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銀の絆

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 薄暗い部屋。中央にキャンドルを立てて、麻子はその炎を見つめている。
 典子は正面から麻子に向かい合った。
「質問を始めます。貴女にとってお母さんはどういう存在?」
「母さんは神様だ。それは今でも変わらない」
「お母さんの言うことは絶対?」
「当然」
「それを破って罰を受けても、辛いことはなかった?」
「母さんを悲しませてる自分が嫌だった」
「貴女に手を上げるとき、お母さんは悲しそうだった?」
「母さんはいつも泣いてた。
 あたしがもっと良い子だったら、優しいままでいられるのにって」
「自分は悪い子だったと思う?」
「思う」
「それは何故?」
「母さんを泣かせて、母さんに手を上げさせたから」
「お母さんは悪くなかった?」
「悪くないよ。全部私が悪いんだ」
「良いお母さんだった?」
「そうだよ。母さんは最高の母さんだ」
「何故そう思うの?」
「あたしを愛してくれたから」
「質問を終わります」
 典子は立ち上がり、部屋の明かりをつけた。
 突然視界が明るくなり、麻子は目を細める。
「麻子ちゃん。お茶、飲む?」
「いらない」
 ふい、とそっぽを向かれる。少しむくれているようだ。
 典子は微笑み、
「嫌な質問だった?」
と訊いた。
「みんな母さんを悪者にしたがるんだ」
「そう思う?」
「思うよ!」
 子犬が鳴くみたいに高い声。泣き出す直前の子供のような顔をしている。
「どうしてだと思う?」
「知らない」
「考えて」
「知らないったら!」
 本当は分かっているはずだ。母親が自分を虐待していたのだという事実を、知っているはずだ。
 だけど受け入れられない。
 それを受け入れると、何かが壊れる。
 母親への信頼や、愛情。そういったものが、壊れてしまうかもしれない。
 だから守っている。
 現実を受け入れないことで、自分と母親を守っているのだ。
作品名:銀の絆 作家名:ハル