銀の絆
2
家に帰ると、いつも通りに明かりが点いていない。鍵を開けて冷えた玄関に入り、電気を点ける。
「ただいま」
なんて、誰も応える者はないというのに。
そのまま階段を上がって自室へ入り、買ってきたコンビニ弁当を広げる。
誰もいないリビングは嫌いなのだ。
自分が望まれてはいない存在だと、思い知るようで。
勉強机で食事を済ませる間にも、参考書を広げて読む。学校の成績だけが自分を認めてくれているような人生だ、と、たった十七歳で思う。だから参考書は手放さない。暇さえあれば広げている。
――だけど親は私に興味がない。
そう。興味がないのだ。共働きで、それぞれの仕事に没頭する両親。どちらも家庭を顧みようとはしない。
だから柚子がどんなに成績を上げても、それを誰も見ていない。
それでも良い。自分がやってきたことが数字として現れるだけで、認められたような気がする。
だけど違う。
違う、ということに、漸く気がついた。
こんなことでは誰も自分を認めてくれないし、そんなことには何の意味もない。
意味がないんだ。
――それを麻ちゃんが教えてくれた。
愛されるということ。認められるということが、どういうことなのか。
麻子だけが柚子を見て、愛して、認めてくれる。
胸元から銀の鎖を引っ張って、ネックレスにしている指輪を探る。艶々の銀の指輪だ。
これが二人の繋がりの証。
麻子が柚子を。柚子が麻子を。愛しているという証。
これさえあれば生きていける。
逆に、これがなければ生きていけない。
だって愛される喜びを知ってしまった。
イブが始めて食べた林檎のように甘酸っぱくて、甘美な、体験。
麻子の赤い唇が紡ぐ、愛の言葉。
恍惚とする。
「麻ちゃん……」
愛している。この身とこの心を捧げても足りないくらいに。