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 一本の光の筋がまず目に飛び込んでくる。その光にも慣れてくると、虎康は少しずつ目を開いていった。
 白マシュマロの谷――それが最初に頭に浮かんだキーワードだった。
『いかがですかぁ、凪咲の白マシュマロの谷はあ?』
「ぶっ!」虎康は左手で鼻を抑えていた。「いや、これはちょっとヤバい……かも」
『はぁ〜、凪咲また先輩に見られてますよぉ――』
 なんというか色々とやばい。凪咲のエロボルテージ、虎康の血圧、麻亜耶とクロエの静かな怒り、どれもがエクストリームに到達しそうだ。
 しかし、凪咲は容赦なく攻めてくる。自らの体を左右に! 上下に! 小刻みに揺さぶったのだ。
 ツーーーーゥ。
 虎康の鼻の穴から赤ワインにも似たとろみのある液体が流れだしていた。

『凪咲……?』
 モニターからは小絵の声だ。ミッションルームで白猫の格好をした凪咲が、自身の乳房をモニターの画面にムニョムニョと押し付けていた。

「旦那さま……」
 そして、背後からはクロエの声。なんか、少しだけトーンが下がっているような気がする。

『凪咲、ちょっとやり過ぎ……じゃ、ない?』
『ハァハァ。小絵姉さまも、混ざりたいのですかぁ?』
『いや、その……もうそろそろ、やめよ? ね?』

「いつまで、見ているつもりでございますか?」
「え、いやだって、まだ終わりそうにないから……」
「旦那さまがお止めになってはいかがですか?」

『小絵姉さまが交代するならあ、凪咲はやめまぁっす。それともお、一緒にしますかあ?』
『いや、私はやらない。だから、ね? 立ちなさい凪咲』
『はあい』

「あ、ああ。そ、そうですね。その手がありましたね」
「いい子ですわ、さ、お立ちください。旦那さま」

 凪咲と虎康は同時に立ち上がる。が、その時、二人が動いた。

『あ! ちょっと凪咲。何するの?』
『こうするのでぇっっす! どぞお座りくださぁい!』
 どん!
 凪咲が小絵の背中を押す。油断していた小絵はふらふらとモニターの方へと倒れこんでいく。

「ふふん。あんた好き放題、見せつけてくれたわね。覚悟なさい。クロエ、パス!」
「はい、ですわぁ!」
 ぽい!
 クロエはその容姿からは想像つかない程、力があった。人形を投げるように虎康の体を麻亜耶の方へ投げ飛ばす。
 そして、前方から麻亜耶の蹴りが!
「いっけぇーーーーーー!」
 ドゲシ!
 虎康の体はモニターへ飛んでいく。
「クリティカルヒット! ざまみなさい!」麻亜耶は満足そうに、にぃっと笑っていた。

 そして――、

 ちゅっ。

 あ――。
 全員が凍りついていた。

 凪咲も。
 麻亜耶も。
 クロエも。
 恵介とマキポンも。
 皆、目と口を大きく開け、ぽかんと見つめていた。

 モニターを挟んで、互いの唇で合体している二人。
 虎康と小絵もまた、顔を真っ赤にし大きく目を開けていた。
 頭から湯気が立ち昇り、お互い相手の心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。
 ばっ、と二人は同時にモニターから離れた。

「……」
『○×▲♂♀……』
 虎康は黙り込み、小絵はゴニョゴニョと何を言っているのかわからない。
 気まずい雰囲気は収まる気配がない。
 しかし、小絵はゴニョゴニョから何とか言葉を取り戻すと、
『……なんか……言えよ』
 と半分上目遣いで虎康の意見を求めた。
 虎康は下顎を手でなぞるようにして神妙な面持ちで答えた。
「気持ち……良かった……?」
 刹那――、
 ズビシッ!
 虎康の両頬に麻亜耶とクロエの拳が深く喰い込まれていた。

 山咲恵介は、誰もいなくなったミッションルームで今日も一人、仕事を片付けていた。
 今回のミッションはあまり顔を出せなかったのが残念だった。
 しかし、色々と試したいこともあったし、これからも山咲がやらなければならないことは、たくさん出てくる。
「まずは身近なところから、この大量の写真の整理からだな。しかし、まさか本当にいたとはね」
 机の上に置かれた一枚の写真を手に取り、
「子孫か。これからもこのようなケースが出てくるのだろうか……」
 まあ、今は考えるのはよそう。
 山咲は思いっきり椅子の背もたれにもたれかかると、大きく伸びをした。
 そして、彼は目を開けると、手の平を広げ腕を思いっきり天井へと伸ばす。

 山咲は自分に問う。
 今回のミッションで得た最も大事なものは何か? 今なんとなく思いついた問いだ。
 答えはすぐに見つかった――。
 広げた手のひらを閉じ伸ばした腕を降ろす。
 目の前で閉じた手を開いて見る。
「やっぱ仲間だよな」
 仲間がいたから、今回のミッションは成功したといえるかもしれない。
「史実の方が間違っていたというべきか。誰かが書き換えたのか。伝えられる過程で変わってしまったのか。この辺はやっかいだ。クロエやマキポンがいなかったら今いる、この世界も大きく変わっていたかもしれない。仲間は多いにこしたことはなさそうだ。今後も色んな国と協力していった方が得策だろう」
 山咲は机に手を伸ばし、一枚の紙切れを手に取る。
「次のミッションで参加する国は、と……また一癖も二癖もありそうなやつらだな」
 ふぅ。
 心の中でため息まじりの深呼吸を一つ。
 明日もまた早い。今日はもうここで眠るとしよう。

 山咲は机に足を投げ出し、リモコンを手に取り室内の明かりを消した。
 と、同時にリモコンがコツンと床に落ち、暗闇に寝息が漂い始める。

 彼らの歴史を紐解く旅が落ち着くのは、もうしばらく先のようだ。
 それまで今日のところは、ゆっくりと寝かせるとしよう。
(了)
作品名:HOT☆SHOT 作家名:櫛名 剛