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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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 トッシュが近くにいた店員に声をかけると、店員はドレスのスリットから脚を覗かせながら慌てたようすで厨房に走って行った。
 しばらくして湯気の立つ料理が次々と運ばれて来て――消えた。もちろんアレンの腹の中に。
 腹の底に料理を流し込んでいく小柄な少年を見ながらトッシュがため息をついた。
「マジで食ってやがる。おまえの胃はジャンクイーターか……」
 ジャンクイーターとはゴミでも金属でもなんでも喰う怪物の名前だ。
 アレンは口いっぱいに豚肉を頬張って、それをウーロン茶で流し込んで喉を鳴らした。
「俺の胃は特別せいだかんな。あんたの財産全部食ってもいいぜ」
「それはやめてくれ」
 トッシュは苦笑いを浮かべながら少し汗をかいた。
 そして、店のメニューを全部食い終えたアレンは腹を擦りながら天井を仰いだ。
「食った食った、これで三日は食わなくても平気だ。飯食わせてもらったついでに、もうひとつ頼みたいことがあんだけど、いいか?」
「あつかましい奴だな。言ってみろ」
「仕事の世話してくんねえか?」
「なにができる?」
 急にトッシュの眼が鋭く光り、アレンは不適な笑みを浮かべた。
「なんでも」
「それは話が早い」
 そしてトッシュも笑った。
 トッシュの言葉からも伺えるように、彼ははじめからアレンにある話を持ちかける気でいたのだ。
 煙草に吹かせながらトッシュが仕事の内容を話しはじめた。
「仕事に頭は必要ない。ただ向かって来る敵を倒せばいい」
「ふ〜ん、ボディガードってことかよ?」
「目的はある物を手に入れることだ。それを手に入れるために、おまえは俺に手を貸す。簡単な仕事だろ?」
「簡単とは思えないけどね」
 アレンは空気を察していた。目の前にいる男は小物ではない。それだけに仕事が簡単なものとは思えなかった。
 無言でアレンは三本指を立ててトッシュの眼前に近づけた。それを見たトッシュが口を開く。
「三万イェンか?」
 三万イェンもあれば、まあまあ困ることなく一年間暮らせる額だ。
 アレンは首を振った。
「いいや、三食昼寝付き」
「……おまえなぁ」
「それから、報酬は五〇〇〇イェンでいい。前金に二〇〇〇イェン、仕事が終わったら残りの三〇〇〇イェン、もちろんキャッシュで」
「その条件を飲もう」
 と、トッシュが言葉を発し終えたときだった。爆音とともに厚い壁が粉々に吹き飛び、辺りが咳き込むような煙に包まれた。

 料理店の裏路地に集まった数人の人影は身を潜め、盗聴器によって厚い壁の向こうで交わされる会話の一部始終を聴いていた。
《仕事に頭は必要ない。ただ向かって来る敵を倒せばいい》
《ふ〜ん、ボディガードってことかよ?》
《目的はある物を手に入れることだ。それを手に入れるために、おまえは俺に手を貸す。簡単な仕事だろ?》
《簡単とは思えないけどね》
 壁の向こうは店の個室で、そこにいるのは二人だけらしいことが確認されている。ここに集まっている者たちの標的は、そのうちのひとり――トッシュと呼ばれる男だ。
《その条件を飲もう》
 と盗聴器から聴こえた刹那、女の声が裏路地に響き渡った。
「突入!」
 硝煙と爆音とともに分厚い壁が破壊され、店に中に一人の女と銃を構えた男たちが流れ込んだ。
 アレンとトッシュは先の見えない煙の中を逃げようとしたが、席から立ち上がってのみで足を止めて、両手を高く上げた。
 煙が晴れてくると、ハンディバズーカを持つ女が現れ、その後ろに従える男たちは小型マシンバルカンの銃口をアレンとトッシュに向けていた。
 女は白衣のようなロングコートの裾を揺らしながら、ミニスカートから覗く脚を見せ付けるように歩き、ブーツの踵を鳴らしてトッシュに詰め寄った。そして、雄ライオンのような金髪ヘアをかき上げながら濡れた唇を舐めた。
「お久しぶりねトッシュ」
 妖艶な声音だった。
 この女の名前はライザ。?ライオンヘア?と異名される帝王ルオの側近だ。
 トッシュは両手を挙げながら口にくわえていた煙草を床に吐き捨てた。
「そんなでもないだろう。前に遭ったのは一週間前だったか?」
 ライザと話しながらもトッシュの目は他のところを観察していた。
 目の前にいるライザの持つハンディバズーカは、ライザが社長を務めるライザ社の最新型モデルで、発射する炸薬弾は感度が高く、威力も非常に大きい。しかも、どうやら正規の物ではなく、ライザ専用に改造が施されているようだ。
 ライザの後ろにいる男たちの持つ銃は最新式の小型マシンバルカンで、優れた連射性と集弾性を備えている。
 この部屋の出口は元からあった出入り口の扉とライザが壁に開けた穴。壁にできた穴まで行くには小型マシンバルカンを構えた男たちの中を通ることになり、逃げるとすれば出入り口の扉か?
 だが、敵は連射性を備えた小型マシンバルカンを装備している。バルカンを乱射されたら逃げ切るのは困難と言える。
 トッシュは横で手を上げているアレンに目を向けた。
「どうにかできるかアレン?」
「いいや。まだあんたから金もらってないからどーもならん」
 それは金さえもらえば、この状況を打破できるということか?
 ?ライオンヘア?は獲物でも物色する眼つきで、アレンを下から上に舐めるように見た。
「可愛らしい坊やね。トッシュといるからにはただの子供じゃないだろうけど……」
 自分を見て舌舐めずりしたライザを見てアレンは悪寒を覚えた。
「俺はこんな男と一切関係ない。ちょっと飯をおごってもらっただけ」
 もちろんアレンの言う『こんな男』とは他でもないトッシュのこと。まだ雇い主でない男に懸ける命は持ち合わせていないのだ。
 一切の自分との関係を絶とうとするアレンの言葉に、トッシュは呆れたように言葉を吐いた。
「……おいおい、そりゃないだろ」
「だってまだ金もらってないもん」
「飯おごってやっただろ」
「あんたの命助けたからチャラだね」
「砂漠から運んでやっただろ!」
 アレンとトッシュはこのまま喧嘩でもはじめそうな勢いだった。それを止めたのはハンディバズーカを二人に向けたライザだった。
「アナタたち、自分の置かれている状況を理解しているのかしら?」
 自分の置かれている状況を忘れているトッシュが、鋭い眼つきでライザに振り向いて怒鳴り散らした。
「わかってる!」
 とんだとばっちりを受けたライザは、唇を尖らせて不満顔をする
「アナタたちはアタクシたちにいつ殺されても可笑しくない状況なのよ。わかったら口を謹んで、手を首の後ろに回して膝を付きなさい!」
 トッシュはすぐにライザの言うとおりにしたが、アレンは手を天井に向けて上げたままで従うようすを見せなかった。
「だから俺はこんな男と関係ないから解放して欲しんだけど?」
 とアレンが言っても無駄なようで、怒っている?ライオンヘア?はハンディバズーカの銃口をアレンの顔面に向けた。
「さっさとアタクシの言うとおりになさい。そうすれば命は取らないわ」
「はいはい」
 抵抗をあきらめたアレンはため息混じりの声を漏らして床に膝を付いた。
 ライザはアレンとトッシュをすぐに殺す気はないらしい。それに疑問を覚えたのはトッシュだった。