むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編5
丸山花世は不思議そうに尋ねた。悪意もなく、ただ不思議そうに。その表情に芝崎は、変な間を作った。怒りに『?』で応じられる。そんなことを芝崎は予測していなかったのに違いない。
「作品は私ら作り手の交差点じゃんか。それで名声得る奴がいて、落ちぶれる奴がいる。金を得たり、失ったり。作品は私らの人生の投影だよ。スタッフの泣き笑いは当然シナリオに書きこまれる。当たり前のことじゃんか。それが作品に深みを増すわけでさ」
「……」
「そういう意味では、あんたら、これまで本当の意味での作品、作ってきてなかったんよ。ただ漫然と、切り貼りしてただけで。だいたい、市原さんはさ、こう言ったのよ。『魂削って書いてくれ』って。でも、誰の魂を削るかまでは聞いてないのよ。市原さんは私らの魂削れって言いたかったらしいけれど、作品ってそんなに都合のいいモンじゃないからさ。だから、当然、悪辣な重役は芝崎さん、あんたの名前がふさわしいんだよね」
小娘は自説を展開する。
「あんたは……松木っていう人もそうだけれど、最初見たときから、トンチンカンだったんよ。あんた覚えてっか知らんけど、私らと初めて会って、ブランでタイニー作ってるって言ったとき、こう言って喚いてたんよ。『そんなの聞いてねえ』って」
「……」
「あんたねえ……会社でもめてんのか知らんけど、私もアネキも初対面よ。初めて会う人。そういう人間を前に、『そんなの聞いてねえ』とか『オレは認めねえ』とか……それこそ社会人としておかしいじゃんよ」
「……」
「それで、思ったのよ。エターっていう作品がここまでひどくなっちまったのは誰のせいかって。誰かが悪い。誰かが……それは誰だ? 私、思ったんよ。ああ、作品をここまでダメにしてしまったのは芝崎さん、あんただって。あんたが癌なんだって。もちろん松木っていう人も。だから、悪人であるあんたを作品の中でつるし上げてやった。っていうか、あんた、自分では一銭の金も会社に入れず、今まで通りにプロデューサーなんて威張れると思った大間違いなんだよ。自分は身銭切らんと、博打やろうなんて甘すぎる。ちゃんと、テラ銭ぐらい払ってもらわんと。でも、そういう気持もないみたいだしさ。だから、私のほうで、あんたの魂削って、作品の神様に捧げといたんよ。金で払えないんだったら、体で払う。そんなの当たり前だろ」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編5 作家名:黄支亮