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 マキポンは群衆が集まっている中、少し顔に苛立ちを見せながら立っていた。
『おい、マキポン。あれって虎康たちじゃないか?』
「虎康が持っているあの白い布は、大天使ミカエル!?」
『ミカエル?』
「お、いたいた。マキポン、これを身につけろ」
「車から持ってきたのかい? なんで、また?」
「ジャンヌを助ける」
「――っ! 本気で言ってるのか? 前にも言っただろ? そんな事したらこの国は無くなるかもしれないって」
「無くならねえよ。理由は二つある」
『どういうことだ?』
「いいか、二人ともよく聞け。一つ目は、フランスは無くならない。なぜなら、すでにジャンヌはこの国を救ったからだ。そうだろ、天の啓示はランスで戴冠させた時点で終わってるんだ。それとも、助けたら今度はジャンヌがこの国を滅ぼすのか? それこそ、ありえねえだろ」
『お前の発想は子供だな。でも、悪くない。二つ目は?』
「二つ目は、【ジャンヌ・ダルクは本当は生きていた】というのはどうだ?」
「本当は死んではいなかった。今も子孫がいるっていうことかい?」
『証拠も無いのに誰が信じるっていうんだ?』
「それがあるんだよ。マキポン、そのカメラでこいつらを見せてやれ」
 虎康は、右手と左手に持った二つのロザリオをカメラに向ける。
『見た目は同じロザリオだな? だけど、その新しいのはレプリカか?』
「どちらも本物だ。この二つのロザリオはどちらもジャンヌが自分で作ったものだ。彼女が作ったのはこの二つだけ。そのうち、新しい方は俺がジャンヌから貰ったものだ。友達の印としてな。そしてもう一つは今もジャンヌが持っている」
『じゃあ、その古いのは何だ? 三つあることになるな』
「恵介、早とちりするな。お前らしくもない。俺たちは今どこにいると思っているんだ? いいか。この古いのはクロエが持っていたんだ」
『――ふ』恵介は笑い出した。
 マキポンは口をぽかんと開けていた。
「まさか、クロエが?」
『いいよ。俺はその話、乗った。今から小絵と凪咲っちに話してくる』
「ああ」
 虎康は両手を降ろすと、隣に並んでいたクロエに古い方を返す。
 そして――、
「マキシム、お手伝いして頂けますか?」
「かしこまりましたクロエ姫」
 マキシムは丁寧におじぎし、微笑んだ。
「よし、善は急げだ。麻亜耶、頼んだぞ」
『任せて!』

 それはまさに、ジャンヌの足元に火が点けられる直前だった。

 カランカラン!
 何かが床を転がる音。

 突然、ジャンヌの周りに煙がモクモクと白い煙が立ち昇ったかと思うと、それは広場全体に広がり、
「うわー! 何が起きたんだ?」「前も後ろも見えないぞ!」
 群衆の声が沸き起こっていた。
「みんな、ガスマスクは装着しているか?」
 虎康がそういった途端、白く染まった視界の先から咳き込む麻亜耶のカエル声。
『ゲホゲホッ! ゲェーーーホッ! ゲホ!』
 麻亜耶……。どうして投げる前に装着しなかったんだ?
「よし、クロエ! マキポン行くぞ」
「虎康。これ大天使じゃないよね? ミカエルじゃないよね? ただのニワトリだよね?」
 彼はニワトリの着ぐるみを着ていた。
「いや、ミカエルだ。行くぞ」

 群衆に混じり、兵士や聖職者の声も聞こえる。かなり混乱を来たしているようだった。
「ジャンヌ!」
 虎康は白一色に染まった世界の中でジャンヌの名を何度も叫んだ。
 そして、
「その声は……虎康ですか?」
「ジャンヌ」
「ああ、虎康。どうしてここに?」
 虎康は息苦しそうにしているジャンヌに、用意しておいたガスマスクを彼女の頭に被せていた。
「これで大丈夫。あとは――」
 棒に縛られた縄を次々と切っていく。
「オッケー。それじゃマキポン。ここで焼き鳥、あ、いやミカエルとして天の威光を見せつけるのだ」
「いま焼き鳥って言った? よくわからないんだけど、これって本当に必要なのか?」
「必要ですわ? ジャンヌは焼き鳥、あ、いえミカエルに召されていく様子を再現するのですわ。さ、ジャンヌ様はこちらへ」
 クロエはジャンヌの手を握り締めると、その場から離れ煙幕の中へと消えて行った。
「んじゃ、ここ超危険だからあと、よろしく」
「え? 危険って」
 虎康もその場から離れると同時に煙幕も晴れていく。
 晴れた視界に群衆のどこか痛い視線がマキポンに突き刺さっていた。
『素晴らしいですわ。ジャンヌが大天使ミカエルに召されてしまう、ちょっと切ない、わたくしのここまでの演出。わかりやすいですわ』
『さすがぁ、クロエちゃん。わかりやすぅい。凪咲も演出やってみたいなあ』
『わかりやすい……のか?』
 小絵と凪咲も戻ってきていた。二人ともいつも通りのようだ。
『さ、ジャンヌはこの服に着替えてくださいまし』
 クロエとジャンヌの状況が虎康の耳元に届く。
「麻亜耶は次の準備はできているか?」
『任せなさい』
『虎康、なんかみんな僕を見つめている視線が痛いか冷たいかどちらかなんだけど。誰の目からも畏敬の念を感じ無いんだよね? やっぱりこれニワトリなんじゃ――』
「『ミカエル』って叫べばいいんじゃないか? ミカエルアピールが足りないんだよ。知らんけどな」
 マキポンは短い翼をバタバタと羽ばたかせ、「ミカエルー!」と叫んでいた。

 すると、群衆の誰もが怒りまくって、
「何だありゃ。天の使いじゃなかったのかよ。チキンじゃねえか」
「こうなったら焼き鳥にしちまおうぜ! 俺、塩味でいくぜ」

 マキポン演じるミカエルは翼をバタバタともがいていた。
「ふ……仕方ない。それでは麻亜耶さん。神の威光ってやつを皆さんに見せつけてやってください。お願いしまっす!」
 そう言って、虎康は自身たっぷりに前方を見た。
 ここで麻亜耶が得意のサンダーを放ち、ミカエルだがゼウスばりの威光を見せつける計画だった。
 このシメの演出が成功すれば民衆はジャンヌを聖人として、見るはずだ。
「さあ! 放て!」
 カランカラン!
「からんからん?」
 白煙がまた二箇所から同時に立ち昇り、先ほどと全く同じシーンを再現していた。
「麻亜耶さん、これは何ですか? サンダーはどうしたの!? サンダーは!?」
『いやあ、スモークグレネードでしょ? 余ってたから使ってみたんだよ。げぇっほ! げほっほほっ!』
 全然、進歩してないじゃん。
「ガスマスクは?」
『着けたら負けかな? と思って着けてない』
 ウソつけ! ただ忘れていただけでしょーが! 何そんな所で強がってるの? 誰も得してないし損してるよ。
「もういいよ。とりあえずサンダーを撃つんだ」
『ええ、見えないもん。どこに当たるかわかんないよ』
「大丈夫、マキポンにさえ当たらなきゃいいんで。あと、弱めにね」
『げほげほっ。うーん、わかったよぉ。やってみるよぉ』
 虎康から見て白煙の中で光の球体が浮かび上がるのが見えた。
「おお、その調子だ」
『げほっ。涙でよく見えないんだけど。いくよゲゲホっ!』
 最後のクシャミならぬ咳払いで、一気に球体が膨れ上がっていた。
「え、ちょっと。それはヤバイって」
作品名:HOT☆SHOT 作家名:櫛名 剛