HOT☆SHOT
『あぁ、そうそう教えたくないんだけど、ハンドルのクラクション鳴らしてみ? そうすれば、耐G車内環境が作動するから』
「びょぺびょ、ぴゃびゃぴゅぴぇ」【それを早く言え!】
すかさず、ハンドルに手をかけクラクションを鳴らした。
パプー!
すぐに車内が密閉され、重力加速度が地上と同じになる。
「うぐぅ、助かった……て、おい! お前ら!」
『何だよ。もう終わりかよ。もっと楽しませようというサービス精神はどこに行ったの? ん? そう言えば、昼メシまだだったな、みんな? 食べに行こうぜ』
『お、山咲のおごりか? そうだな、行こうか』
『凪咲もお腹空きましたぁ』
「こら! お前ら無視すんな!」
モニターにはもう、誰も写っていなかった。
「あいつらハイエナのように群がって、去って行きやがった。くそ、これからどうすればいいんですかね?」
レトロちっくに展開された目の前の計器を見ると、針が忙しそうに動いていた。
「ははーん。このメーターがどうやら年代を示しているみたいだな。お、もうすぐAD四〇〇年か」
計器を黙って見つめていると、二〇〇年を切った。
「お、やったね一〇年。それカウントダウン。九、八、七、六、五、四、三、二、一、ゼロ! オッケー、いよいよ紀元前? ヒュー、ってあれ?」
目がおかしいのだろうか?
「えー、指差し確認します。今の年代は、AD二七年。AD二八……BCじゃねえのかよ! 戻ってんじゃん! どんだけ日帰り旅行好きなんだこのポンコツ」
虎康はモニターの端を掴んだ。
「おい、メーデーメーデー! おかしいぞ、このポンコツ。応答願いまぁす。どぞぉ」
当然のことながら、モニターには誰も映っていない。
「少なくとも交代で行けよな。お前ら……お雑煮かな、いいな……」
どうする? 年代は一九九〇年まで戻っていた。ん? 待てよ、もしかすると、現代に戻れるかもしれないな。
ああ、そうだよ。きっと、そうだ。
「な〜んだ、心配して損したぜ。脅かすなよ相棒」と、計器を見た。
相棒は現代を華麗にスルーしていた。
「おぃぃぃ! 何だよこれは! 過去も現代もスルーしていきなり未来っすか! 何だよ未来って! そうか、そういうことか、俺にド○え○んに会えというんだな! 会ってやろうじゃないかド○え○ん」
相棒は二八〇〇年を超えていた。
「……ド○え○んどころじゃねえ。どこまでトラベリングするつもりだコイツ」
まあ、アレだ。相棒はイカれちまったんだ。
「俺にはわかる。なんたって、往路で二〇〇〇、復路で三〇〇〇、合計五〇〇〇年も一緒に過ごしてきたんだからな。五〇〇〇年だぜ? すげぇよな、俺たちって。お前も疲れただろ?」
虎康は意識を集中し、今まで溜りに溜まっていたフラストレーションを右拳に集めた。
――だからな、
「ゆっくり休めや!」
虎康は目の前のハンドルを思いっきり撃ちぬいた!
パプー!
勢い良くクラクションが車内にこだまする。悲しい別れの音だった。
音が止むと同時に、ハンドルが重い音を立てて床に落ちた。
「お疲れさん、相棒」
効果があったのか、年代が変わるスピードが落ちて行く。
「おぅおぉ? 三一九六、三一九七、九八、九九、三二〇〇」
チロリあは〜ん号は、エンジンを停止した。
「三二〇〇年……」
虎康は窓を見た。景色は映っておらず、外の様子はわからなかった。
モニターの中は相変わらず、人影なし。
「ああ、よく見ると、これ外の大気の成分とか温度みたいなものを表示しているみたいだな。あぁ、この緑色のやつが俺がいた時代の数字で、青が三二〇〇年ね。比べると……へー、それほど変わってないじゃん。で、場所は……ええと、あれ? なんだよここ東京だよ。外も静かみたいだし、なんか平和な世の中が続いていたんだな。すごいな日本。敬意を表するよ」
なんか初仕事はうまく行きそうだ。
「よし、最初が肝心だからな。格好はまあ、この服装で大丈夫だろう。カメラを持って、電源をONにする。と、OK」
左肩にバッグの紐を掛け、壊れたドアノブに手をやる。
さあ、歴史的瞬間だ。
このショットが歴史を証明する!