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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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 魔導をつくられた武器や兵器の威力はどれも威力が凄まじく、つくり出すこともとても困難なために滅多にお目にかかれない。それを前にしてもアレンは『ふ〜ん』で片付けてしまった。魔導銃ですらアレンの脅威ではないというのか?
 物怖じしないアレンを前にして、ライザは苛立ちを覚えるとともに、ある種の欲求に駆られて上唇を妖しく舐めた。
「アナタがアタクシの足元で屈服する姿が見たいわ」
「それは嫌だ」
「アタクシに反発する者を屈服させてときの快感……」
 いつの間にかライザの片手は自らの股間に宛がわれ、熱い吐息を漏らしながら、ライザは目の前にいる?少年?を今にも食べてしまいそうだった。
 目の前でよがる女を見ながら、アレンは背筋をゾクゾクさせながら蒼い顔をした。
「うげぇ〜、早く俺のこと撃って殺してくれ……」
「もう駄目、愛しすぎて殺したい」
「だからさっさと撃てよ!」
「あぁん!」
 雌獅子が甲高い喘ぎ声をあげた刹那、グングニールから稲妻が迸り左手ごとアレンの身体を貫かんとした。だが次の瞬間、ライザは瞳を限界まで見開き、稲妻がアレンの手の中へ吸い込まれていくのを目の当たりにした。
「どういうことなの!?」
 冷静さを取り戻そうとしている最中で、ライザはグングニールをアレンに奪われ、その銃口を顔面に向けられた。
「俺の勝ち」
 悔しそうな表情をしながらライザは唇を噛んだ。屈辱だった。自分の理解の範疇を超えたできごとが屈辱だった。しかし、それが彼女を再び燃え上がらせた。
「最高だわ、最高よ、どうしてもアナタをアタクシのモノにしたい」
「はいはい、わかったから自分の立場理解しろよ。あんた絶体絶命のピンチなんだぜ?」
「アタクシが窮地に追いやられているとでも言いたいのかしら?」
 武器を奪われ、その武器で命を狙われている。これを窮地と言わずなんと言う?
 だが、ライザは自身に満ち溢れた妖艶とした笑みを浮かべていた。
「アタクシは科学者にして魔導師。アタクシに不可能なことはなくてよ。でも、今日はお預け」
「はぁ? あんたこの状況から逃げられると思ってんの?」
「アタクシはどろどろに熟れた果実が好みなの。では、御機嫌よう。そして、これがアタクシの印」
 ライザの手が風を鳴らして素早く動き、長く伸びた真っ赤な爪がアレンの頬を切った。
 そして、ライザの姿は空間に溶け込むように消えてしまった。それはまるで白昼夢のような光景だった。
 完全にライザが姿を消してすぐ、アレンは自分の頬を触れ、その指先についた鮮血を眺めた。これは夢ではない。
「空間転送か……いろんな意味で厄介な女」
 アレンの周りには人ひとりいなかった。
 途中まで何人かの人間がギャラリーとして残っていたが、ライザの持っていたグングニールが稲妻を吐き出し、辺りが激しい閃光に包まれた瞬間、ひとり残らず逃げてしまった。
 アレンは片手に握ったままだったグングニールを、近くに置いてあった自分の買い物袋の中に投げ込み、地面に転がっていた林檎を拾い上げた。
 拾い上げた林檎を服の袖で拭き、アレンは大口を開けて林檎に噛り付いた。
 汁が口から零れ出し、口いっぱいに広がる甘酸っぱい香り。
「さ〜てと、買い物も終わったし帰ろっと」
 このときアレンはトッシュに頼まれた新聞のことなど、すっかりと忘れていた。

 朝食を食べ終えたアレンは懐から一丁のハンドガンを出して、顔の前で弄繰り回しはじめた。――見せびらかすように。
 見せびらかされたトッシュは、あまりにアレンがワザとらしくするので、無視しようとも考えたが、銃に施された紋様を見て気が変わった。
 紋様は雷のようなエネルギー感が溢れるデザインで、トッシュはそれをひと目見て、ただのデザインではなく、魔導的意味が込められていることを悟った。
「なんだそのハンドガンは、ただの銃じゃなさそうだが?」
「拾った」
 これは嘘だ。
 実際はライザの忘れ物だが、アレンはライザと出遭ったことすらトッシュに話してなかった。
「拾っただと? 嘘をつくな。魔導銃が道端に落ちてたとでも言うのか?」
「うん」
 真顔で頷くアレンにトッシュが一言。
「おまえの真顔はうそ臭い」
「じゃ、もらった」
 話の内容をコロコロと変える時点で、アレンの話は信憑性に欠けている。そもそも、この少女に本気で嘘をつく気があるのかどうか?
「誰にだ?」
「女」
「どこのどいつだ?」
「ライオンみたいな髪型の女」
「ライザかっ!?」
 声を荒げたトッシュが勢いよく椅子から立ち上がり、テーブルの上に置いてあったカップが倒れ、中の黒い液体がテーブルの上を侵食して、やがて黒雫が床の上で四方に弾けた。
 弾け飛んだ雫とともにトッシュの頭もぶち飛んでいた。
「この糞ガキがっ! なぜあの女に遭ったことを言わなかったんだ! 俺はあの女に狙われてるんだぞ!」
「そりゃご愁傷様で」
「ご愁傷様で済むか。おまえが奴らに付けられてたらどうするんだ?」
「そんときゃそんときで、逃げるなり戦うなり、どーにかなるっしょ」
「馬鹿だろおまえ」
「おう、ロクな教養も受けてない」
 ぬけぬけというアレンの言葉に、テーブルに両肘を付いたトッシュは頭を抱えた。
 こんな?少年?を雇った自分がどうかしてたとトッシュは悔やんだが、あのときトッシュが目撃したアレンの力は本物だ。なんとかと鋏は使いようという言葉があるように、アレンは使いようによっては自分のとって強い味方になるとトッシュは考えていた。だが、馬鹿を見るという言葉もトッシュは忘れてはいない。
 トッシュが思考を巡らせていると、戸口の方から情けない女の子の声が聞こえてきた。
「あぁ〜〜〜ん、ごめんなさーい!」
 裏返った声を出したのはセレンだった。しかも、彼女はひとりではなかった。後ろにいる白いロングコートを着た?ライオンヘア?――ライザだ。
「こんなところに身を隠してただなんて、今ごろ神に命乞いかしら、トッシュ?」
「成り行きだ」
 静かの答えたトッシュの視線はライザの後ろに注がれていた。
 戸口の奥から蟲のように湧き出てきた重装備の男たちは、ライザお抱えの獅子軍の精鋭だ。その数、目で見えるだけで四名。その他に教会の周りに待機している可能性は高い。
 ライザは鈍く光るナイフをセレンの首元に突き付け、唇を濡れた舌で舐めて笑った。
「トッシュ、この娘を殺されたくなかったら、武器を全て捨てて投降なさい!」
「殺せばいいだろ、そのシスターとは赤の他人だ」
「そんなぁ〜!」
 情けない声をあげるセレンの瞳は涙をいっぱいに溜め、今にも防波堤が壊れて大洪水になりそうな状態だった。
 そんな中、アレンはトイレに立ったセレンが残していった朝食のプチトマトを、指先でつまんで口の中に放り込んでいるところだった。
「甘すっぱー、このプチトマト」
 場違いな声をあげたアレンにライフルの銃口が四つ向けられた。つまり、ライザの後ろに控えていた男たち全員がアレンに銃を向けたということだ。
 アレンは銃口を向けられていることなど気にせず、わざとらしく口に手を当てて大あくびをすると、口元をつり上げて不敵な笑みを浮かべた。その眼は恐れを知らぬ魔人の眼差しだった。