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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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 すでにアレンは帝國の指名手配リストに名を連ねていたのだ。しかも、この?少年?を生け捕りをした者には、七〇万イェンもの賞金が懸けられていた。三万イェンあれば、困ることなく一年間暮らせる額だということから、七〇万イェンがいかに高額かということがわかるだろう。そして、この賞金を懸けたのはもちろんライザだ。
 ちなみにトッシュに懸けられている懸賞金は、生け捕りならば一〇〇万イェン。死亡した場合は半額の五〇万イェンである。
 兵士たちはチャンスを逃さまいと必死になっていた。
 目の前にいる?少年?を生け捕りにしなけらばならない。だが、無傷というのは条件に含まれていない。兵士たちは銃で?少年?の足元を狙った。
 アレンは地面の上で躍らせれた。
「糞野郎どもが!」
 〈グングニール〉が吼える寸前だった。老婆リリスが風のように地面を滑り移動し、戦渦の真っ只中に立った。
「お眠り、童子たち」
 温かい風が吹き荒れた。
 その風は春の薫りを運び、花の蜜のような甘い香りで場を満たした。
 甘い香りは夢への誘い。
 小型マシンバルカンの音が静かな小雨になり、やがて止んだ。
 バタンと一人目の兵士が倒れたのを皮切りに、二人、三人――と兵士が次々と深い眠りに堕ちていく。
 その中でアレンもまた、目を両手で力いっぱい擦っていたが、プツンと糸が切れて背中から地面に倒れた。
 いびきをかいて大の字になって眠るアレンの頬にリリスが平手打ちをした。
「お主まで眠ってどうするのじゃ!」
 それは仕方あるまい。リリスの魔導によって眠りに堕ちたものは、ちょっとやそっとでは目を覚まさない。もしかしたら一生目を覚まさないこともある。それはリリス次第なのだ。
 リリスによって眠りから覚まされたアレンは、眠気眼の夢心地で魂が抜けてしまっているようだった。夢の世界はそれほどまでに魅惑的だったのである。
「もう肉喰えねえ……腹いっぱい……」
 どんな夢を見ていたのかは想像ができた。
「しっかりするのじゃ!」
 呆れたリリスは、もう一度強くアレンの頬を打った。
「痛ぇっ!? なにすんだよ!」
「あの程度の魔導に魅了どうするのじゃ」
「あんたが悪いんだろ、無差別に眠らせるんじゃねえよ!」
「五月蝿い小僧じゃ。ささ、先を急ぐぞよ」
「自分勝手な女」
「お主も自分勝手な――」
 ――女。と言おうとしたときだった。輝きはリリスの口をつぐませた。
 空の上でなにかが一際輝いている。
 アレンは見た。流れ星が堕ちてくる。いや、違う。エネルギーの塊が飛来してくる。
 強風が吹き荒れ、物が上空へ吸い込まれるようにして舞い上がる。
 人の身体が持ち上げられ、看板が上空を飛び、外に干してあった洗濯物は一つ残らず空に吸い込まれた。
 光が世界を包み込む。
 目は開けられるはずがない。目を開いてしまったら、その眼は一生使い物にならなくなってしまう。
 アレンは反射的に眼を閉じて、地面に這いつくばった。
 その中でただひとりリリスだけが全てを見定めた。
 クーロンに飛来してくるエネルギーの塊は、流れ星のように長い尾を夜空に描き、大気を燃やし輝きを増した。
 その輝きは?失われし科学技術?の最悪の恐怖――魔導砲の光に似ていた。
 古の戦いで使用された魔導砲の光は世界の大半を焼き、今もなお世界にその爪痕を残す。クーロン一帯に広がる砂漠地帯も、その戦いの名残だった。
「外れたようじゃな。じゃが、砂の雨が降るぞよ」
 リリスが呟いた次の瞬間、巨大なエネルギーの塊がもっともクーロン上空に近づいた。
 そして、尾を引く輝きはクーロンの遥か先の砂漠地帯に激突し、世界を昼に変えて巨大な茸雲に姿を変えるとともに、世界に砂の雨を降らせた。
 空から降り注ぐ砂は真っ黒に焦げており、クーロンの街はたちまち黒一色になってしまった。
 砂を払いながら立ち上がったアレンは、すぐさまリリスの首元に掴みかかった。
「あんた、なんであんなもんの封印を解いたんだよ! 今のとんでもねえ攻撃はあいつの仕業だろ!」
「心を持つ者には、自由に生きる権利があるじゃろう?」
「はぁ?」
「例えヒトの創り出した生命であろうと、自由に生きる権利はあるじゃろう?」
「はぁ?」
「強い者が生き残る。それが自然の摂理じゃろう?」
「意味不明」
 自分の首元を掴んでいるアレンの手をそっと外したリリスは、それ以上はなにも言わず歩き出した。
「おい、待てよ!」
 リリスは返事を返さなかった。
 小声でぶつくさ言いながら、アレンは仕方なくリリスについて坑道の中に入った。
 オレンジ色のライトは、そのほとんどが壊れており、坑道の中はほとんど闇に近かった。
 リリスの足音を追うようにアレンは歩き、やがて前方に白い輝きが見えてきた。その輝きは白銀の部屋から発せられているものだった。そう、リリスがアレンを連れてきた場所は、エヴァが封印されていたあの部屋だったのだ。
 部屋の中心にはエヴァが眠っていた円柱状のケースがだけがあった。
「マジでここに空飛ぶ乗り物があんのかよ?」
 アレンは半信半疑だった。
 艶やかにリリスは微笑んだ。
「この部屋ではない。この先の部屋じゃ」
 この先の部屋?
 扉は今アレンたちが入って来た扉しか見当たらない。それに部屋には切れ目すら入っていないのだ。そのどこに扉など隠されていようか。だが、部屋の中心にあるケースも最初は床の下に隠されていたのだ。
 なにも見当たらない壁にリリスの手が触れると、切れ目一つ入っていなかった壁に線が入り、扉のように左右に開けた。その先には別の部屋があるようだ。
 別の部屋に移動するリリスに続いてアレンもその部屋に入った。が、ここもなにもない白銀の箱だった。きっと、この部屋に物も全て収納されてしまっているのだろう。
 リリスはまた壁に触れ、別の部屋への入り口を開いた。次の部屋にもなにもない。これと同じことを三回繰り返し、ようやくリリスの足が止まった。
「ここじゃ」
 やはり、この部屋にもなにもない。だが、もうアレンはなにも言わなかった。
 しゃがみ込んだリリスが床を叩いて小声でなにかを呟くと、床に切れ目が走り、床の下からなにかがせり上がってきた。
 それはスクーターに似ていた。しかし、タイヤがない。車体の下部は平らにできていた。 
 タイヤのないスクーターを見て、アレンはすぐに理解した。
「空飛ぶから、タイヤはいらないのか」
「そうじゃ。わかったら、さっさと乗るのじゃ」
「マジで飛ぶのかよ?」
「さあて?」
「なんだよ、その返事は?」
「わしがこのエアバイクに最後に乗ったのは……?」
 途方もないくらい前だったことは確かだ。
 ちょっと嫌な顔しながらも、アレンはリリスに促されてスクーターに乗った。しかし、エンジンの掛け方がわからない。そもそもエンジンというものがあるのかも怪しい。
「エンジンはどうやって掛けんだよ?」
「わしの声に反応する」
 そう言ってから、リリスはエアバイクに向かって小声で囁きかけた。すると、エアバイクがアレンを乗せたまま少し浮いた。
 音もなく浮いたエアバイクを見て満足そうにリリスは頷き、言葉を続けた。
「バイクの乗り方はわかるじゃろ?」