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海竜王 霆雷10

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「これで空を飛んだら、気持ち良さそうだ。」

・・・そのうち、そうなる。・・・・

 すぐに、また、人型に戻った美愛の父親は、「他にはありませんか? 」 と、再び、尋ねた。初日で、自分が考えていたのは、この父親のことだけだったから、彰哉は、「もう、ない。」 と、返事した。では、戻りましょう、と、ゆっくりと下降する。


 眼下の建物の中庭には、美愛が待っていた。そして、降りた途端に、「ずるいっっ。」 と、彰哉に詰め寄る。
「なにが? 」
「父上の竜の姿なんて、滅多に見せてくださらないのにっっ。父上、非常に理不尽ですっっ。」
「え? そうなの? 親父さん。」
「おやおや、そんなことで理不尽なんて、お言いでないよ、美愛。私は、成る必要がないからならないのだからね。・・・彰哉は初対面だから、お見せしたまでだ。」
 でもっっ、と、さらに言葉を続けようとして、美愛の背後に控えていた男が、口を挟んだ。本来、水晶宮の主人は、戦闘体型である竜型になることはないと言うのだ。
「主人殿に申し上げます。軽々と、それをお見せにならなくても、月灘様が、こちらの世界に馴染まれたら、わかることです。自重していただきたく存じます。」
「衛将軍、そう固いことをおっしゃるものではない。・・・美愛、私は仕事に戻るので、あなたは、彰哉と、ゆっくりしていてください。」
「はい、父上。明日、公宮を見学してもよろしいですか? 」
「構わない。来るなら、先触れをしてくれ。」
「承知しました。」
「けっして、彰哉を一人にしてはいけないよ、美愛。ここは、とても広いのだから迷ってしまう。」
「はい、承知しております。」
 申し訳ない、と、彰哉に付き合えないことを詫びて、美愛の父親は、ふわりと飛び上がった。続いて、さっきの男も続いて飛び上がる。
「あれ、誰? 」
「父の護衛です。」
「そんなものまで付いているのか? 」
「形式的に、そういうことになっています。ですが、父にとっては、護衛とは思っていないでしょうね。」
 美愛は、身近で、護衛を見ていた。父親を護るべき護衛が、その父親に殴る蹴るの暴行を加えているのだから、護衛ではないだろう。どちらかといえば、口うるさい兄ぐらいの感覚だ。何百年も繰り返されている食事時の攻防というのは、誰もが微笑ましいものとして眺めている。
「美愛にもいるのか? 」
「いいえ、私には付いておりません。私は、神仙界最強ですから。」
「うん、そうだったな。でも、あんたの親父は、あんたより強いんだろ? 」
 いつも話していた父親自慢は、すっかり耳にタコが出来ている。自分よりも強いと自慢していたはずの父親に護衛がいるというのが、彰哉には解せない話だ。
「小さい頃、父は身体が弱かったので、その頃に護衛を従えておりました。それが、そのまま、護衛についております。万が一、戦うことになったとしても、父には護衛は必要ではありません。ですが、日常では、護衛が必要です。」
「え? なんで? 」
「大変恥ずかしいのですけど・・・・父は好き嫌いが激しくて、食事を適当にしてしまう方なのです。ですから、適当にならないように、あの護衛が食べさせています。さらに、少し浮世離れしてもいるので、勝手に水晶宮の中をふらふらするので居場所をはっきりさせる意味もあります。」
「あーなんか、そういうのわかるな。」
 語られた言葉は重かったが、それが深刻に聞こえなかったのは、あの父親から流れる波動が優しかったからだ。波動から見えるものは、ふわふわとした優しいものだった。最初は緊張していたが、美愛の父親の波動は優しくて、とても落ち着いたものだったから、彰哉も緊張を解いて、ざっくばらんに話せたと思う。
「いいな、あんな親父。」
「あなたが竜になれば、私の父は、あなたの父にもなります。」
 ああ、そうか、と、彰哉は、先程の美愛の父親の言葉に、妙に納得した。家族になるというのは、そういうことだ。
「ですが、彰哉。父は見かけ通りではありません。公式には、のほほんとした方と捉えられがちですが、意外と気が短いのですよ。」
「そうは見えない。」
「あなたは、まだ、お客様で家族ではないから、公式にお話をなさったはずです。私的にお話してみれば、わかります。」
「それ、どうするの? 」
「身内だけの席を、ご覧にいれましょう。明日、仕事場のほうへ訪問いたしますから、その場でなら、それがわかります。」
 公宮で、身内だけの時は、とんでもなく言葉が乱暴だ。家族には、最低限丁寧に話しているが、それだって、面倒になれば、やっぱり、乱暴になる。配下の女官や文官を下がらせている時は、如実に現れる。それを見て、彰哉は驚くだろう。それが、今から、美愛には楽しみだった。


 翌日、公宮に訪問したが、美愛の父親は公式然とした態度で執務をこなしていた。周りに居るものも、公式の様子で、丁寧に応対している。挨拶は、必要ではないと言われたが、彰哉のほうは、「こんにちは。」 と、元気良く頭を下げた。
「昨日は、よく眠れましたか? 」
 穏かに、美愛の父親は尋ねてくれる。大きな執務机の対面に立って、彰哉は、「いつも通りに喋ってよ。」 と、いきなり切り出した。
「はい? 」
「美愛が、いつも通りに喋ると、親父さんは違うって言ったんだ。」
 周囲の幕僚たちは、内心で、「そりゃ天地ほど違うだろう。」 と、頷いていたが、平静を装っている。どうするのかは、主人殿次第だ。今現在、ここには傍付きの女官や文官たちもいるから、おいそれと素に戻るわけにはいかない。
「さて、どうしたものだろうね? 丞相。」
 相手は、優雅に笑って、傍に控えているものに尋ねる。
「主人殿の思われるままでよろしいかと存じます。」
「本日、急ぎの案件もございませんし、ここで、一息いれられてはいかがでしょうか? 主人殿。」
 逆の方向に控えているものは、そう言って、すでに、人払いをしている。仕えて期間の短いものや他の宮から出向いているものは、主人の素顔を知らないから、追い出される対象となる。なにせ、長いこと、大人しい居るか居ないのかわからない主人というのを表の評価にしていたから、いきなり、乱暴なことをするわけにはいかないからだ。

 部屋が静かになると、やれやれと、主人は伸びをした。執務机の向かいに椅子が設置されて、そこに茶器が用意される。
「まあ、お茶でも飲め。・・・美愛、あまり俺のことをばらすのは、どうかと思うんだけどな。」
 いきなり、言葉遣いが変わったので、げっ、と、彰哉が声を上げたら、周囲から笑い声が出た。
「ですが、父上。彰哉は、私の背の君となるお方。取り繕う必要はございませんよ? 」
「そうだけど、あまり威厳がないのも、あなたの父親としてはダメだと思うぞ。ただでさえ、頼りないとか言われているのに、さらに、がさつで乱暴者というのは、どうだろうな? 」
「父上、乱暴者というより気が短いが正解です。がさつではないと思います。」
「・・・気が短いね・・・そういうことだろな。」
 あははは・・と笑って、茶器に手を伸ばす美愛の父親は楽しそうだ。昨日は、ただ穏かで優しい波動だと思っていたが、それだけではないらしい。
作品名:海竜王 霆雷10 作家名:篠義