銀の絆
7
結局柚子は一週間学校を休んだ。その間毎日委員長はやってきたが、呼び鈴が鳴っても無視をしていた為にプリントだけが郵便受けに入れられる日々が続いた。
それでも、もう首の痣もすっかり消えた。これ以上不登校を続けるわけにもいかないだろう。
なんにせよ、一週間ぶりの通学路は心地良かった。朝日はキラキラと輝いて、雀のさえずりだって耳に嬉しい。
これで学校に委員長さえいなければ最高なのに、と柚子は思う。
だがいるのだ。彼は。
「おはよう、伊原!」
教室に入ってきた柚子を見つけると、委員長は一目散に駆けて来る。その視線は首元に集中していて、痣がなくなっているのを確認するとほっと息をついた。
「良かった」
本当に嬉しそうに笑う。人好きのする、親切そうな顔立ちをしていると思う。
けれど柚子には、それさえも鬱陶しい。
そうかと思うと、委員長はすぐに神妙な顔をつくって、正面から見つめてきた。
「なぁ伊原。君には君の事情ってやつがあるのは分かるよ。
だけどあんな手形は尋常じゃないし、時々顔が腫れてるのだって俺は知ってた。
一体誰にやられてるんだ?」
それを聞いて、柚子は大きく、しかもわざとらしく溜息をついた。
「それはあなたに関係ないでしょう。私のことは放っておいて」
「伊原。俺の姉さんはカウンセラーなんだ。君のこと、助けてくれるかもしれない。
君が庇ってる人と一緒に、一度受診してみないか」
「人の話をまったく聞いてないのね」
柚子の語調は自然強くなる。
「私は助けなんて必要としてないの。
あなたには分からないでしょうけど、私ってすっごく幸せだわ。あなたが悪者だと思ってるその人は、とってもとっても私のことを愛してくれてるのよ」
「愛だって?」
委員長は素っ頓狂な声を上げて、気の毒そうな目つきで柚子を見る。
「愛している人間の首を絞められる人間なんていやしないよ。
いるとしたらそいつの心は闇に犯されていて、そいつの方こそ誰かの助けが必要なんだ」
その言葉に、柚子はぐっと押し黙る。
確かに、柚子に暴力を振るうときの麻子は尋常ではない。何かを恐れて、何かを思い出しているような、切なげで、狂おしくて、頼りない目をしている。
そんな麻子を見るにつけ、柚子は自分がこの人を愛して支えてやらなければいけないと心に固く誓うのだ。
「ご心配なく。
あの人は私が癒すわ。あなたの助けも、あなたのお姉さんの助けも必要ないの」
そう。世界には二人だけしか必要ないのだから。
麻子だけが柚子を愛して、柚子だけが麻子を救うことができる。
それが自分たちの絶対の世界なのだ。