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銀の絆

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 家に帰ると、いつも通りに明かりが点いていない。鍵を開けて冷えた玄関に入り、電気を点ける。
「ただいま」
 なんて、誰も応える者はないというのに。
 そのまま階段を上がって自室へ入り、買ってきたコンビニ弁当を広げる。
 誰もいないリビングは嫌いなのだ。
 自分が望まれてはいない存在だと、思い知るようで。
 勉強机で食事を済ませる間にも、参考書を広げて読む。学校の成績だけが自分を認めてくれているような人生だ、と、たった十七歳で思う。だから参考書は手放さない。暇さえあれば広げている。
――だけど親は私に興味がない。
 そう。興味がないのだ。共働きで、それぞれの仕事に没頭する両親。どちらも家庭を顧みようとはしない。
 だから柚子がどんなに成績を上げても、それを誰も見ていない。
 それでも良い。自分がやってきたことが数字として現れるだけで、認められたような気がする。
 だけど違う。
 違う、ということに、漸く気がついた。
 こんなことでは誰も自分を認めてくれないし、そんなことには何の意味もない。
 意味がないんだ。
――それを麻ちゃんが教えてくれた。
 愛されるということ。認められるということが、どういうことなのか。
 麻子だけが柚子を見て、愛して、認めてくれる。
 胸元から銀の鎖を引っ張って、ネックレスにしている指輪を探る。艶々の銀の指輪だ。
 これが二人の繋がりの証。
 麻子が柚子を。柚子が麻子を。愛しているという証。
 これさえあれば生きていける。
 逆に、これがなければ生きていけない。
 だって愛される喜びを知ってしまった。
 イブが始めて食べた林檎のように甘酸っぱくて、甘美な、体験。
 麻子の赤い唇が紡ぐ、愛の言葉。
 恍惚とする。
「麻ちゃん……」
 愛している。この身とこの心を捧げても足りないくらいに。
作品名:銀の絆 作家名:ハル