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銀の絆

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 麻子は泣かない子供だった。
 母にぶたれても、じっと耐えて決して泣かない。
 辛いのは自分ではなく母なのだという意識が、麻子をそうまで強くした。
 そしてそれは、今の柚子に似ていると思う。
 柚子は生理的に涙を流すが、決して声を上げて泣かない。
 痛いとも苦しいとも言わない。
 ただじっと耐えている。
 そんな柚子の目に自分がどう映っているのだか、考えないわけじゃない。
 だが訊かない。
 その答えを聞くのが、怖い。
 それでも柚子の愛を信じている。
 それは矛盾しているのだろうか。
「典子先生」
 呼ばれて、典子は振り返った。
「愛は絶対じゃないの?」
 ぼんやりとした声。心ここに在らずといった風である。
 典子は腕を組んで考え、
「絶対、ではないわね」
と答えた。
「もしかしたら絶対の愛というものもあるのかもしれないけれど、私はまだそれに出会ったことはないわ」
 麻子は少し俯いて、「うん……」と唸るような声を上げた。
「あたしは知ってるよ。絶対の愛ってやつを、知ってる」
 左手の薬首にはめられた銀の指輪を撫でさする。
「そうだ。嘘なわけがない」
「……麻子ちゃん?」
「嘘なわけがないんだ」
 何度も聞いた。何度も確かめ合った。愛を囁く言葉。
 それが全て嘘であるはずがないのだ。
作品名:銀の絆 作家名:ハル