神社奇譚 2-2 未確認飛行物体
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無事、祈祷とお焚き上げを済ませて
件の宇宙人の写真もディスクも処理された。
願い主とその家族達も家内安全のご祈祷も受けられて
喜んで帰っていった。
だが、宮司の表情は余り晴れなかった。
そして遅い昼食後、やはり、君たちには話しておきたい、と
私と女管理人は宮司部屋に呼ばれて。
他の物事については他人にべらべら喋るものではない、とも
思うのであまり話したことはないのだが、今回の件に辺り
どうしても話しておきたいことがある、と。
そしてふたりして伺うと。
「あなたがたは、あぁいうモノたちの乗るものを見た事があるかな_?」
宮司はまた突飛な事を云い出した。
それは空飛ぶ円盤のことですかぃ・・
「UFOっていうのよォ」
宮司は少し微笑んだか。「ピンクレディの歌にあったろ。」
「実はさぁ、昔。昔って云ったって、平成になってからさ。
あれがそうであれば・・見たなぁ・・。」
え?UFOを御覧になったんで?
宮司は頷きもせずゆっくり瞬きをして、同意を現わした。
「それはある冬の夕暮れでね。
何を思ったか、日頃の運動不足を解消するため、街外れのゴミ処理場横の
温水プールに行ったワシは泳ぎまくっておったんだ。
他のプールの客といえば、小学生の水泳教室の生徒。
おそらく旦那が交通事故にでもあったのかな。
リハビリで泳がず、ただプールを往復し続ける旦那と妻。
ハッキリ云って目ぼしいのは水泳教室の
女インストラクターの濡れTだけ。
いや、まだあった。
アルバイト監視員のおねえちゃんは
水着の上にTシャツを着ていなかったな。
場に相応しくないビキニ!とはいえあんまり憶えていないから
たいしたもんじゃなかったんだろう。」
ちょっとした軽口も人を惹きつけるには常套手段だ。
「とにかくワシは泳ぎ続けた。
日頃のヘビースモーカー振りが如実に現われ、
ゼーハーゼーハー苦しくてな。
公営であるそこのプールの終了時間は8:00。
7:30 には、ほぼ全ての客が、更衣室に向かうわけだ。」
「そんなこんなで、温水プールを出て駐車場に向かった時。
冬の寒空。
東の空、低空に現われた強い光が、西の山の向こうの方に
目掛けて一直線に飛んでゆく。
飛行機やヘリではないその光を、
プールを出たワシらはシッカと見た。
声なんかでない。
一瞬の当惑と、その後の興奮状態があって。
知りもしない人たちと、とにかく喋りたかった。
「今の見た?」「何?あれ?」「なんか、凄かったな?」
その後、互いに情報の共有が出来た安堵の落ち着きがあってさ。
「UFOか?」「なんか違うみたいだよな。」「とにかく光ってたな。」
どこから来たのか?そしてどこに行ったのか?
等と話しながら、しかし、寒さもあり、ひとしきり落ち着くと
皆、バラバラとそれぞれの家路についた。
「なぁーんか、不思議なもの見たよな~」
その一瞬の興奮を家族に話すでもなく、
その日はすぐに床についた。・・それだけだ。」
え?それだけですかい・・。
私の言葉は女管理人の疑問とも重なったようで、ふたりして宮司の顔を
覗き込んでいると、宮司は私らふたりの顔を見返して、険しい顔となった。
「あぁ・・それだけだよ。
ただ・・翌日は、平成7 年1 月17 日火曜日だった。
あれが、そういうものでなければいいのだがねぇ。」
え?
その日付を思い出したとき、
夏だというのに私は背中に冷たく流れる汗を感じた。
作品名:神社奇譚 2-2 未確認飛行物体 作家名:平岩隆