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『そんな、まだあたしたちと同じくらいの歳なんだよ。可愛そうだよ、助けようよ』
『それはできないよ。麻亜耶』
 言葉に窮するクロエに変わって、マキポンが静かに答えていた。
『どうしてよ?』
『そんなことしたら、現代に帰ったとき僕たちの国は無いかもしれない。もしかすると、クロエも僕もこの世に生まれてこなかったことになるかもしれない』
『あ――』
 麻亜耶はそれ以上、何も言えなかった。
『麻亜耶』
 小絵だ。ミッション中、彼女はあまり話に入ってこないが、いつもそばにいる。彼女が発言するのは珍しいことだった。
『麻亜耶。お前もチームの一員なら私情を持ち込むな。我々は歴史を変えるために、こんなことやっているわけじゃないんだ』
『そんなこと、わかってる……わかっているけど……』
『一四三一年五月三一日。この日、彼女は火刑に処される。我々はこれもレポートする。今のうちに考えておくんだな麻亜耶。この日は無理しなくて出なくてもいい』
 小絵……自ら辛い役をかって出たか。
 ――ありがとうな、小絵。
 虎康は口元を少し伸ばして笑を浮かべ、ヘッドセットに声をかけた。
「麻亜耶」
『……何よ、虎康』
「俺も麻亜耶と同じ気持だ」
『……うん』
「それにここにいる、みんなも麻亜耶と同じ気持ちだ」
『……うん』
 虎康は顔を上げ、大広間のどこにいても聞こえるくらい大きな声で言った。
「あのさぁ! 歴史って振り返ってみれば悲劇も多いじゃん! だけどさあ、人生ってそれだけじゃない。楽しいことだってたくさんあるんだぜ。立派に生きたって証だ! 俺たちはそいつが立派に生きたっていうことを伝えるんだ!」
『立派に生きたという証……』
 虎康は麻亜耶に頷いて見せて、
「確かにさあ、辛いのも目撃すっかもしれないけど、俺たちには周りを見渡せば仲間がいるんだぜ。だから、辛いと思ったら共有すればいい! 今、俺たちには七人も仲間がいるんだ。辛かったらみんなで七等分しようぜ。そして楽しいことは七倍だ!」
 そして、最後に虎康は静かに言う。
「そうだよな、みんな」
 全員が微笑んで頷いた。
「虎康、ありがとう!」
 麻亜耶は少し離れた所から、手を広げ腕をぶんぶん振っていた。

「こら……」
「あん?」
「余を無視してお前たちは、何の話をしてるのじゃ? 余も仲間に入れろ」
「嫌だよ。それよりほら、ジャンヌ様がお前に話をしたがっているようだぞ。ありがたく話を聞け」
「わ、わかった。それでは話を聞こうぞ」
 ジャンヌはシャルルに王太子の前に進み、
「虎康、あなたもこのまま私の話を聞いてください。ですがこれから話すことは、この場にいる人たちだけの秘密です。決して他の人に教えないでください。王太子様、お約束できますでしょうか?」
「うむ。よかろう。それで何の話じゃ?」
「王太子様の体には徴があると聞いております」
「うむ、あるな。こう見えても余は脱いだら凄いのじゃ。実を言うとな我が王家の者には時々、同じ徴を持つ者が現れるそうじゃ。余は母君と同じ徴を持っておるのじゃ」
「では、失礼いたします……」
 ジャンヌは突然、虎康と王太子に背を向けると、服に手をかけ上半身裸になろうとしていた。

「マキポンは見るな!」
 ジャンヌの真正面に立っていた麻亜耶とクロエがマキポンの目を隠す。

「いかがですか? 王太子様と同じものでしょうか?」
 虎康以上に驚いていたのは、シャルル王太子だった。虎康はカメラのシャッターを切っていく。
 実際には痣なのだが、少女の背中に天使の片翼が大きく描かれていた。
「これは……素晴らしい徴じゃ。じゃがなぜ、そちの体にあるのじゃ?」
「お噂によれば、王妃様は王太子様をお産みになられた後、もう一人お子をもうけになったとか?」
『王妃様とはイザボー・ド・バヴィエール妃のことですわ』
 クロエが解説を加える。
「なぜ、そちがそれを知っておる? それは側近の者しか知らないはずじゃ」
「そして、お子のお名前はフィリップ」
「――っ! そちはもしや――いや、そんなはずは無い」
 ジャンヌは上着を羽織るようにして着ると、虎康と脂汗をかいているシャルル王太子の方へ振り向き、
「生まれ変わりではありません。お兄様」

 虎康は唾を呑み込んだ。ヘッドセットのスピーカーからも、ゴクリという音がいくつも重なって聞こえてきていた。

「私はこれから、オルレアンへと向かいたいと思います。兵と許可をお与えください」
「うむむ。平民。そちはどう思う?」
「はあ? なんでそこで俺に相談するんだよ。ったく面倒くせえやつだなおめえは。要はお前、王になれるチャンスだぞ。お前にこんなに可愛くて綺麗な妹がいたなんて、俺は認めたくねえしちょっと悔しいけどよ。兄貴なら可愛い妹の願い、聞いてやってもいいんじゃねえの? なんかぁ、今、流行ってんだってよ。妹萌え〜みたいなやつ? 俺なら即答でオッケー出しちゃうね。お前も流行に乗った方がいいんじゃねえの?」
「おお! さすがは余の国が誇る平民じゃ。能なしの臣下どもとは言う事が違う。余が王になった暁には、『どこにでも行ける券』をやろうぞ。では、ジャンヌ。余だけでは決められぬゆえ、しばし待つが良い」
「ありがとうございます。そして、虎康も。みんなもありがとう」
 ジャンヌは一礼すると、踵を返し大広間を後にした。

 虎康たちはチロリあは〜ん号の前にいた。
「みなさま、お疲れさまですわ。ここのミッションはこれで完了ですわ」
「次はいつの時代に飛ぶの?」
 麻亜耶がクロエに尋ねる。
「次は、一四二九年七月一七日。ランスのノートルダム大聖堂ですわ。ここで戴冠式が行われ、あのピエロが正式に王となるのですよ」
「ん〜、ジャンヌというよりもあいつの晴れ舞台が中心だからあまり興味ないな。その次は?」
「その次は、一四三〇年五月二三日ですわ旦那さま。ここからは辛いかもしれませんわね」
「この時は一体、何があったの?」
「ジャンヌが敵に捕まってしまうんだ」
 クロエに辛い言葉を言わせたくなかった。
 虎康は割り込むようにして麻亜耶に言った。
「そして恐らくその次が、最後の一四三一年五月三〇日。そうだよな?」
「うん、そうだね」
 マキポンが答える。
『よし。だいたい確認できたところで、このまま次のミッションへ進むぞ。準備でき次第、みんな出発だ』
 モニターから、恵介が皆を促す。

 準備は滞り無く終わり、次の時代へと出発した。

作品名:HOT☆SHOT 作家名:櫛名 剛