銀の絆
8
放課後は麻子と待ち合わせをしていた。
ここ一週間ほど首の痣が原因で外出を控えていたために、会う時間ももてなかった。
麻子もそれには責任を感じていて、外に出られるようになったら遠出をしようと言ってくれていたのだ。
だが遠出と言っても、別に泊りがけでどこかへ行くわけではない。
電車で終点まで行って、滅多に行かないその町をぶらぶら歩いて、帰ってくるだけだ。
授業を終えて駅まで走ってゆくと、既に麻子は待っていてくれた。
柚子は途端に嬉しくなって、麻子に飛びついた。
「麻ちゃん、お待たせ。遅れてごめんなさい」
「大丈夫だよ。お疲れ様、柚子」
じゃれかかる柚子に麻子は優しく微笑んで、その手を握って歩き出す。
「切符は一駅分だけ買おう。降りたところで乗り越し清算すれば良いよ」
麻子はそう言いながら、券売機で二枚の切符を買った。
「終点まで行くんじゃないの?」
「面白そうなところがあったら、途中で降りても良いように」
柚子は引かれるままに改札を通り、二人は適当な車両に乗り込んで進むことにした。
電車は揺れて、ゆっくりと発車する。
「高校を卒業したら、二人でどこか遠くへ行こう」
麻子が言った。
「二人きりで暮らせる、遠い場所」
「素敵」
「あたし働くよ。何だってする。柚子が食べるもの、着るもの全部あたしが用意するんだ」
「あたしだって働く。麻ちゃんのために何かしたい」
「駄目だよ。柚子は家に居るんだ。ずっと家にいて、あたしの帰りを待ってるんだ。
どこにも行かないで、柚子」
ぎゅっと、手を握られる。
「どこにも行かないよ。麻ちゃん。柚子は何もかも麻ちゃんの望みどおりにする」
手を握り返すと、麻子はほっと微笑んだ。
柚子は頷いてみせる。
「愛してるよ、柚子」
「愛してる、麻ちゃん」
穏やかな時は流れる。
いつまでもこうしていたいと思う。
だけど柚子の脳裏には委員長の顔が浮かんで、思わずきゅっと眉根を寄せた。
「麻ちゃん。柚子を離さないでね」
いつまでもいつまでも、こうしているために。
電車は揺れ、麻子は柚子を守るように抱き寄せた。柚子はそれに寄りかかり、目を閉じる。
電車がどこまでも連れて行ってくれたら、二人はずっと一緒なのに。
そんな願いも虚しく、いつかは訪れる終点へ向かって進んでゆくのだ。