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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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 串刺しの方法は肛門から内臓に串を差し込んだり、へそを刺したり、心臓を刺したりといろいろな方法が取られ、串刺しにされた者はみな地面に串とともに立てられ、ルオのオブジェにされた。そして、ルオは乾いた大地に血を滴り落とすオブジェを見ながら、大声を張り上げて満足げに笑ったのだと言う。
 以上の悪行が、暴君ルオの名を世界に知らしめた最初の行であり、序の口であった。
 玉座に座り、足を前に投げ出したルオは、なにかを思い出しように手を叩いた。
「ああ、そうだ。今朝の料理で舌を少し火傷したんだったよ」
「『作った料理人を切り刻んで家畜の餌にしろ』ですわね?」
 ?ライオンヘア?はルオのことを熟知しているのだ。
 ルオは満足そうに笑った。
「君は最高の側近だ。ただ、信用はできないけどね」
「いいえ、アタクシは?貴方?に身も心も捧げた奴隷ですわ」
「嘘が上手だ君は。君が朕に仕えるのは科学と魔導の研究のためだろう?」
「ええ、それもありますわ。でも、アタクシは本当に貴方を慕っているのよ。貴方は史上最悪の暴君だわ」
 今まで立っていた?ライオンヘア?が跪き、投げ出されたルオの足に手を伸ばす。
 ルオは自分の投げ出した足に靴の上から接吻する女を見下しながら、満足げな表情を浮けべて嗤った。
「お褒めの言葉ありがとう」
 顔を見合わせて二人は、陰を纏いながら静かに静かに嗤った。

 少年は固いベッドの上で目を覚ました。
 最初に少年が見たものは、茶色い染みのある灰色の天井。次に見たものは灰色の壁。それ以外はなにもなかった。そこは汚いベッドと灰色の壁しかない部屋だった。
 ベッドから跳ね起きた少年は金属のドアの前に立った。ドアノブなどは見つからず、電動スイッチも見当たらない。つまりこちらからでは開けられないというわけだ。
 少年がドアに向かってファイティングポーズを取ると、どこかで歯車の回る音がした。しかし、その音は徐々に弱くなり、やがて止まった。そして変わりに別の音が鳴る。
 ぐぅぅぅぅぅ〜〜〜っ。
 重い息をついて腹を擦る少年は、そのまま背中から冷たい床に寝転んだ。
「腹が減ってなにもする気が起きねえ」
 少年の声が虚しく部屋に響いて消えた。
 天井の染みを見つめながら、少年が虚ろな目をしていると、金属のドアがスライドして部屋の中に無精髭を生やした男が入って来た。
 部屋に入って来た体躯のいい男は、岩蛇に襲われていたところを少年が助けた男だった。
 男の姿を確認した少年は眼の色を変えて飛び起きると、自分より背の高い男の襟首を掴んで叫んだ。
「この糞野郎! 命の恩人をこんなところに閉じ込めやがって!」
「俺様は慈善家じゃないんでな、例え命の恩人でも素性が知れない者は信用できない。ここまで運んできてやっただけでも感謝しろ」
 ぐぅぅぅぅぅ〜〜〜っ。
 男の襟首を掴んでいた少年の手から力が抜けていき、ヘナヘナと少年は膝から崩れ落ちた。
「腹が減って……飯食わせろ……」
 男は腹を押さえてうずくまる少年を見下げながら、思わず口から空気を噴出して笑った
「腹いっぱい食わせてやるから付いて来い」
「俺をここに閉じ込めて置かなくていいのか?」
「おまえが目を覚ました時に、勝手に出歩かれると困るから閉じ込めて置いただけだ」
「それだけか?」
「いや」
 男は裏のある笑みを浮かべた。その笑みを見て少年はさして気にしないように鼻を鳴らした。
「ふ〜ん。で、あんた名前は?」
「人に名を聞くときは自分から名乗れ」
「俺の名前はアレン。で、あんたは?」
「俺様はトッシュ。この街じゃ、ちっとは知れた名だ」
「自慢なんて聞きたかねえ。早く飯食わせろ」
「……口の悪いガキだな。付いて来い」
 トッシュは頭をかきながら部屋を出て行き、アレンはその後を覚束ない足取りで付いて行った。
 部屋の外は長方形の筒のような廊下が続いていた。
 所々が茶色く錆びている廊下を照らす明かりは、等間隔に天井にぶら下がっている裸電球だけで、廊下全体が薄暗いために遠く先は闇だった
 二人は足音を響かせながら廊下の奥へ向かった。
 前を歩くトッシュが顔を向けずにアレンに話しかけた。
「ところでおまえ、魔導師か?」
「違う」
「じゃあ科学者か?」
「いいや。俺は魔導師でも科学者でもない、ただのガキさ」
 この世界を支える二大柱は科学と魔導。
 魔導と科学の融合により生まれた魔導炉により、膨大なエネルギーが二十四時間、止まることなく都市にエネルギーが供給される。しかもそれも過去の恩恵。今に残る?失われし科学技術?によって世界は成り立っている。
 廊下の突き当たりには金属の梯子があり、それを登って二人は地上に出た。
 アレンは自分たちの出てきたマンホールを見ながら興味深げに呟いた。
「おもしろいとこから出たもんだ」
「他言しない方がおまえの身のためだ」
「なるほど」
 すぐにアレンは理解した。このマンホールは秘密の出入り口と言ったところなのだろう。
 辺りは朱色に染まり、石畳の路に影が射している。
 左右は石などで造られた凹凸のない建物に囲まれ、もちろん人通りはない。
 アレンはトッシュに連れられ裏路地を抜けると、そこは一変して人通りの多い歓楽街だった。
 目がチカチカするようなネオンが街を照らしはじめ、得体の知れない出店が並び、娼婦たちが仕事をはじめている。夜が更けてくれば、もっとこの街は賑わうことだろう。
 トッシュとともに人ごみの中を歩きながらアレンが呟いた。
「こんなデカくて活気のある街は珍しいな」
「この街にはなんでもある。武器も薬も――暴力もな」
「たしかに治安も衛生もサイテーだな」
 まだ日が完全に落ち切っていないというのに、屋台で酒を引っ掛けて喧嘩をはじめている若者たちが目に飛び込んでくるし、汚れた路の片隅では鼠たちが食べものに集っている。
 掘っ立て小屋のような店が並ぶ中、トッシュがアレンを連れてきた店は豪華な門構えの店だった。
 店内に入るとすぐに、大胆に切り込まれたスリットから脚を覗かせるチャイナドレスを着た美女に出迎えられた。
「いらっしゃいませトッシュ様」
 店の女はトッシュの名を知っているようだ。
 しばらくして、チャイナ服を着た別の美女が店の奥から出てきて、トッシュがなにも言わなくても店の奥の個室に案内された。
 個室は朱色が多く使われ、部屋の真ん中には朱色をした円形の回転テーブルが置かれていた。
 席に着いたトッシュはメニュー表をアレンに見せながらしゃべった。
「この店はエビチリが美味いんだ」
「俺、辛いの苦手なんだけど、この店辛そうなもんばっかだな」
「食わせてもらう立場の奴が文句言うな」
「文句じゃねえよ、腹の中入ったらみんな同じだしな」
「それでおまえはなに頼むんだ?」
「うんじゃ、全部持って来させろ」
「は?」
 トッシュは眼を丸くして、半ば呆れたように口をポカンと開けた。
 面倒くさそうにアレンはメニューを全部なぞるように指差して口を開いた。
「聞こえただろ、ここに書いてあんの全部持って来させろ」
「全部食う気か?」
「もちろん、残さず食う」
「よし、おい全部持って来い!」