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オーロラのたなびく地で。

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空に星が瞬きかけてきた頃、遂に目標が見えてきた。
「ここだ!」もはや私の体力は限界寸前。
足が棒になってきたというより、私の意志とは無関係に前へ前へと進んでいるように感じられてきた。
「…で、オーロラって一体どういうの?」レニィの言葉に全然疲れは見られない。
そう、そこは漆黒の空に満天の星、どこにもその兆候は見られなかった。
「出ないね…オーロラ」ほっと白いため息をはいて、私はその場にどっと座り込んだ。
「でもしょうがないよ、いっつも観られる訳じゃないんでしょ?ここへあなたが来られただけでも十分収穫だって」
レニィは、ザックから取り出したカップに雪をさくさくと入れていた。

「やっぱ…駄目…か」
私がそうもらした瞬間

ざわ……ざわざわ…
遠くに立っていた木々が、まるで何かをささやくかのようにさざめき出した。
「何…これ…」
風が吹いているわけでもない、頬に寒さは感じられないから。
立ち上がってあたりを見渡すが…熊とかの生き物でもない、だって周りの木立が一斉に動いているんだから。
そう…何かが、何か別のものが「吹いて」いるのだ。

その「吹くもの」は、しだいに私たちの方へと範囲が狭まりつつあった。
「きゃっ!」
一陣の風…いや違う、それは刺すような冷たさじゃなかった。
何かこう、ビロードのような滑らかさと、懐かしい匂いが感じられたのだ。
レニィが何かを叫んだ。
「ねぇ、これ…一体!?」
「!!!」

空一面にカーテンが舞っていた。
今まで見た事もない「色」が幾重にも重なった、言葉じゃ形容できないカーテンが。
それは、吹いていないはずの風に舞いながら、1秒ごとにふわりと形を変えていた。
「す…ごい、これがオーロラ?」レニィぽかんと口を開けて魅入っている。
「…………」


─とっても寒い日の夜にね…空と風が七色のカーテンに変わるんだよ─
あのときの祖母の言葉が耳をよぎった。
(空だけじゃないんだ…私たちの入る…ここも)

ふと、十メートルほど先に人影が見えた。
(今まで人なんていなかったのに…一体?)
全然動かなかった足を、その人影へと進める。
姿がおぼろげに見えてきた。

「あ…」
そう、私は…知らないけど知ってる…

心の中に、暖かな話し声が聞こえてきた。

─ごめんね、こんなところにまで連れてきちゃって─

─ほんと、あなたって変わってるわね、「オーロラをこの子に見せてあげたいんだ」っていきなり言うんですもん─

─あぁ、僕の計算だと、今日を逃せば10年以上は見れなくなっちゃうんだ─

─だから…ここへ?

─そう…きっと君は喜んでくれるんじゃないかと思ってね─

─あなた…







─あら、この子…オーロラみて笑ってるわ─

─判ってるんだね、きっと…

─そうね、きっと…


「私、見てたよ…そして今も…見てる…」

不思議と涙は出なかった。
だって、それ以上に心の中が暖かかったから。