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愛妻家

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作品を発表した数ヵ月後、畠田さんは死にました。
癌でした。
本人もわかっていたようです。だからこそ、頼んだんだろうなぁ。
私はすぐに実行しようとしました。
出来るだけ早く彼の最後の悪戯を話したかった。
誰でもいいから。
まずは畠田先生に一番陶酔していた鑑定士の高塚氏の家に行くことにしました。
先生が亡くなってさぞ嘆いているだろうと思ったのです。
電話で話したいことがあると連絡を入れると、いつでもいいから来てくれと言われました。
私ももう仕事が手につかないくらいうずうずしていたのでそれならばとその日の午後には彼の家へ向かったんです。
ところが高塚さんは嘆いちゃいなかった。
既に笑っていた。
そして実は僕からも話があるんだが先にいいかな?…なんて言うんです。

―いいですけど…なんですか?

―実は、畠田大先生の遺作についてなんだ。

―えっ!本当ですか。実は私もなんですよ。

―そりゃすごい偶然だ。…んん?偶然じゃないのかな。もしかして畠田大先生は君にも話してたのかぁ。あの作戦。

―…どうやらそうみたいです。

―なんだなんだ。せっかく驚かせようと思ったのになぁ。まぁ、君と畠田大先生はとても仲がよかったから当然と言っちゃ当然か。…それにしても面白かったよ。本当にあの人は面白い人だった。まさか兎が新幹線なんてね。思いもしなかったよ。

…そうです!
あの人は…あの人は、確かに『ぴーまん』と言いました。一筆書きも手元に残ってます。
ところが高塚氏は絶対に『新幹線』だと言う!
おまけに一筆書きも持っていたんですよ!日にちまで全く同じで!

…そこからはもう嫌な予感しかしませんでした。
私たちは畠田先生と親しい関係を持った人たち全員に聞き周りました。
案の定全員が全員嘆いていなかった。
そして全員が全員全く異なる一筆書きを持っていたんです。
…総勢なんと12人。
揃いも揃って特に親しかった人間ばかりです。
私たちは12人全員急いで畠田宅へと向かいました。奥さんに話を聞きに行くためです。
『兎』について聞きたいことがあると電話すると、一旦押し黙った後了承してくれました。
奥さんは…奥さんはさすがにまだ切なげな表情を浮かべていました。
黒い喪服を着たままで、少し痩せた様にも見えました。
でもなぜかホッとした顔もしていた。
何か重たい荷が下りたような…。
彼女は私たちを居間に通すとお茶を出しました。
どうやら最初からずっと私たちを待ちわびていた様子なのです。
ここまで来るともう、私たちも薄々感付いていました。
次に奥さんが何を言うつもりなのか。
奥さんは深く深く頭を下げました。

―『兎』ではないのです。

あれは、彼本人なんです。畠田登治郎なんです。
と言いながら。


作品名:愛妻家 作家名:川口暁