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海竜王 霆雷6

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「力で押せばいいってもんでもないぞ、美愛。なあ、俺が勝ったら、どうする? 」
「負けません。」
「俺が勝ったら、美愛の親父を、ここへ呼び出せ。」
「え? 」
「それで、降参してもらう。おまえの世界の最強のドラゴンに頭を下げさせてやる。」
「あきやぁぁぁぁ、なんてことをっっ。」
 ただの人間に、頭を下げるなんて、とんでもない。それでは、父の自尊心を傷つけることになるだろう。
「お前の娘がバカだからだそ、って言うっていうのも、どうだろうな? 」
 あははははは・・・と高笑いしている彰哉に、無性に悲しくなって、それから、怒りに変わった。父を愚弄されたことなんて、一度もない。それだけはできない相談だ。
「おまえこそ、覚悟なさい。そんな減らず口は叩けないようにしてさしあげましょう。」
 ふつふつと怒りが湧いて、それが力になる。黄龍の力を無限に高めたことはない。自分の周りに、白い輝きが満ちていく。これだけの大きさになれば、逃げるのも難しいだろう。砕けてしまえ、と、その光の球を、彰哉に投げつけた。
 その瞬間、彰哉は、苦笑して、口元が、「ごめんな。」 と、動いた。

・・・しまった・・・・

 投げた光の球は、彰哉に向かっている。逃げる様子もなく、ただ、うっすらと彰哉は笑っている。両手を広げて、それを受け入れるような態勢になった。

・・・ばかっっ・・・

 美愛は、慌てて意識を集中して、彰哉を、そこから、瞬間移動させた。慌てていて、自分との距離を計算しなかったから、どすんと彰哉の身体は、自分の上に落ちてきた。足場の悪い岩場で、その体重を支えきれなくて、美愛も尻餅をつく。
「いったぁー、おまえ、無茶するなあー美愛。」
 暢気な声で、頭を掻きながら、彰哉は、慌てて起き上がった。それから、自分の下敷きになっている美愛に手を差し出すが、ぺしっと、その手を叩かれた。やれやれ、失敗と、海のほうを向いたら、まだ光の球は、空へ向かって飛んでいた。
「あれ、すごいなあ。」
 宇宙船が飛び去るように、光跡を残して、空の上方へと消えていく。どこまで届くのかわからないが、なかなか消えないところを見ると、相当な波動の塊だったに違いない。

・・・・あれに当たってたら、綺麗に消えてたのになあー・・・・

 結構うまい作戦だったのに、美愛が、そうくるとは思わなかった。あんな一瞬に意識を集中させるなんて、なかなかできない。さすがに、ドラゴンはすごいな、と、正直に感心した。
 しかし、背後の美愛が、何も言わない。怒りまくって暴れるのかと思っていたのに、無言だ。自分の下敷きになったから、どこか怪我でもしたのかと、心配になった。
「美愛、どっか痛いか? 」
 振り返ったら、俯いて黙り込んでいる。美愛の背後は、尖った岩はない。割と平らで、斜めになっているだけだ。
「足捻ったか? なあ、美愛。なんか言えよ。なあ。」
 肩に手をかけようとしたら、どんっと突き飛ばされた。足場が不安定なので、そのまんま、斜めになった岩場を転がった。ぐきっと、嫌な感じで足を捻ったので、ああ、俺が捻挫したな、とは思ったが、気にしないことにした。もっと殴られるだろうから、これぐらいは些細なもんだろうと思ったからだ。だか、予想に反して、美愛は立ち上がって、自分の傍に降りてきて、座り込んだ自分を抱き締めた。
「殴っていいぞ。」
 まだ無言だ。怒りがふつふつと湧いていて、どうにかなってんのか、と、彰哉は、その顔を覗きこんで、ぎょっとした。ボロボロと涙が流れて、身体は震えていたのだ。
「おい、美愛? どっか、やっぱり痛いのか? 」
 心配になって、美愛の両腕を捉まえて、自分から引き剥がした。どこか血でも出ていないかと確かめようとしたら、パチンっっと平手でぶたれた。そして、唇をぎゅっと噛み締めて睨みつけている美愛と視線が合う。
「・・・ごめん・・・でいいのかな? 」
「・・ゆっゆるしませんっっ・・・」
 もう一度、今度は逆の頬を叩かれた。何度も何度も、睨みつけたままで、美愛は平手をお見舞いしてくる。それも泣いたままだ。どうしたらいいのか、彰哉にはわからなくて、じっと、されるがままになっていた。謝って済むもんでもないし、世間話する場面でもない。ボロボロと泣いた美愛は、しまいに嗚咽して、俯いた。
「・・・殺したくないって・・・申しました・・・・」
「うん。」
「・・・ひっ酷いことをおっしゃった・・・」
「うん。」
「・・・わっ私は・・・殺したく・・ないって・・・」
「うん、ごめん。でも、いいチャンスだなあーと思ったんだ。おまえ、ファザコンだから、たぶん、親父の悪口言ったら、絶対にキレると思ってさ。」
「・・・父は関係ないのに・・・」
 ひくひくと嗚咽する美愛に、罪悪感が募ってくる。前の時もそうだ。一晩泣いていたのに、また泣かせたのだ。
「・・・ごめん・・・俺・・・もう生きてんの、面倒なんだ・・・だからさ。おまえ、もう帰れよ。」
「・・イヤです・・・」
「でも、俺のこと、ムカついたんだろ? 顔も見たくないだろ? 」
「・・・そんな・・こと・・ありません・・・なぜ、私に・・・」
「おまえしかいないからだ。」
 そう、彰哉には、美愛しかいなかった。それができる人間がいれば、そんなことを頼まない。美愛が帰ったら、また生きてるのか死んでるのか、よくわからない生活をしていく。できないのなら、仕方ない。とりあえず、成人まで生きて、次の養子を探して、全部、渡してしまえばいい。空ろになっていく自分の気持ちが、ガタガタと揺すられることで、面前の美愛に引き戻される。
「・・・降参なさい・・・」
「え? 」
「・・・私に負けたって・・・言いなさい・・・」
「ああ、うん。ごめん、美愛に負けた。降参する。・・・好きなだけ家に居ていい・・」
 棒読みのように、それだけ言ったら、また平手打ちされた。そして、今度は、本気で泣き出した。
・・・ここで一晩、泣くつもりか?・・大概に、おまえもしつこいな? 美愛・・・
「・・・ちゃんと・・心を込めてっっ・・・」
 ガタガタとTシャツを握りこんで、彰哉を揺する。
「・・・ごめんなさい・・・美愛に負けました・・・」
「・・もう一度っっ・・・」
「・・・ごめんなさい・・美愛に負けました・・・・」
「・・もう一度っっ・・・」
 何度も何度も言わされた。やっぱり、美愛は泣いていて、泣き止むまでに、空が白く明けていった。日中に跳ぶわけにもいかない。瞬間移動して、家に直接帰るしか方法がないのだが、さすがに、彰哉は疲れていて、ふたり一緒に運ぶのは無理だ。後は、美愛なのだが、こっちは、泣きすぎてぼんやりしていて、どうにもならない状態だ。

・・・ちょっと寝たら、回復するか? 俺・・・・

 とことんまで使ったことはないから、回復時間もわからない。
「なあ、美愛。俺、ちょっと寝てから帰るから、おまえ、先に帰れ。」
 そう勧めてみたが、やっぱり、ぎゅっと唇を噛み締めているだけで、無言だ。誰も来られない場所だから、発見されて騒がれる心配はないのが、唯一の救いだ。
作品名:海竜王 霆雷6 作家名:篠義