むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編5
大井弘子は芝崎を追い詰めている。そして。
――そんなの関係ない、と、テメーは言う!
丸山花世は思った。
「そんなことは……そんなことは関係ないッ! そんなことは……」
退路を塞がれた豚は狂って反撃してきた。それはまさに破裂の瞬間であった。
「そうですか?」
大井弘子はあっさりと譲った。
「なんなんだ、おまえらッ!」
芝崎は退くに退けずにかえって一歩を前に踏み出してくる。
「ちょっとおかしいんじゃないかッ?」
「何がおかしいんですか?」
「何がって……こちらのことを馬鹿にしやがって!」
芝崎にはもはや冷静な判断力はないのか。傲慢さと小心。そして過剰な自己防衛本能。
「いいかげんにしろよ! 態度がなってないのはそっちだろうが!」
「何をお怒りなのですか? よく分かりかねますが……」
大井弘子は冷笑しているわけではない。鋭い視線を芝崎という小物の顔の上に送り続ける。
「いったい、どういう点が私達の態度がなっていないのか……指摘してくださるとありがたいのですが……」
「オレたちのことを馬鹿にした。オレ達が会社を潰したとか、権利を守れなかったとか、オレたちが無能とか……聞くに堪えない暴言ばかり並べやがって! 侮辱だ! 俺達に対する侮辱だ!」
「……」
「スタッフとキンダーに対する数々の侮辱! オレ達はそれを許すことができない」
「俺達ということは……それは、越田さんや、間さんの意見でもあるのですね?」
「そうだ! 謝罪しろ! オレ達に!今すぐだ!」
芝崎はわがままを言っているというよりは、むしろ気が触れている。
「それにな……」
芝崎はまだ何か怒ることがあるらしい。つくづく、気の毒な男である。
「だいたいな、なんだこのシナリオ!」
「シナリオがどうかしたのかよ」
小娘が割って入る。
「会社の……腹黒い、専務の名前、なんで、芝崎次郎……オレの名前なんだよ!」
作中、邪悪な姦計をめぐらせる悪党。その名前は……芝崎次郎。そして、最後はシナリオの中で芝崎は主人公達に半殺しの目にあっている。めでたしめでたし、であるが、それが、芝崎には気に入らないらしい。
「何がまずいん?」
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編5 作家名:黄支亮