっと腰を痛めてしまって、静養するために実家に戻っていた。公式の行事であれば、その顔は必要だが、今のところは、そういったこともなかったので、ゆっくりしてこいと送り出したのに、半年もしないうちに戻ってしまった。
「腰はもういいのか? 季迪のじいさん。」
 公式の言葉遣いをやめて、深雪も、大司馬の前に腰を折る。ここにいるものは、そういう態度でも驚くものはいない。
「ちょっと違和感があるが大したことはない。」
「いや、だから、ちゃんと治せ。」
「おまえ、わしに霆雷を拝ませぬつもりか? 」
「・・・あのさ・・・こいつ、これから、ずっと、ここにいるんだぞ。慌てる必要はないだろう。」
「深雪、どうせ、『顔見せ』には、わしも並ばねばなるまい。それが終ったら、また休むから心配するな。」
 長が戻ったのも、その用件だ。水晶宮の次期主人が伴侶を決めて戻れば、その伴侶を、一族に紹介する『顔見せ』と呼ばれる行事が行われる。成人していれば、一族以外にも紹介して、大々的に宣伝する『お披露目』というものになるが、まだ小竜だから、身内だけということになる。身内だけといっても、一族のお歴々たちを呼ぶのだから、水晶宮のほうも主人以下幕僚までが、きちんと並ぶ必要があるのだ。特に、大司馬という威厳たっぷりの季迪が、そこにいなければ、ならない人材でもある。
 しかし、だ。季迪には知らせていなかったのだ。
「つまり、孤雲さんが呼び戻したってことか? 」
「そろそろ周辺が騒がしくなってまいりました。なにせ、次期様は神出鬼没なお方ゆえ、一族のもののみならず、他の一族のお方にもご尊顔をお見せになります。一族だけでも、『顔見せ』をいたしませんと・・・」
 嫌みったらしく公式の口調で、相国が、そう言うと、顔を上げた。すっきりとした紫翡翠の瞳が、細められて苦笑している。
「すでに、東王父様が、後見を申し出てらっしやった。・・・・・それだけじやないぞ、深雪。朱雀のほうも、今度は・・と、張り切っている。おまえの時は、白虎が後見したからだと思う。」
 現主人殿の後見は、先代の白虎の長と、東王父、西王母という、とんでもない面々だった。本来、後見は、ひとりでいいのだが、誰も譲らなかったからだ。その時、次期様だった現朱雀の長は、この間の騒ぎで、霆雷を気に入ったらしく、「私も育児に参加したい。」 と、冗談を言っていたほどだ。
「また、東王父様は諦めてないのか? 気が長いことだ。」
 早々と後見を申し出た東王父に、威が大笑いしている。なんせ、深雪の時は、人見知りが激しかったので、なかなか懐かなくて抱き締めることも叶わなかったからだ。
「東おじさんには悪いことをしたからなあ。」
 深雪も苦笑するしかない。なんせ、抱き上げたら泣いて跳んで逃げていたからだ。呆れられるはずのことをしていたが、それでも愛情は注いでくれた相手だ。
「なんにせよ、長たちと相談して、雷小僧の顔見せをやらなければならないよ。」
 周囲が、勝手に盛り上がってしまっては、黙っているわけにもいかない、というのが、相国の意見だ。確かに、そういうことだ、と、深雪も頷いた。







 彰と威に、霆雷の世話を押し付けて、ひとまず公宮に、大司馬と相国と共に戻った。そこには、竜族長の青竜王と、紅竜王が待っていた。ついでに、竜王修行をしている深雪の息子も従っている。
「ようやく、見つかったそうで、何よりだ、深雪。」
 長は、穏かに微笑んで頷いた。同様だ、と言うように紅竜王も頷く。竜族トップのふたりが居ると、そこは威厳のある雰囲気になるので、誰も口を開かない。
「伯卿兄上、仲卿兄上、ご心配をおかけしましたが、美愛も無事に婿を選ぶことができました。・・・・『顔見せ』についてですね? 」
 この場合、水晶宮の主人である深雪が対応する。いつもなら、華梨が差配するところだが、たまたま留守にしていた。
「私のほうにも、東王父様から正式に後見の申し出があった。まだ、時期尚早とお答えしてあるが、収まるとは思えないし、後見を指名する前に一族に、『顔見せ』だけはしなければ順序がおかしくなるだろう。早急に、そちらをやってしまおうと思うのだ。どうだろうな? 深雪。」
「確かに、周囲が騒がしくなって参りました。伯卿兄上のおっしゃる通りだと思います。こちらにも、朱雀の若長から後見の申し出がありました。」
「はあ? 胡が、そんなことを? 」
 さすがに、そんなところから後見の話がくるとは思っていなかった青竜王は声を上げた。青竜王妃の廉は、朱雀の一族である。廉の実弟が長になっているので、その人となりは、よく知っている。大人しく冷静な胡が、唐突に、そんなことを言い出したのが驚きだ。姻戚だから、と、万事控えめにしているのが常の胡である。それが、そんなことを言い出したのが不思議でならない。その様子に、水晶宮の主人も相国も頬を歪めて、先日の小竜の乱入について説明した。
「ええ、先日のことで、胡兄上が霆雷を、いたくお気に入りになられて・・・・今度は育児に参加したいと笑っておられたのです。なにせ、うちの小竜は人見知りをしませんから。」
「ああ、そうだったな。あの乱暴者は、おまえと違って、誰でも友だちにしてしまうからな。」
 やれやれ、と、青竜王は苦笑するしかない。末弟の深雪は、人見知りが激しくて知らないものには、警戒心一杯で逃げ惑っていた。胡とは、たまたま知り合う機会があったから、可愛がって貰っていたのだ。深雪も霆雷も、竜としてではない超常力を持っているから、自分に対する好奇心や悪意には敏感だ。それがないもの、または、好意を感じてくれているものなら、問題はないが、それでも、対応はまるっきり逆なのが、おかしいといえばおかしい。
「深雪、立っていないでお座り。それから、温かいものを。」
作品名:海竜王 霆雷 顔見せ1 作家名:篠義