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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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 そもそもセレンひとりで逃げられるわけがない。それに逃げる途中で銃弾に晒される可能性は大いにある。そう考えると、セレン身体をゾクゾクとさせて身震いをした。
 最初から殺す目的なら、こんなところに閉じ込めておくはずがない。じっとしていれば殺される心配はない。そう思ったセレンは運命に身を任せることにした。
 だが、しばらくしてセレンは足をムズムズと悶えるように動かしはじめた。
 妙な動きをするセレンに対してライフル銃を構え直した兵士が聞く。
「どうした?」
「あの、えっと……トイレに行きたいのですが?」
 顔を真っ赤にしたセレンは恥ずかしそうに言った。そう言えば、ずっとゴタゴタに巻き込まれ、トイレに行く暇などなかったのだ。
 尿失禁しそうな強い尿意を催し、寒気がして鳥肌が立ったセレンは、相手の承諾を得る前に立ち上がった。
「ごめんなさい、我慢できません!」
「仕方ない、俺の前をゆっくり歩け」
 背中に銃口を突きつけられ、トイレに向かってゆっくりと歩き出した。早く歩きたいのは山々だが、ゆっくり歩けと命令されている上に、走りなどしたら恥ずかしいことになってしまいそうだった。
「扉は開けたままにしろ」
 トイレの前に来たところで、兵士がとんでもないことを言い、セレンは顔を真っ赤にして眼を剥いた。
「な、なんでですか!?」
「可笑しな真似をしないとも限らない」
「窓もない密室から逃げられるわけないじゃないですか!」
「わかった、ドアは閉めていい。その代わり早く済ませろよ」
 ドアを閉めて密室の中でひとりになったセレンは、僧服の裾を巻く仕上げパンティを下ろすと便座に腰掛けた。
「はぁ」
 自然と安堵のため息が漏れ、セレンはふと天井を見上げて、大きな目をいつも以上に大きく開けた。
 トイレの外で待っている兵士はライフルの銃口を天に向けて構え、微動だにせずセレンのことを待ち続けていた。
 三分の時間が流れ、五分を過ぎた。
 なにか可笑しいと思った兵士はトイレのドアを強く叩いた。
「早く出て来い!」
 少し強い口調で言ったが、応じる答えはなく、しーんと静まり返っている。まるでなかに人がいなようだ。と、ここで兵士ははっとした顔をしてドアノブに手を掛けて、壊れんばかりに強く廻した。
「返事をしろ!」
 返事はない。ドアも開かない。――してやられた!
 兵士は足を上げてドアを蹴破ろうとしたが、足跡が付いただけでびくともしない。
 已む無く兵士はライフル銃を構えた。艦内での銃の使用は基本的に制限があるが、これは緊急事態だった。
 ドアノブに三発の銃弾を喰らわせ、ドアを蹴破り中に突入した兵士は辺りを見回した。
 一般人には不必要と思える大きな個室には、洗面台が設置され、便器の蓋は閉められ誰も座っていない――もぬけの殻だ。ただ、びゅうびゅうと風の音が鳴っている。天井の通気孔が開いていた。そこからセレンは逃げたのだ。
 通信機でどこかに連絡をした兵士は、閉まっている便器の蓋に足を掛けて、すぐに通気孔の中に入っていた。
 そして、少し経ったところで、洗面台の下に設置されていた棚の蓋が内側から開かれ、セレンがひょっこり顔を出した。彼女はずっとトイレの中で息を潜め、じっと兵士が通気孔に入ってくれるのを祈っていたのだ。セレンの作戦にまんまと敵は嵌ったわけだ。と言いたいところだが、これは不幸中の幸いがもたらした出来事だった。
 本当は通気孔から逃げようとしたのだが、またしても背が足りなかったのだ。セレンが右往左往していると、外から兵士の怒鳴り声が聞こえ、慌てて彼女は棚の中に隠れたのだ。そして、運は彼女を味方した。
 だが、これから先、セレンはこの敵陣の中からどうやって脱出する気なのだろうか。運もそうは味方してくれないだろう。そして、セレン自身も自分の運が、人よりも悪いことを身に沁みてわかっていた。
 頭を抱えたセレンは重い足取りで歩きはじめた。

「これが人型エネルギープラントかい?」
 少年とは言いがたい妖気を纏う皇帝ルオが尋ねた。
「ええ、そうらしいわ。検査はこれからしようと思っているのだけれど、なにからしようかしら?」
 ライザは硝子板を通して、その先の密室にいる?少女?を見ていた。
 冷たい金属の壁に包まれた部屋で、?少女?は瞬きもせず壁に一点を見つめ続け、ただじっと膝を抱えて座っているだけだった。逃げるでもなく、動くでもなく、声すら漏らさない。生きているのかと疑うほどだ。いや、はじめから?生物?ではないのかもしれない。
 ?少女?が閉じ込められている部屋の壁は、魔導炉の爆発にも耐えうる超合金であり、硝子の板もただに硝子にあらず、魔導的なコーティングを施しており、周りの壁よりは脆いが、それでも壊されることなど在り得ない。魔導炉の小型版とも言える、人型エネルギープラントが突如爆発しようとも、絶対壊れない筈だ。筈というのは、?少女?の力が未だ未知数だからだ。
 白い布の服を着せられた?少女?は、まるで天上人のような雰囲気を醸し出し、肌は着せられた服よりも白く輝き、穢れなき純粋さをイメージさせた。そして、背中に生えた二対の翼が、天上人の雰囲気をよりいっそう強いものにする。しかし、片方の羽根は紅い。
「まるで天から降って来た?少女?だね。いや、堕ちてきたのか」
 悪戯な表情をして笑うルオに対して、ライザは深く頷いた。
「そうね、だから古代人は地の底に封印のでしょうね。魔導硝子越しでも、ゾクゾク感じるわ」
「魔導を帯びた風を纏っているのが、ここにいても感じられる。その?少女?は魔導の塊に等しいかもしれない」
「帝國の力――いいえ、貴方の力になるわ」
「朕に操れると思うかい」
「アタクシがお手伝いいたしますわ」
「それは頼もしい言葉だ。では、あとは君に全て任せるとしよう」
「畏まりました」
 紅いマントを翻し、部屋をあとにするルオの背中に一礼したライザは、再び檻の中の小鳥を見つめた。
 翼の生えた?少女?は尚も膝を抱えじっとしている。
 ライザにはひとつの疑問があった。
 ――古代人は、なぜこんなモノをつくったのか?
 そもそもエネルギープラントを造るならば、人型である必要はない。人型の方が不便であるし、造るのにも手間が掛かるはずだ。なのに、古代人は人型エネルギープラントを製造した。
 人型?エネルギープラント?というのは嘘、もしくは便宜上なのではないかとライザは考えた。古代人は?人型?のモノをつくろうとしたのではないか?
 ――では、?少女?はなんの目的で、この世に生み出されたのか?
 人型兵器――否、人型は兵器の形としては欠点が多すぎる。だが、それでも人は人型にこだわりを持つらしく、ゴーレム、ホムンクルス、自動人形、F男爵という医師は、死体を繋ぎ合わせ人型のモンスターを創り上げた。人はいつの時代も生命の創造を試み、神の真似事をしてきたのだ。
 古代人は初めから新たな生命を創ろうとしていた――それがライザの結論だ。