HOT☆SHOT
第二話 eXtreme☆Shot! Stage4
4
ピ!
カタカタカタ――。
投稿者:KEISUKE
シノン城で再会した少女、ジャンヌは後に、ジャンヌ・ダルクと呼ばれる。後世では聖人にも選ばれ、映画やゲームにも登場するなどフランスの歴史を代表する有名な人物だ。
だが、彼女に関する記録はほとんど残ってもいないし、出生に関しても謎が多い。
そんな彼女に実際に出会って、我々は歴史の裏側に隠された真実を目の当たりにした。
ジャンヌ・ダルクは農家の子ではなく、王家の子だったということだ。
この事実は大変、興味深い。
これはあくまでも仮説だが、もしかすると、ジャンヌ=フランス王家の子孫が今、この時代にもいるかもしれないということだ。
歴史を証明するという目的で始まったこのプロジェクトは、今回のように新たな可能性を我々に与えてくれる。
すでに我々は一四二九年の戴冠式と一四三〇年のジャンヌ・ダルクがブルゴーニュ軍に捕らえられる現場の取材も終えている。
結論からいえば、ここまでのミッションで得られた情報は史実通りだったということだ。
このことから言えることは、最後の一四三一年五月三〇日も史実通りである可能性が高い。
運命というものはそう安々と変えられるものではないが、敢えて、その運命に抗ってでも新たな可能性に賭けてみたいという気持ちもある。
ダルク家の直系子孫は現存するが、フランス王家――ジャンヌの直系子孫が現代にいるのであれば会ってみたいものである。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
「投稿」ボタン、クリック。
ディスプレイに映っているボタンをマウスカーソルでクリックしたと同時に、少し離れた所にあるモニターから閃光が走り、人影が映し出されていた。
『おい、恵介いるか? 着いたぞ』
虎康の声だ。
山咲恵介は伊達眼鏡をくいっと押し上げ、モニターへと向かった。
一四三一年五月三〇日。
虎康とマキポン、恵介の三人は緊張していた。
女性陣は皆、別の場所で待機させている。
今、動画を撮っているのはマキポンだ。マキポンのカメラを通してそのまま恵介のモニターへと映像が送られていた。
ここはルーアン市内にあるヴィエ・マルシェ広場。史実ではジャンヌ・ダルクは今日、この場所で火刑に処される。
しかもただ燃やされるだけではない。現実は残酷である。死した後も彼女は辱めを受けることになっている。
『もう、人だかりが出来始めているな。そろそろマキポンは三脚を設置して動画の方はオートで撮影開始して。虎康はちょっと、女性陣の様子見てこい』
「オッケー、わかった。というか、見に行くの辛い。あいつらもう泣きそうだもんよ」
『こっちだって、同じだ』
「……はぁ。まあ、行ってくるか」
広場の裏通りに麻亜耶とクロエは立っていた。クロエは最初に出会った時と同じ、修道帽に修道服を着ていた。
二人とも相変わらず表情は暗かった。
虎康はゆっくり近づいて、
「これで、今回のミッションは終了するんだ。そうしたら、現代に帰れるな。もうしばらくの間、待っていてくれよ」
できる限りの笑顔を作って話しかけた。
今頃、恵介も小絵と凪咲の二人に似たようなことをしているに違いない。
目の前の二人は虎康の顔を見ると、少しだけ笑を浮かべたが、すぐにまた俯き加減になる。
虎康は何も言わず、家の壁にもたれかけながら、彼女たちが何か言ってくるのを待った。
空は曇っていた。不思議と風は清々しく感じるのだが、この清々しさが返って気持ちを更に暗くさせるようだった。
「旦那さま」
口を開いたのはクロエだった。やっと声を聞くことができた。暗くなりかけていた虎康の気持ちに明かりが灯ったようだった。
「ん」
「あの、旦那さま。わたくし、シスター……失格でございますわね」
「どうして?」
「だって、彼女の最後に立ち会うのが……怖い」
「そうだな」
「はい……」
――こんな時、何を話せばいいのだろうか。
「そういえば、クロエは本職がシスターなのか?」
――わからない。
戸惑っている自分がいる。少しの間だけでもいい。話すことで今、この現実から少しでも離れることができたらとも思う。
「そうでございますわね。でも、なぜこのわたくしめが、このような全く異なる仕事をしているのか、自分でもわかりませんの。おかしいですわね」
「そうだな。俺も似たようなもんだ」
「なぜでございますか? 旦那さまは写真を撮るために、このプロジェクトに参加しているのではございませんか?」
「いや、成り行き上、こうなったって感じなんだよ。何も知らないで恵介と小絵に誘われるがまま、あの公社に来たんだよ。そしたらいつの間にか、ほら、ここにいるってわけ」
虎康は持っていたカメラを使って、クロエを撮影するフリをした。
そんな虎康にクロエはくすりと笑い、
「ふふ、旦那さまもわたくしと似たようなものですわね」
「そうだな」
虎康はクロエに近づいて、大げさに体を動かしながら、彼女を激写するフリをする。
すると、二人の足元から小さな金属音が鳴り響く。
「あら? 今、何か落としませんでしたか?」
「うん? 何だろう?」
それはロザリオだった。
「これはたしか、旦那さまがジャンヌから頂いたものでしたわね」
「そうだな、初めて出会った時に貰ったんだ。そういえばクロエ、あの時、よく聞き取れなかったけど、シノン城でこのロザリオがどうのこうの言ってなかった?」
「あ? そうでございましたわ。わたくし、旦那さまと同じ物を持っていますのよ。はいこれです」
そう言って、クロエが見せたものは、かなり年季が入ってはいたが虎康のものとウリ二つだった。
虎康は自分の目と耳を疑った。
「そんな馬鹿な……俺の耳がおかしかったのか?」
「どうしたのでございますか?」
「どうしたの?」
ずっとそばで二人の会話を聞いていた麻亜耶も、少し心配そうに虎康の顔を覗き込んでいた。
「クロエはそのロザリオをどこで手に入れた?」
「これは、わたくしのお母様から頂いたものでございますわ。お母様もまたお婆様から頂いたらしく、詳しくは存じ上げませんが、お婆様からお話を伺った限りでは二〇〇年以上のものだって聞いていますわ」
「でも、二つとも色はまあ、クロエの方が古く見えるけど、形とか材質も同じっぽくない?」
「やっぱり麻亜耶もそう思うか?」
「うん。でもどうしたの? こういうアンティークものって贋作かもしれないんでしょ?」
「いや、それはあり得ない。なぜなら、これを貰ったとき、ジャンヌは言ったんだ。このロザリオは自分が作ったものだから世界中、どこ探しても二つしか無いって」
「でも、ジャンヌも持っているんでしょ?」
「どういうことでございましょうか?」
「俺に考えがある。ちょっと試してみたいことがあるんだ。二人とも、耳を貸して――」
虎康は周りの人に聞こえないよう、麻亜耶とクロエにボソボソと話した。
虎康がいない広場ではもう間もなく、処刑が始まろうとしていた。
広場の中央にはすでに帽に縛られたジャンヌが群衆の目に晒されていた。
「遅いよ。何してるんだろうね? 虎康は」