海竜王 霆雷10
「そうやってると、余計に年齢関係が疑わしいぞ、親父さん。」
「ああ、そうだろうな。だから、彰哉も気兼ねしなくてもいい。俺は、こういう性質だから、言いたいことは言葉にしてもらわないとわからない。」
「なんか友だちが出来たみたいな感覚だ。」
「それでいいんじゃないか? とりあえず、ここの案内をしてもらって、何日か過ごしてみるといい。それでも、帰りたいと思わないのなら、その時に、そう言ってくれ。・・・・ただし、これだけは考えてほしい。竜になるというのは、二度と人間には戻れないから、人間としてやりたいことを考えておけ。」
とても単純なことでもいいのだと、美愛の父親は続けた。例えば、連載しているマンガや本を最後まで読みたいということでもいいし、ファーストフードやレトルト食品が食べたいということでもいい、と、言う。
「ひとつずつ考えて、俺に教えてくれないか? 時間は一週間。」
「それがなかったら、俺は、ここに引越しってこと? 」
「さあ、その時に結論を出せばいい。美愛、おまえも、すぐに、ここに戻ることを考えなくてもいい。人間の彰哉と出来ることを考えてごらん。竜になったら、竜族の領域以外では、彰哉は人型にはなれなくなる。人間の彰哉なら、どこへでも、そのまま行けるんだ。」
あ、と、美愛は、父親の言わんとすることは理解した。竜になってしまったら、彰哉は、竜族の領域内でしか人型になれないのだ。広い領域ではあるが、それでも、そこに閉じ込められることに違いはない。だから、慎重に考えろ、と、父親は説明している。
「美愛、深雪は、何も、彰哉を竜にしたくないのではない。その変化が穏かなものであればいいと願っているから、そう言うんだ。 どうか、そこは間違えないでくれ。」
傍に控えている衛将軍が、そう付け足す。確かに、そうだ。簡単に竜になれ、なんて言っている場合ではない。自分も考えなければならない。美愛は、「わかりました。」 と、力強く頷いた。