HOT☆SHOT
第二話 eXtreme☆Shot! Last stage
5
日本チームとフランスチーム、二台の車が並んでいるそばに、虎康たち四人とジャンヌが立っていた。
「ふぅ、やっと着いたな。最後はエラい目にあった」
「でも、一気に片が付いて良かったでしょ?」
「まあ、そうだけどね」
「ジャンヌはこれから、どうされるのですか?」
虎康と麻亜耶、二人が話している隣でクロエはジャンヌに話しかけていた。
「こうして助かったのも神のお導きだと思います。私はこれからも神の御意志に従い、生きようと思います」
「……あなたさまらしいですわ……」
「どうしたのですか? クロエ」
「クロエ、訊かないの?」
と麻亜耶。
しかし、クロエは何かを言いたそうな仕草を見せるだけで、もじもじしている。
『クロエちゃんは、昔からそうなんですよぉ。自分のことはダメダメさんなんですう』
「凪咲――、変なこと言わないでくださいな」
ダメダメまではいかないと思うが、たしかに凪咲の言う通りだな、と虎康は思う。広場にいた時も、シスターとして自信が無いと言っていた。この子は不器用なんだ。というか、モニターの向こうにいる者も含め、ここにいる全員もだろうなんだけど。
クロエの言いたいことはわかっている。虎康はただ話すきっかけを与えさえすればいい。織部虎康にはその資格がある。
虎康はクロエとジャンヌの目の前に立った。
「ジャンヌは今もこれ持っているか?」
ロザリオだ。
「はい。ちゃんと持っていますよ。ほら」
女の子の笑顔だった。その無垢な笑いが一瞬、虎康の心をドキリとさせる。
虎康は気を取りなおし今度はクロエに、
「クロエも同じやつ持ってるんだよな?」
「旦那さま……はい。わたくしも持っていますわ」
はにかみながらも、彼女は慌てた様子でそれを取り出す。
彼女の手の平に置かれたロザリを見て最も驚いたのは、もちろん、ジャンヌだ。
ここで虎康は斜め後ろに視線を送る。
その視線の先にはマキポンの姿。
彼は、楽しそうにやり取りしている少女たちの姿を何枚もカメラに収めていた。
「これは一体、どういうことですか? それは私が作ったロザリオ、というよりも私が今、持っているのと同じ……?」
「ジャンヌは同じに見える?」
虎康がジャンヌに確認する。
「ええ。細かな傷跡といい、これは私と同じです。でも、どうしてこんなことが?」
「それは……わたくしも、よくわかりませんわ。ただ――」
「ただ……?」
「会いたいと心のどこかで想っていたからかもしれませんわ。その想いがロザリオに伝わって、わたくしたちを引き合わせてくださったのかもしれません」クロエは空を見上げた。「ふふっ、でもやっぱりわかりませんね」
「クロエ。あなたと私のロザリオ。交換しませんか? 新しい方はあなたが持っていてください。ね?」
「はい」
交換するとジャンヌは話を続けた。
「ここで言うのも恥ずかしいのですが、このロザリオは友達というよりも、いつか好きな人が出来たらプレゼントしようと思って作ったものなのですよ」
ジャンヌは目の下を桜色に染め、虎康の顔をちらっと見た。
その瞬間を麻亜耶は逃さず、視線を移し虎康を睨めつけていた。
「うふふ。わたくしもジャンヌと好みが同じようですわ」
麻亜耶はぷくうっと、頬を膨らませていた。
モニターを見れば、凪咲も似たような顔つきになっている。
「クロエ、あなたと話せて良かった。それでは、そろそろ出発しようと思います」
彼女の姿が見えなくなるまで皆、ずっと手を振っていた。
「なんだか、最後はあっけなかったわね。最後のお別れってこんなものなのかな」
「ふふ。それはきっと、いつでも会えるという安心感もあるからではございませんか?」
「え? だってもう、会えないでしょ?」
「そうでございますわね。でも、このロザリオを手にすれば、また会える。そんな気がしたのでございます」
「ふうん。そんなものなのかな」
「ええ、そうでございますわよね。旦那さま? たとえどんなに遠く離れていても、そのロザリオがわたくしたちを引き合わせてくれるのですわ」
「そうなの!? 虎康!」
「え、いや。まあそうかも――」
「はあ!?」
「いえなんでもないっす」
「もうこうなったら、あれよ! 結果発表よ! どっちのチームが勝ったのか、はっきりさせるのよ!」
『引き分けが抜けてますよぉ!』
「ところで、勝敗は誰が決めるわけ?」
虎康が根本的な痛いところを突く。
「あむぅ、うう、えぇっと判定は〜。判定は……あ、小絵さん!」
『は? 私?』
「そう。小絵さんが判定するの」
『それは、いいかもですう』
「そうですわね」
『……わかった。それじゃ、山咲と決めるから待て』
(まさか、小絵が審判になるとは、ていうかどうなってしまうんだ? 想像もつかない!)
『お待たせ』
「はやっ! 本当にしたのか、集計?」
『した。たぶん』
「多分じゃないよ小絵」
『うるさいぞ、虎。いいか言うぞ。勝者は――』
皆、モニター一点に集中していた。
「勝者は?」
『凪咲』
「はい?」
『やりましたぁ! エクストリーム♪』
「ちょっと、何でですか!」
「そうでございますわね。なぜでしょうか」
『ん〜、そうだな。写真の勝ち負けというよりも今回のミッション成功したのも、お前たちの見えない所で凪咲が色々とサポートしてくれたからな。その辺を私は高く評価した』
「すごく真面目な判定と回答だな。どーもありがとー」
『虎、今すごく私のことを馬鹿にしただろ? このクズが! だけどまあいい。後は好きにやれ。終わったら出発だ』
『それじゃあ早速、始めますよぉ。せ〜んぱい♪』
「へ? 何を?」
『凪咲の言ったことぉ、もうお忘れですかあ? 合体でぇっす。物理的合体』
いや、もうわかんねぇ。後ろの視線も痛い。しかも凪咲のやつ、自分で興奮を抑えきれていないみたいだ。
ボルテージが、みるみる上がっていくのがわかる。お前のボルテージが上がれば上がるほど、後ろの二人のボルテージも上がっていく。しかも、どっちも負の力ときている。
「その物理的合体って何なのよ!」
『早速、邪魔するのですかぁ、メス亡霊D』
「Dは余計よ!」
『ふふぅんだ。黙って見ていればわかりますよお! さあ、せぇ〜んぱい。モニターの前に立って下さぁい』
「ん? そんだけでいいの?」
虎康はモニターの前に立った。ちなみに、モニターには壁や床といった他は何も映っていない。
『顔を近づけてくださぁい。そうでぇっす。あ、もう少しお鼻を画面にくっつけるように――ああ、そうでぇっす。はい、そのままの姿勢でぇ。"いいですよぉ"というまで、目を閉じてくださいねぇ』
目を閉じている間、モニターの向こうでプチプチという音が聞こえ、そのあとシュルシュルという音が聞こえてきていた。
「ちょっと凪咲。あんたねぇ。それは一体何のつもりよぉ?」
『Dは黙ってなさぁい。先輩はぁ、まだ目を開けちゃだめですよぉ』
「省略するなあっ!」
「凪咲……大胆すぎますわ。でもわかりやすいですわ」
『はい、どぞぉ! 目、開けていいですよお』
虎康は細めるようにして目を開いた。