むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編5
小娘には小娘の理屈がある。だが、それは作品を本当の意味で作っていない芝崎には理解できないこと。
「なんでそんなこと……オレがゲームの中で侮辱されなきゃいけないんだッ! なんでプレイヤーの前でオレが恥かかなきゃいけないんだッ!」
芝崎の姦悪さに小娘もイライラしている。
「ゲームで失ったのはゲームで取り返す。当たり前じゃん。会社潰して作品に泥塗ったんだから、あんたが作品の中で泥すすって作品にわびる。そんなこともわかんねーのかよ! オレのエター、オレのエターっていつも喚いてんだ。ちったあ作品の役に立ってみろっつーのッ!」
「……ぶ、侮辱、侮辱だ!」
豚は吼えた。
「謝れ! オレたちに、オレたちに謝れええええッ!」
なまっちろい豚野郎は目を血走らせ、口から泡を飛ばして発狂した。市原も炎上する部下に手がつけられない。否。手をつけるつもりなどないのだろ。市原は本心では部下の恥辱を大喜びしている。
――オレの地位を取って代わろうなんて、なめたこと言ってんじゃねえ。
市原は腹の中で笑っているのだ。
「謝れとおっしゃいましたか……」
大井弘子が目をぎらりと光らせた。それは、普段温厚な姉が見せない表情。襲い掛かってきた酔漢の顎に蹴りを入れて相手の奥歯叩き割った時の表情。
「それで……本当にいいのですか? 謝罪しろというのであればしますが……」
「おまえらが悪いんだ! おまえらが! なんだ、偉そうに、救世主面しやがって! いったい何様のつもりなんだよ!」
芝崎は発狂したまま喚く。
「偉そうに御託ばっかり……おまえらがいなくてもオレたちがいれば、エターは回ってくんだよ! 越田、間、オレ……その三人がいるからこそのエターなんだよ! オレたちが主人公で……おまえらはオレたちを輝かせる脇役でいいんだよ!」
丸山花世は、いつものように『こいつ馬鹿だな』とは思わなかった。そうではなくて別のところにはっとしたのだ。
救世主。
その言葉は不思議な輝きを放っていた。それは多分芝崎という男の心を読み解くキーワード。救世主という言葉が素直に口から飛び出してくるような人間は……自分が救世主になりたいと常に思っているということ。九年間続いた作品。
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編5 作家名:黄支亮