むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編5
「大事なのは、向こうの会社で、理解されること……なんだよね。私らと市原だけの関係だと、あとで、市原っていう男は卑怯なクズだから、『そんな話は知らない』って言ってくると思うのね。仮に書面があったとしても偽造だとか……」
「あの男なら言いますね」
三神はどこか楽しげである。
「だから……芝崎を噛ませておきたかった。書面の内容は当然芝崎も見る。で、間や越田も当然、書面の存在も内容も理解する――」
「芝崎のことですから、喜んで回りに話すでしょうね。市原の不面目ですから……」
三神は笑っている。同じ会社にいただけに状況が手に取るように察せられるのだろう。
「で、そうなれば、何か問題が起こっても……」
「確かに。社内ではこうなりますね。『あの二人は確かに確約書を取って外れている』と……」
丸山花世はしてやったり……なはずなのだが、浮かない顔をしている。
「……それは大井さんの策、ですか?」
「うん。そ」
「怖いお人だ……」
三神は……どうも大井弘子の策に感動しているようである。
「もっとも、市原も薄汚い奴でさ。知り合いのライターの話によると、うちらが作ったプロットとか、丸パクリのまま作業を進めているみたいなんだよね……」
「……」
「キャラの設定とか、作品の方向性。小道具……全部使いまわし。時間がないからとかいうことみたいだけれど……でも、そんなのおかしいよね」
「大井さんは何と? 抗議はしないんですか?」
「作品汚すの嫌だからって」
「泣き寝入り、ですか……」
「うん。でも……アネキには何か考えがあるみたいなんだけれどさ」
歯噛みして悔しがる妹に比べると姉は恬淡としている。
――そういうこともある。
そんな風情に悠然と構えているのだ。一方小娘は何時までも悔しがっている。
「プロットとかの事はいいとしてさ……アネキがそういうならば多分それで良いんだよ。アネキ、いろいろ知ってるからさ。業界のこととか作品のこと……私よりもずっといろいろ知ってる。経験が豊かだから」
丸山花世は顔色が冴えない。
作品名:むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編5 作家名:黄支亮