小鳥と少女
ぷるぷると指が震える。
「白く、ないんですか?!」
「真っ白の目の人はあまりいませんけどねぇ」
そんな。
白鷺はこの塔から出たことがない。
塔には鏡なんて上等なものはない。
魔女はわざわざ瞳の色を教えてくれたりなんかしない。
因って、彼女は自分の目の色を知らなかった。
白白と言われてきたので、自分に白くないところなどないのだと思っていたのだ。
「なぁんだ……」
魔女って嘘つきだ。
白鷺は溜め息を吐いた。彼らはいつも白鷺を白い白い真っ白だと蔑むけれど、ちゃんと白くないところもあるのではないか。まったく。
……まったく。
良かった。
「……教えてくれて、ありがとうございます、小鳥さん。……小鳥は、何と呼べばいいんですか」
「ほ?」
白鷺がぼんやりと尋ねると、小鳥はこくんと首を傾げた。それからぷっと嘴が開きかけ、数拍置いて閉じる。
「何とでも、呼んで下さい」
「何とでも?」
「ええ。白鷺嬢、貴女はそれでも魔女ですね?」
何がそれでも、なのだろうか。夕日に白い顔を赤く染められながら、白鷺は首を縦に振る。
魔女にはなれない。けれど、ひとでもない。魔物でも、鳥でも、虫ですらない。
だから、魔女になれなかった魔女。
そう、彼女は自分を評している。
「それが?」
「私は鳥なのですよ」
「小鳥ではなくて?」
「……まぁそうとも言いますが」
些か不本意そうな声音だった。
ふと、白鷺は願ってみたくなった。
「ねぇ小鳥さん」
「何ですか?」
「また来てくれますか?」
小鳥はきょとんと眼を丸くした。
「ここへですか?」
「はい」
「来るつもりですよ」
「本当ですか! ……あれ?」
つもり?
「鳥は恩義を忘れぬものです」
「はあ。……それはあまり私に関係なく感じますが」
「私は助けていただいたと感じたのですよ。それが全てです」
そういうものだろうか。
白鷺は上手い反論が見つからなくて、曖昧な表情になった。
「こんなところで一人っきりではつまらないでしょう」
「ええ」
白鷺は即答した。
本当に本当に退屈なのだ。ああ、うんざりするほどに。
「魔女相手でしたら、私もおしゃべりくらいは出来るのですよ。大して恩返しにはなりませんが、それぐらいでしたら」
そう言って、ふふふと笑ってから、小鳥は窓の外側の縁を蹴った。そのままばさばさと羽撃いていく。
呆気ないほどあっさり、小鳥は去っていった。
「ヘンなの……」
白鷺はぽつんと呟いた。