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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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 プロペラが高速で回転し、助走をつけた飛空機が夜空へ飛び立った。
 後に続けと次々と黒い機体が空に飛び立つ。
 六機の黒い機体が群れをつくり、魔鳥のごとく夜空を舞う。
 星よりも、美しく輝く月下の?少女?――エヴァ。彼女は未だ夢現であった。
 ?黒い翼?が近づいてくるのに気づいているのかいないのか。エヴァの瞳は遠くを見据えていた。
 六機の雲に映る黒い魔鳥の影が迷いなく、船を導く灯台のように輝くエヴァに向かって飛んでいく。
 ?黒の翼?に課せられた任務は、エヴァの破壊に非ず捕獲だ。だが、どうやって宙に浮かぶものをプロペラ型飛空機が捕獲するのか?
 この手の任務は他に類を見ないと思いきや、?黒の翼?はこれまでに数多くの捕獲作戦を成功させていた。
 ?黒の翼?のターゲットは必ずしも人や機械だけではない。中には宙を泳ぐ空魚や、巨鳥、空竜などもいた。この手の作戦をさせたら、?黒の翼?に優る飛空部隊はいないだろう。だが、今回の作戦は今まででもっとも困難が予想された。
 〈キュプロクス〉艦内の司令室にいるライザが、オペレーターに向かって喚くように指示を出す。
「無傷で捕獲するのよ!」
 そう、?無傷?で――という言葉が今回の作戦を困難なものにさせていた。しかも、相手はあくまで?生物?ではなく、?機械?なのだ。生物であれば、麻酔弾で眠らせることもできるが、姿形がいくらヒトに似ていようと機械に麻酔弾が効くはずがない。
 宙でじっとしているエヴァに近づいた?黒い翼?は、陣形を崩さぬまま減速する。
 エヴァに動きは見られない。逃げることもなく、戦う気配もなく、魂が抜けてしまっているようだ。
 黒い機体を操縦する部隊長が通信機を通して仲間に指示を出す。
《魔導ネット発射!》
 これを合図に六機の飛空機がエヴァを取り囲み、機体の先端から七色に輝く捕獲ネットを六機同時に発射した。
 輝く捕獲ネットは蜘蛛の巣のように広がりエヴァの身体を捕らえ張り付く。
 現代科学技術と?失われし科学技術?のアンバランスな融合。プロペラ機が超科学の粋を使っているのだ。
 伸縮自在の魔導ネットは見事エヴァを捕獲して捕らえた。
 エヴァはなんの抵抗もしなかった。それゆえに作戦がスムーズに進んだのだ。
 並んで飛ぶ六機の飛空機の先端から垂れ下がる六本の紐の先には、七色に輝く魔導ネットに包まれ毛糸玉のようになってしまっているエヴァがいる。あとはエヴァを〈キュプロクス〉まで運べば、作戦のほとんどが終了する。だがしかし、エヴァは空竜などとは違い麻酔弾によって眠らされていない。ただ、夢現なだけ。
 自由の象徴である翼を無理やり丸められ、身動き一つできないエヴァが、やっと目を大きく開けた。
 魔導ネットを破り白い翼が出た、紅い翼が出た。万が一、空竜が目を覚まし暴れても破れないはずの魔導ネットが破られた。紅白の翼から零れる煌きが、魔導ネットの力を中和させてしまったのだ。
 星よりも、月よりも、世界に昼をもたらす太陽よりも、エヴァは力強く燦然と輝いた。
 あまりに眩しすぎる輝きは、エヴァを包んでいた魔導ネットを、煌く炎によって燃やしてしまった。
 燃えがる炎の中でエヴァは巨大な翼を力いっぱい広げた。
 ?黒い翼?の一機を光の柱が下から突き上げるように貫いた。
 夜空に儚い爆発音が響き渡る。
 エヴァの身体から幾つもの光の筋が放たれ、無差別に世界を照らし、上空で火炎の華が咲き乱れる。
 六機の機体は、花火のように儚くも美しく散った。
 〈キュクロプス〉の司令室で、?黒の翼?が壊滅させられたことを聞いたライザは、苦い顔をして皇帝の顔をちらりと覗きこんだ。
 ルオは素っ気無い表情をしていた。
「やっぱり駄目だったようだね。君も無理だとわかっていたのだろう?」
「はい、わかっておりました」
 ?無傷?でエヴァを捕らえるなど無謀だった。それはライザも十分承知していた。だが、そうとわかっていても、彼女はエヴァを無傷で捕らえたかったのだ。
 前の席に座っているオペレーターが後ろを振り返った。
「ターゲットがカメラの撮影可能圏内に入りました」
「すぐさまスクリーンに映像を出しなさい」
 ライザが指示を出すと、前方の巨大スクリーンに白一色の映像が映し出された。スクリーンの故障かと思われたが、すぐに白はその大きさを縮め、闇に浮かぶ光球を映し出した。エヴァの身体は光の膜――球体状のバリアによって優しく包まれていた。
 オペレーターが激しく振り切られたメーターの針を見て叫んだ。
「測定不能のエネルギー反応を検出!」
 魔導師でもあるライザは背中に冷たいものを感じた。本能がなにかを恐れている。そして、彼女は発狂するように声をあげた。
「最大出力で防御フィールドを張りなさい!」
 スクリーンを見ていたライザは眼を見開いて言葉を詰まらせる。
 皇帝ルオは不気味に笑う。
「来るよ」
 ルオは畏れてなどいない。彼は心から楽しんでいた。危機的な状況の中に彼は至福を感じるのだ。
 夜空に浮かぶ光の玉は膨張し、縮んだ。
 エネルギーの集束。
 そして、放出。
 巨大なエネルギー光線がエヴァから放たれた。
 轟々と唸る光線は大気を燃やし、よりいっそう輝きを増して〈キュプロクス〉の真横を掠め、全長三五〇メートルを越す巨艦を激しく揺らした。そう、巨大な光の光線は〈キュプロクス〉を外れたのだ。
 だが、それだけでは終わらなかった。
 巨大な光線は輝きを増しながら〈キュプロクス〉の横を抜け、地上に向かって降り注ぐ。その先には巨大都市クーロンがあった。今、巨大な光は巨大都市を呑み込もうとしていたのだ。
 街に住む人々は、誰もが空を見上げ慌てふためいた。――巨大隕石が振って来る。そうとしか思えない巨大な光だった。

 空飛び乗り物を求めるアレンはリリスとともに、坑道入り口がある空き地の近くに来ていた。
「本当に空飛び乗り物なんてあんのかよ?」
「わしを信じておらぬのか?」
「ぜんぜん信じられないね。あんたって得体が知れないし、目的がハッキリしねえんだよ」
「得体が知れないのはお主とて同じことじゃ。お主はなぜ行くのじゃ?」
 どうしてアレンはエヴァのもとに行こうとしているのか?
「そんなの俺の勝手だろ」
「じゃったら、わしもわしの勝手じゃ。あの子の封印を解いたのも、お主に力を貸すのも、わしの勝手じゃ」
 舗装されていない乾いた道を進み、空き地の入り口までやって来たアレンは、顔を少し出して空き地のようすを窺った。
 地下遺跡でエヴァが見つかってもなお、坑道の入り口は帝國の兵士によって守られていた。だが、前よりは数がぐんと少なくなっている。これなら大暴れはしなくて済みそうだ。
 〈グングニール〉を構えたアレンが、リリスをこの場に残して空き地の中に飛び込んだ。
 アレンに気づいた兵士が小型マシンバルカンをいち早く撃った。
 夜の静寂に銃声の華々しい音が乱れる。
 兵士の誰かが大声をあげた。
「指名手配リストに載っている?少年?だ!」