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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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「どうしてすぐに俺様を殺さん? いつもなら容赦なく銃撃されるが、拷問にかけてジワジワと殺す気か?」
「拷問もいいけど、今のアタクシにアナタを権限はないわ。今日は商談に来たのよ」
 商談に来たにしては物騒な格好だ。それに、この状況では一方的な取引しかできそうにない。だからこそトッシュは取引に応じるしかない。
「それでどんな商談だ?」
「?アレ?を手に入れるために力を貸して欲しいのよ」
 ライザの言う?アレ?と聞いてアレンはすぐにピンと来た。トッシュはアレンを雇おうとした際に目的を『ある物を手に入れることだ』と言った。そして、『ただ向かって来る敵を倒せばいい』とも言っていた。さしずめ?敵?とは今目の前にいる輩のことだったのだろう。
 少しの間、沈黙して考え深げに俯いていたトッシュが顔を上げた。
「俺様に拒否権はないらしいが、報酬くらいはあるんだろう?」
 この状況において報酬を要求するトッシュにライザは妖艶と微笑んだ。
「さすがは?暗黒街の一匹狼?さんだこと、肝が据わっているわね報酬はアナタの命でどうかしら? 今後一切、帝國はアナタの命を狙わない。アナタが帝國に危害を加えなければの話だけど」
「俺様の命か……魅力的な提案だが、金も欲しい」
「ふふ、一〇〇万でどうかしら?」
「その条件で飲もう」
 商談が成立したところで、アレンがこの場に適さない間延びした声を発した。
「あのさぁ、俺の処分はどうなるわけぇ?」
 妖しい眼つきでアレンを見たライザは、上唇を舐めて熱い吐息を漏らした。
「坊やはアタクシが可愛がってあげるわよ」
 アレンはゾクゾクと身を震わせて、わざと嘔吐するような仕草をした。
「オェー、そりゃ勘弁だ」
「アタクシはアナタみたいに性格の曲がった子が好きなのよ」
「俺はあんたの期待に添えないと思うけどな」
「あら、そんなことないわよ。それに?一匹狼?が雇った子だし、興味がそそられるわ」
「まだ雇われてない」
「なら、アタクシが代わりに雇って差し上げるわ」
「それはお断り」
 アレンは小型マシンバルカンを構える男たちに一瞥した。男たちの緊張の糸は全く途切れるようすはない。つまり、少しでも可笑しな動作を見せれば撃たれる。
 どこかで歯車が激しく回転する音が聴こえた。その音にライザが気づいた時には、アレンが右足で床を激しく蹴り上げたところだった。そして、蹴られた床は四方に砕け、アレンは扉までの五メートルという距離を軽く跳躍した。
 銃口から火を噴く小型マシンガンから弾丸が連射され、アレンに当たった三発の弾が高い金属音をあげて地面に落ち、最後に当たった一発がアレンの左肩の肉を貫いた。
「くっ!」
 歯を食いしばるアレン。
 アレンは銃弾を躱しながら、右手で拳を作って眼前の扉を激しく粉砕し、個室から飛び出すことに成功した。
 鮮血が吹き出る左肩を右手で押さえながら、アレンは賑わう店内を跳躍した
 店内で飯を食っていた客たちは、自分たちの座るテーブルを足場にして料理を滅茶苦茶にし、一〇メートル以上もの距離を跳躍する少年を見て目を白黒させた。
 この店の個室は完全防音であり、店の賑わいもあったのも相俟って、個室の壁がハンディバズーカによって破壊されたことに気づいていなかった。客たちはアレンが扉を破壊したときにはじめて騒ぎに気づいたのだ。
 店を飛び交うアレンにマシンガンの銃口を向けられるが、それをライザが静止させた。
「もういいわ、騒ぎを大きくする必要もないわよ。それにあの子まだ詳しくは知らないんでしょ?」
 ライザに顔を向けられたトッシュは大きく頷いた。
「どうせ盗聴してたんだろう。この店の中で話したことで全部だ」
「なら放置しても問題ないわね。でも、可愛い子を逃がしたのは残念だわ」
 そう言ってライザは自分の人差し指を濡れた唇で軽く噛んだ。

 その日の夕暮れ、シスター・セレンはいつもどおり夕食の買い物を済ませ、自分の勤める教会へ足早に帰ろうとしていた。
 セレンは生まれた時からこの街を出たことがなく、かれこれ一五年ほどこの街に住んでいるが、それでも夜は怖いし、この街の治安がいいとも思っていない。そのため、僧衣の下には、護身用としていつもハンドガンを忍ばせている。だが、そのハンドガンの銃口はこれまで一度も火を噴いたことがない。
 ネオンが店を彩りはじめ、屋台からは香ばしい肉やソースの焼けた匂いが漂ってくる。
 武器や防具を扱うジャンクショップの横を抜け、セレンは裏路地の横を抜けるところだった。昼間ならば、この裏路地を通って教会に帰るのだが、日が落ちはじめてからは通りたくない路だ。そのため、いつもならば素通りするのだが、今日に限っては違った。
 裏路地の闇から音が聴こえた。
「ちょっと嬢ちゃん、手を貸してくれないかい?」
 それは中年男性の声音だった。
 セレンは闇の中に顔を突っ込み、そこにいる男を確認しようとした。セレンの頭には困っている人を助けなくてはいけないという使命感だけで、それが危険な行為だったことをすっかり忘れていた。仲間以外の人間と関わらないことが、この街でトラブルに巻き込まれない鉄則だったにも関わらず。
 薄暗い路地の中に入り、壁に寄りかかり腹を押さえて座っている中年男がセレンの目に入った熊のような男は顔を歪ませながら歯を食いしばり、見るからに苦しそうな表情をしていた。
「大丈夫ですか?」
 とセレンが声をかけると、男は荒々しい息遣いで答えた。
「ちょっと腹の調子が……よくなくってよ……」
「悪い食べものに中ったん――!?」
 セレンは物陰から突然現れた男によって口を押えさられてしまった
 そう、一人が病人のフリをして、残りの一人が物陰に隠れて獲物を狙う。男たちは暴漢グループだったのだ。
 普段、暴漢に襲われる割合が多いのはこの街の人間ではない。それが今、暴漢グループに襲われているのは、この街に一五年も住む者だった。セレンは自分の間抜けさを悔やんだ。
 セレンの口は泥臭くて毛むくじゃらの分厚い手によって塞がれ、真後ろにいる男の身体がセレンのヒップや背中にぴったりと密着している。時折、耳に吹きかけられる荒い息にセレンは身震いした。こんなときにセレンにできることは神に祈るのみ。だが、その祈りも通じない。
 病人のフリをしていた男が立ち上がったかと思うと、セレンは乳房を鷲掴みされた。
「尼さんのクセになかなかいい乳してんじゃねえか」
 目の前で舌舐めずりをする男を見てセレンは失神しそうになった。きっとこのまま男たちにいいようにされて、身包み剥がされて売られるか、殺されるか、するのだろうセレンはいっそのこと殺して欲しいと思った。
 地面には先ほどセレンが羽交い絞めにされてしまったときに落とした買い物籠があり、その周りには汚れてしまった野菜や果物が散らばっている。それを見たセレンの目頭は熱くなり、大粒の涙が頬を伝って地面に次々と落ちた。――嫌だ。
 心の中でなにかが吹っ切れたセレンは、自分の口を塞いでいた芋虫みたいな指を、歯を立てて思いっきり噛んでやった
「痛えっ!」