銀の絆
麻子はその後別れた父親に引き取られたが、父親は既に再婚していて、こちらの家庭にも馴染めずにいる。
カウンセリングは父親の強い希望で、本人は乗り気ではない。
それでも毎週水曜日にやって来るのは、養育してくれている父親への義理のようなものだろうか。
麻子はそっと、左手の薬指にはめた銀の指輪に口付けた。高校生のクセに左手の薬指に指輪をしているなんて、生意気だと思う。
「彼氏に貰ったの?」
「……彼氏、いない。男なんてウザいし、いらない」
「そう。じゃ、自分で買ったの?」
「買った。柚子とお揃い」
「柚子?」
初めて聞く名だ。
「男の子?」
「先生って男に飢えてんの?」
「え?」
典子はギョッとして麻子を見た。麻子はふっと薄く笑い、
「男の話ばっかり」
と言った。
「やぁね。大人をからかって」
違う。子供だと見くびっていたのは自分の方だ。
麻子の外見は、どこからどう見ても『イマドキの女子高生』である。だから男の話に興味を持つだろう、という考えは浅はかだったのだ。
「じゃあ女の子とお揃いなんだ。お友達ね」
麻子が肩を揺らして笑う。典子には何が可笑しいのか分からない。
「そう。オトモダチ」
「違うの?」
「違わないよ。柚子はあたしの大切なオトモダチだよ。
この指輪はね、柚子と私が繋がってる証なの。誰よりも強く、何よりも強くね」
それは、不穏な愛情。典子はぞっとした。
この子はまだ虐待の傷が癒えていない。まだ母親と向き合えていない。
麻子が本当に誰よりも何よりも強く繋がっていたいのは母親だ。
ならば麻子は、『柚子』に何を求めているのだろうか。
典子には分からない。
麻子という子供が分からない。
この娘の心に潜む闇が、分からないのだ。